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第2章 出会いは恋の予感?-4



「オレが絶対に麻衣姉のこと見つけちゃるけー! なんてエラソーに言ってみたはええけど

どうすりゃええんの?」

 勝弥は麻衣の部屋を見上げ、ひとりごちると自転車のペダルに足を掛けた。

「悩んでても始まらん! 行ってみるか」

 勝弥は自分に喝を入れると、自転車を漕いだ。

が、妙にペダルが重い。不審に思った勝弥は自転車の前タイヤを見た。

ペチャンコだった。嫌な予感がしながらも、後ろも見てみる。見事にペチャンコだった。

明らかに人為的なパンクだ。

「おいおい、マジか? オレ修理代なんか持っとらんのんで。ったく、誰なー? こんなこ

とするんは!」

 言ってみたとこで、犯人が出てくるわけでもない。

「もしかして、麻衣姉の行方不明と何か関係があるんじゃ……。んなわけないか。しゃーな

い。自転車はここに置いてくか」

 一人で言って一人で納得する。

「あーっ! けど、オレどうやって目白まで行けばええんの?」

 勝弥はその場に座り込んで頭を抱えた。が、すぐに何か思いついたように手を叩くと、勢

い良く立ち上がる。

「そうじゃ。これでセンパイに電話すりゃええんよ」

 勝弥はリュックサックの中からテレフォンカードを取り出すと、公衆電話を探した。しか

し、携帯電話の普及で今では公衆電話の数も減り、探すのも一苦労である。

「そういえば」

 勝弥は公園の近くに公衆電話があったのを思い出した。

 真夏の暑さも忘れて、勝弥は全力疾走で電話ボックスに駆け込んだ。テレフォンカードを

入れ、祥子の探偵事務所のナンバーを押す。

「タンマ!」

 勝弥は慌てて受話器を戻した。

 自転車がパンクさせられて、身動きが取れないから迎えに来てほしいなどと電話すれば、

間違いなく祥子の逆鱗に触れることになるだろう。事務所を追い出される可能性も出てくる。

できればそれだけは避けたい。

「オレってつくづく運がねえ」

 勝弥は毒づくと、電話ボックスの中でしゃがみこんだ。疲れがドッと押し寄せてくる。

 電話ボックスはサウナのように暑かった。

 勝弥は電話ボックスのドアを開けて、外の風を入れた。生暖かい風が入ってくるが、ない

よりマシだった。

「そーいや」

 典子の言った言葉を思い出した。佐知恵は今どうしてるだろうか。

「電話してみちゃるかー」

 勝弥は立ち上がると、実家の電話番号を押した。しばらくコールが続くと、聞きなれた懐

かしい声が返ってきた。

「母ちゃん?」

『このバカ息子! もう泣き事言いに電話してきたんね?』

 佐知恵らしい第一声が返ってきた。

「バカ言うな! オレがおらんようになって母ちゃんが泣きょうるかー思うて、忙しい中わ

ざわざ電話しちゃったんじゃろうが!」

『お前がおらんようになって母ちゃんも父ちゃんもせーせーしとるんじゃけー、帰ってこで

んでもええけーな』

「そぎゃなことはわかっとらー! 頼まれても帰らんわー!」

 売り言葉に買い言葉。勝弥は啖呵を切ると、受話器を置いた。

「相変わらずじゃのー」

 自然と笑い声がもれる。

落ち込んだ時はいつもああやって憎まれ口をたたいて元気付けてくれる。

「よっしゃー、がんばんぞ!」

 勝弥は電話ボックスから出た。

真上に昇った太陽がじりじりと照りつける。アスファルトに卵でも落としたら目玉焼きで

も焼けそうだった。

 佐知恵と怒鳴りあったおかげで喉が渇いた勝弥は、水を求めて公園に入った。

 この時間帯の公園は、公園デビューを見事に果たした母子たちが大半を占めている。

昨夜の少女を思い出す。

 幽霊だったのだろうか? それとも、夢? いや、夢ではないことは、体の痛みが物語っ

ている。あの殺気も覚えている。祥子をも上回る実力者だ。

 勝弥は少女がいたブランコに目を向けた。

「ありゃっ?」

 母子たちの中で一人の少女がブランコを揺らしていた。髪を二つに束ねているが、間違い

なく昨夜の美少女である。




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