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第2章 出会いは恋の予感?-5


「幽霊は昼間には出てこんよのー」

 勝弥は導かれるようにブランコの方へと歩いていった。

「あの」

 勝弥が声を掛けると、うつむいていた少女は驚いた顔でこちらを見上げた。同時に、勝弥

は振り返った。

殺気もなければ誰もいない。

 勝弥は背後に誰もいないことを再確認すると、改めて少女に向き直った。

 大きな瞳に見つめられ、勝弥は一瞬言葉に詰まった。

「こ、ここんにちは。毎日暑いよね?」

 慣れない標準語(のつもり)をどもりながらも話し掛ける。

 しかし、少女は困惑した表情でこちらを見ているだけで、何も答えてはくれない。

わちゃぁー、めっちゃ警戒しとるじゃんか。

 勝弥は少女の警戒心を解くため、昨夜のことを話す。

「昨日の夜もここで会ったよね?」

少女は大きな双眸を更に大きくした。

「私、昨日の夜にここにいたんですか? それって何時ですか? 何してましたか?」

「へ?」

 少女の予想外の質問攻めに、勝弥はあっけに取られながらも答える。

「えっと。十時過ぎかな。今みたいにブランコ漕いでたけど」

「やっぱり……」

 少女は再びうつむいた。体が小さく震えたかと思うと、スカートの上に涙が落ちた。

げげっ!

 焦った勝弥は涙を拭くものを探した。すると、ジーパンのポケットからポケットティッシ

ュが出てきた。

「これで涙拭きーや」

 少女の前にしゃがみこんだ勝弥は、ポケットティッシュを差し出した。

 刹那。

 勝弥の表情は凍りついた。

 そのポケットティッシュは新宿でアルバイトしていた女の子が配っていたテレクラの広告

だったのである。

 勝弥は慌ててポケットティッシュを引き戻すと、一枚だけ取り出して少女の前に差し出し

た。少女は気が付かなかったのか、無言でティッシュを受け取った。

「何か辛いことでもあったんか? オレでよかったら相談に乗っちゃるで。こう見えてもオ

レ探偵じゃけー……だからさ」

「探偵、さん?」

「そっ。新宿に事務所だってあるんだ」

 脳裏に憤怒の形相の祥子が浮かんだが、美少女の涙で思考回路が麻痺した今の勝弥には祥

子の存在など恐れるに足りない。

 勝弥は空いていた隣のブランコに腰を降ろした。

 少女はなかなか口を開こうとはしなかった。普通初対面の人間に悩みなど打ち明けたりし

ないものだ。

 勝弥は少女を安心させるため、自己紹介を始めた。

「オレの名前は、東勝弥。今年高校を卒業して、尾道から上京してきたんだ。いろいろと訳

あって今は中学ん時のセンパイがやってる探偵事務所に厄介になってるんだ」

「探偵さんじゃないんですか?」

 するどい突っ込みが少女の口から出た。勝弥のウソは五分ももたなかった。

「ごめん、探偵ってウソついて……」

 少女は騙されたと知って明らかに警戒の色を強めた。好感度はガタ落ちだった。しかし、

勝弥は少女の警戒心を再び解くため、今度は本当の自分を見せた。

「オレ本当はアクションスターになりたいんだ。けど、東京ってとこは厳しくって冷たいと

こじゃけー、いろいろと苦労しとんよ」

 勝弥は上京してからの三ヶ月間を少女に語った。

「大変だったんですね。あの、元気出してくださいね」

「ありがとな。って、オレがなぐさめられてどうするんの?」

「あ……」

 いつの間にやら立場が逆転していた。

 さっきまで泣いていた少女は、小さな笑い声をもらした。勝弥は少しうれしかった。やは

り美少女は泣いているより笑っている方がかわいい。

「私、叶陽香って言います」

「陽香ちゃんか。かわいい名前じゃな」

 誉めたつもりだったが、少女――陽香はまた表情を暗くした。

「この名前、実感がないんです」

「実感がない?」

「三年前の火事で両親を失って、記憶もなくしちゃったんです」

「それって、記憶喪失ってやつ?」

 勝弥にはピンとこなかったが、祖父のボケと違うことだけはわかる。

「今はお兄ちゃんと二人で暮らしてるんです。お兄ちゃんはとてもやさしくしてくれます。

でも、私はそんなお兄ちゃんのこと思い出してあげられない」

「………………」

 さすがの勝弥も掛けてやれる言葉が見つからなかった。

「私、夢遊病だし。学校にだって行ってないし。だからって何かをするわけじゃないし。お

兄ちゃんには迷惑掛けてばかりで。こんな私はいない方がお兄ちゃんは幸せなんじゃないか

なって」

「それは違うぞ! いない方が幸せなんてことは絶対にないっ!」

 勝弥は典子のことを思い出していきり立った。肉親を失った者の悲しみを勝弥は知ってい

る。

「例え思いだせんでも、迷惑掛けたって、血の繋がった家族じゃろうが! そんなこと気に

する方がおかしいわ! だから、いない方がいいなんて二度と言うんじゃないぞっ!」

息を荒くして一気にまくし立てた勝弥に、陽香はビックリした瞳を向けていた。その大き

な双眸から涙がこぼれてる。

「あ、悪ぃ。大きな声出してしもうて」

「違うんです。私を叱ってくれた人いなかったから、何かうれしくって」

 陽香はぶるんぶるんと小さく首を左右に振った、その仕草がたまらなくかわいかった。

 勝弥は陽香に心を奪われていたことを実感した。

ここは何か元気付ける言葉をかけるべきだよな。

 勝弥は必死に考えた。好感度を上げるチャンスである。

そして、勝弥が思いついた言葉とは。

「思い出せないなら、また一から作りゃいいんよ。これからの陽香ちゃんの思い出の一ペー

ジにこのオレも」

 決まった。

 勝弥は心の中でガッツポーズを取った。もっともこのセリフは、昔見たマンガの一シーン

の受け売りだが。

「ありがとうございます。おかげで少し気が楽になりました。お兄ちゃんが心配してるとい

けないから、もう帰りますね。それじゃ」

「へ?」

 陽香はペコリとお辞儀すると、歩き始めた。

おいおい、普通こういう展開だと『また会ってくれますか?』とかって言って、恋へと進

展していくもんじゃないんか?

 せっかくのチャンスを逃すわけにはいかない。勝弥は陽香を追いかけた。

「陽香ちゃん、家まで送ってちゃるよ」

「大丈夫です。すぐそこですから」

「でも」

 勝弥は背後で殺気を感じて言葉を切った。この殺気は昨夜と同じだ。

 勝弥は振り返った。

 トレーニングウェア姿の長身の男がするどい眼光を発して、こちらを見下していた。勝弥

は負けずと睨み返した。しかし、男に勝弥の睨みは通用しなかった。男は有無も言わさず、

勝弥の胸倉をつかんでくる。

「陽香に何をした?」

「何もしちゃあなぁわ!」

 勝弥は男の手を振り払う。同時に男の上段廻し蹴りが飛んでくる。勝弥も応戦に入ろうと

身構えた時。

「お兄ちゃん、やめて!」

「お兄ちゃん?」

 陽香の言葉に気を取られた勝弥は、男の上段廻し蹴りを側頭部にまともに食らった。

「またかよ……」

 視界がぐにゃりと歪んだ直後、勝弥は気絶した。




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