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獄門道中閻魔大王への道  作者: 春と桜


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7/11

地獄の国

いつもありがとうございます!

久しぶりの投稿となってしまいました!

 

「とりあえず街へ行くぞ。話はそれからだ」

「閻魔大王城ちゃうん?」

「魔王城はかなり遠いい。今の俺たちを見ろ。無一文な上にお前は常識もない」


 その言葉に私は黙った。言われてみればその通りだった。数百万年訓練しかしていない。人の暮らしなど、とうの昔に忘れていた。

 そうか、普通は寝なきゃいけないし食べ物も毎日食べるものなんだっけ。

 自分で言って少し虚しくなった。


 川沿いの獣道を歩く。草が風に揺れ、青々とした葉が陽光を反射していた。川面には白い光が踊り、見上げれば雲がゆっくりと流れている。ただそれだけの景色なのに、私は何度も立ち止まりそうになった。


 地獄に空はなかった。血の色も鉄の匂いも怒号もない。世界はこんなにも穏やかだったのか。


「遅いぞ」

「ねえ、イナリ。空って青いんやね」

「何を当たり前のことを…」

「数百万年ぶりや」

 イナリは少しだけ黙った。そしてそれ以上は何も言わなかった。


 山道を下りるにつれて風が変わる。草木の匂いに混じって、どこか香ばしい匂いが漂ってきた。味噌だろうか。醤油だろうか。忘れかけていた人の暮らしの匂いだった。


 やがて木々が途切れ、視界が一気に開けた。


「……うわ」



 山の麓に巨大な街があった。


 白壁の建物がどこまでも並び、黒い瓦屋根が波のように連なっている。大通りを中心に無数の路地が枝分かれし、その全てに人の営みが詰め込まれているようだった。


 街の奥には山のように大きな城まで見えた。赤い橋が川を跨ぎ、色鮮やかな(のぼり)が風を受けてはためいている。


 軒先には無数の提灯。

 まるで時代劇の中だった。

「ここが……地獄?」

羅生街(らしょうがい)だ」


 様々な妖怪達が活気のある暮らしをしていた。百鬼夜行その言葉が脳裏によぎった。


 私の知っている地獄は訓練所だけだった。血の池と針山と戦場しか知らなかった。だから初めて知った。地獄にも生活があったのか。


「驚いたか」

「そら驚くやろ。一応元人間やし」

 イナリは嬉しそうに街を見つめている。

 商業の神様だからだろうか。こういう景色が好きなのかもしれない。私たちはしばらく街を眺めていた。


「行くぞ」

「うん」


 石段を下るたびに街の音が大きくなる。まるで祭りの様な光景だった。


「おう姉ちゃん!!!見ねぇ顔だな!!!」

「焼きたての鮎どうだ!!!」

「そこの兄ちゃん男前だな!!!うちの娘どうだ!!!」

「馬鹿野郎!!!うちの娘の方が先だ!!!」

 門をくぐった瞬間、四方八方から声が飛んできた。


 焼き魚の匂いがする。

 沢山の食べ物の匂いが鼻の奥が痺れるほどに懐かしかった。


 腹が盛大に鳴った。

「お腹減った」

「さっき死ぬほど食ってただろ」


 石畳の大通りを歩く。子供たちが走り回り、店主が怒鳴り、客が笑う。天狗が屋根の上を飛び、鬼が酒を飲み、河童が魚を売っていた。


 誰も彼もが生き生きしていた。

 私の知っている地獄じゃなかった。


「姉ちゃん、その白髪は地毛か?」


 魚屋の河童が声を掛けてきた。私は自分の髪を摘まんだ。


「せやで」

「珍しいなぁ」

「どう?私美人?」

 魚屋が吹き出した。


「はっはっはっは!!!」

「べっぴんだな!!!」

「確かにべっぴんだ!!!」


 周りの客まで笑い始める。店先が笑い声で溢れた。街の空気まで笑っている気がした。


 私もつられて笑った。

 蘭子ちゃんなら絶対に綺麗よぉぉぉぉって抱きついてくるだろう。

 佐藤さんなら似合ってますねって笑うと思う。

 そう思うと少しだけ寂しかった。


 ……思い返せば、上司を庇っただけなのに地獄送り。数百万年無給で訓練。退職金なし。挙句の果てに処刑。どう考えても労災案件である。


「なぁイナリ」

「なんだ」

「商業の神様なんやろ?」

「そうだが」

「イナリを小突けば大判小判ざっくざく?」

「お前俺を舐めてるのか」


 イナリは自分を落ち着かせる様に天を仰いでから言った。

「無理だ。神様は打ち出の小槌じゃない」

「上司庇っただけなのに数百万年無賃で働いたんですよ。ケチ」


 私は心底がっかりした。


 商業の神様と聞いた時は金銀財宝を降らせるくらいできると思っていた。

 なのに無理とはなんだ、神様のくせに。


「神様って役立たずなんやね」

 しまった、つい本音が。


「……お前の来世貧乏にしてやってもいいんだぞ」

 …くっ!!職権濫用にも程がある。私は全力でゴマをすることを今決めた。


「イナリ様は世界一のイケメンです」

「続けろ」

「歩くだけで絵になります。イナリ神万歳!」

「うむ、苦しゅうない」

「敷地に祠を建てるので来世は大富豪でお願いします」

「本当にどつくぞ」


 そんな馬鹿話をしながら歩いていた時だった。


 目の前を黒い影が横切り、屋台から魚が飛んだ。

「うおおおおお!!!」

「またお前かぁぁぁ!!!」

「猫又だ!!!捕まえろ!!!」

代表作を毎日更新しております!

【暁の女帝〜狛犬と異世界革命〜】

良ければご覧ください!


それから、こちらの作品の方も今後更新頻度を上げていく予定です!引き続きよろしくお願いします!

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