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獄門道中閻魔大王への道  作者: 春と桜


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泣いた赤鬼

どうもはじめまして春と桜です。

あたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。

それからまた数万年が経った。


 戦闘訓練は続いた。殴られて、吹き飛ばされて、立ち上がってを繰り返した。優秀な者は引き抜かれていった。私だけが残った。

 そして今日。

最後に残っていた一人も呼ばれていった。


「第八兵団へ異動!!!」

「ありがとうございます!!!」

 その背中が見えなくなる。

訓練場には私しかいなかった。

数百万年続いた訓練所。何百人もいた同期。

気付けば誰もいなくなって、広い訓練場の真ん中に私だけが立っていた。


「……あれ」


 なんだろう、急に怖くなった。あまりにも静かだった。


「整列」


 鬼教官の声が響く。

 私は反射的に背筋を伸ばした。

 体に染み付いた習慣だった。


鬼教官の顔を見た瞬間だった。

嫌な予感がした。

今まで見たことのない顔をしている。


「柱間」

「はい」


「百合川蘭子と佐藤が戦死した」


世界が止まった。

何を言われたのか分からなかった。

頭が理解を拒否した。

聞き間違いに違いない。


「……え?」

「戦死した」

「う、うそだ!!」

「……」

「待ってるって言ってた!!」

「そんなことあるはずがない!!」

「そんなのおかしい!!」

「……」


否定も肯定もしない鬼教官を見て、私の中で何かが壊れた。

足が震え呼吸ができなかった。

視界が歪む。胃の中のものを全部吐いた。

何度も吐いた。何も吐くものなんてなかったけれど、それでも吐き続けた。


「なんで」

「……」

「なんで?」

「閻魔大王様が突撃を命じられた」


頭の中が真っ白になった。

長年苦楽を共にしたマブダチだった。


「許さない」

「……」

「許さない!!」

「……」

「許さない許さない許さない許さない許さない許さない!!!」


私は叫んだ。叫んで叫んで叫び続けた。

数百万年分の怒りだった。数百万年分の悲しみだった。

むしろ今まで狂わなかった方がおかしい。

何度も狂いたかった。

何度も壊れたかった。

でも壊れることすら許されなかった。

その瞬間だった。

視界の端で白髪が落ちた。

肩へ流れた髪が真っ白になっていた。

ずっと変わらなかった黒くて艶のあった自慢の髪が全部白くなっていた。


「返せ」

「……」

「返せよ」

「佐藤さん返せ!!!」

「……」

「蘭子ちゃん返せぇぇぇぇぇ!!!」

私は鬼教官へしがみついた。

胸ぐらを掴んで泣いた。

子供みたいに泣いた。数万年ぶりに泣いた。

鬼教官はただ抱きしめた。


「すまない」

「……」

「本当にすまない」

鬼教官の声も震えていた。

初めて聞く声だった。

私はゆっくり顔を上げた。


「柱間」

「……」

「閻魔大王様からお前の廃棄命令が出た」


思考が止まった。何も感じなかった。

悲しすぎると人は無になるらしい。私は初めて知った。


「……」

「お前を逃したい」

「だが俺は無力だ」

鬼教官は拳を握った。爪が掌へ食い込む。

血が流れている。それでも強く強く握りしめていた。


「命を懸けることすら縛られている」

「……」

「何もできない」

怒鳴ることしか知らないと思っていた。

鉄みたいな鬼だった。


だが違った。


悠久の時を一緒にいた。

最後はほとんどマンツーマンだった。

父親みたいな鬼だった。

冗談など一度も言ったことのない鬼だ。


 ああ。


 本当に終わるんだ。


 そう思った。


 廃棄。魂の消滅。輪廻転生すらできない。

全部終わる。何も残らない。クソ閻魔め。


 絶対に許さない。


「俺ができるのは」


「せめて痛覚を消して」


「食いたいものを用意してやることだけだ」


私は少し考えた。そして答えた。


「お稲荷さん」

「分かった」


死ぬ場所は血の池を選んだ。始まりの場所だ。マブダチとの思い出の場所。

血の池の岸に座る。目の前には山ほどのお稲荷さん。


 前世で一番好きだった。


 味がついた食事なんて贅沢だ。

 私は泣きながら食べた。

 腹が裂けるくらい食べてやった。


「閻魔大王許すまじ」


「天国の奴ら絶対勝てよ」

 

「神様万歳」


鬼教官が作ってくれたお稲荷さんは涙の味がした。


「柱間牡丹。今から不死の呪いを解く」


鬼教官の元へ歩く。涙で顔がぐしゃぐしゃだった。

それでも笑った。


「お世話になりました!!!」


 鬼教官の顔が歪んで膝から崩れ落ちた。

大きな身体が震えていた。何万年も怒鳴り続けた鬼が。何万年も訓練生を見送った鬼が。

声を上げて泣いていた。私はそれを見ながら笑った。


「我が人生悔いしかなし!!」


私は血の池へ飛び込んだ。

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