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獄門道中閻魔大王への道  作者: 春と桜


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ハロー絶望

どうもはじめまして春と桜です。

あたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。


 蘭子と出会ってから五年が経った。


 私たちは相変わらず針山を走っていた。慣れたくなかったが慣れてしまった。人間の適応力は恐ろしい。


「牡丹ちゃぁん!!!背中刺さってるわよぉ!!!」

「知ってますぅ!!!」

「抜いてあげるわぁ!!!」


 嫌な予感がした。全力で逃げた。だが蘭子から逃げ切れたことは一度もない。次の瞬間には針を抜かれ、私の悲鳴が針山へ響いた。


「ぎゃあああああ!!!」

「元気でよろしい!!!」

「よろしないわ!!!」


 そんな日々を続けたある日だった。


「整列!!!」


 鬼教官の声が響いた。私たちは反射的に並ぶ。身体が勝手に動いた。長年の訓練とは恐ろしい。


「本日は休日だ!!!」


 一瞬、誰も反応しなかった。理解が追い付かなかったのである。そして理解した瞬間、地獄が揺れた。


「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「寝れるぅぅぅぅぅ!!!」

「愛してるわ教官んんんん!!!」


 蘭子が飛び付いた。投げ飛ばされた。休日なのに綺麗な放物線だった。


「起床ォォォォォ!!!」

「短ぁぁぁぁぁい!!!」


それを気が遠くなるほどの時間繰り返した。

途中から誰も正確な年数を数えなくなった。


「今何年目ですかねぇ」

「知らん」

「アタシ三万年くらいだと思うのぉ」


 蘭子が適当なことを言う。


「教官!!!」

「なんだ!!!」

「私たち何年くらいここにいるんですか!!!」


 鬼教官は少し考えた。


「数万年くらいだ!!!」

「雑ぅぅぅぅ!!!」

「数万年ってなんですか!!!」


 全員が叫んだ。鬼教官は不思議そうな顔をしていた。たぶん本当に分からないのだと思う。


「現世って滅んでます?」

「滅んでない!!!」

「なんでですか!!!」

「地獄と現世では時間の流れが違うからだ!!!」


 詳しく聞いた。だがよく分からなかった。数万年いても現世ではそこまで経っていないらしい。便利なのか不便なのかは分からない。


 気付けば同期の顔ぶれもかなり変わっていた。途中で訓練に耐え切れなくなった者もいた。別の部署へ回された者もいた。鬼になったんじゃないかと思うくらい顔付きが変わった者もいた。


「なんで私たち残ってるんやろな」

「仲良しだからじゃないですか?」

「マブダチだからよぉ!!!」


 蘭子は嬉しそうだった。

 そんなある日だった。


 訓練所へ呼び出された私たちは妙な違和感を覚えた。空気が違う。鬼たちの数も多い。何より鬼教官が妙に真面目な顔をしていた。


 嫌な予感と言うものは的中する。


「整列!!!」


 私たちは並んだ。周囲には何百人もの訓練生がいる。その全員が数万年の地獄を生き延びた連中だった。


 鬼教官は私たちを見渡した。


「よく生き残った!!!」

 初めて褒められた気がした。

 周囲がざわつく。

 私も少し嬉しかった。


 だが次の言葉で吹き飛んだ。


「基礎訓練はこれで終わりだ!本日からは戦闘訓練を開始する!!!」


 静まり返った。

 嫌な予感が当たった。

 やっぱり地獄だった。


 訓練場の奥には広大な闘技場が見える。無数の木剣。無数の槍。無数の盾。そして鬼たち。


 どう見てもろくなことにならない。


「ここからは三人一組で行動する!!!」


 鬼教官の声が響く。

 周囲がざわつく。

 今までの苦行とは違う。

 今度は相手がいるのだ。


「組み合わせはこちらで決める!名前を呼ばれた者は前へ!」


「柱間牡丹!!!」

「佐藤!!!」

「百合川蘭子!!!」


 私たちは顔を見合わせた。


「マブダチチームよぉぉぉぉ!!!」


 戦闘訓練は想像していたより酷かった。

血の池や針山は自分との戦いだった。だが今度は違う。相手がいる。殴られるし殴り返される。数万年訓練してきた連中が相手なのだから当然強い。私は開始数秒で三回吹き飛んだ。


「ぎゃああああ!!!」

「牡丹ちゃぁぁん!!!立ちなさぁぁい!!!」

「無理やぁぁぁ!!!」


 地面へ転がる私の横を蘭子が駆け抜けていく。その拳が訓練生を吹き飛ばした。なんでか木刀を持っていなかった。


「蘭子ちゃん木刀は?!」

「チリになったわ!!!」

「は?」

「握りしめたらチリになったの!!!軟弱な棒よねぇ!!!」


 違う。絶対違う。木刀が悪いんじゃない。お前がおかしいのだ。周囲の訓練生も引いていた。鬼たちですら少しだけ引いていた。


「どきなさぁぁぁぁぁい!!!」


 蘭子の拳が振り抜かれる。三人まとめて吹き飛んだ。木刀を使っていた方が安全だった気がする。一方で佐藤さんは全く別の意味で目立っていた。


「右です」

「え?」

「次は足払いです」

「え?」

「その後に突きます」


 全部当たった。


 佐藤さんは特別強い訳ではない。だが異様に相手の動きを読む。何を見ているのか知らないが全部見抜いていく。


「なんで分かるんですか?」

「僕、教師でしたからね」

「教師ってそんなことできるん?」

「ちゃんと見てるんですよ」


 こうして戦闘訓練は続いた。何百年、何千年、何万年。地獄ではよくあることらしい。私たちは勝って負けて吹き飛ばされてを繰り返した。


 そして気付けば周りが消えていった。


「第七兵団へ異動!!!」

「おめでとうございます!!!」


 同期の一人が鬼たちに連れられていく。

 また別の日には別の誰かが呼ばれる。優秀な者ほど早かった。強い者、頭の良い者、統率力のある者。鬼たちは目を付けた訓練生をどんどん引き抜いていった。


「元気でねぇぇ!!」


 三人で号泣しながら見送った。

 さらに数百年後。

「百合川蘭子!!!」


 ついにその時が来た。


「はぁい!!!」

 蘭子が元気よく返事をする。

「貴様を近衛兵候補として推薦する!!!」

 周囲がざわついた。近衛兵は地獄でもかなり上の部隊らしい。


「えー嫌よぉ!」

 全員が固まった。

「は?」

「だってアタシ、マブダチと一緒がいいもの!!!」

 静まり返る。鬼教官ですら固まっていた。


「百合川蘭子」

「なぁに?」

「近衛兵だぞ」

「マブダチの方が大事よぉ!!!」

 鬼教官は長いため息を吐いた。


「……近衛兵はイケメンマッチョが多い」

「さらばマブダチ!アタシは行くわ!」

現金な奴だ。でもそんなところも好きだった。

 蘭子は私と佐藤さんへ抱きついてきた。

 肋骨が嫌な音を立てるほど強く抱きしめられる。

「死ぬ死ぬ死ぬ!!!」

蘭子は泣いていた。目がこぼれ落ちる程に。

「アタシ、絶対忘れないわ!アンタ達、一生マブダチよぉぉぉ!!!」

「お手紙書くからねぇぇ!」

そして蘭子はスキップで去って行った。


 一方の佐藤さんも評価は高かった。


 作戦立案。状況分析。指揮能力。どれも優秀だったらしい。鬼たちも何度か声を掛けていたが、なぜか毎回話が流れていた。

「なんでなんです?」

「さぁ……」

そんな佐藤さんにもついに声が掛かった。


「佐藤!!!」

 鬼が名前を呼ぶ。

「はい?」

「近衛兵補佐へ異動だ!!!」

 周囲がざわついた。

 蘭子と同じ部隊だ。

「おぉぉぉ!!!」

 私の方が喜んだ。

「やりましたね佐藤さん!!!」

「そうですねぇ」

 本人は相変わらずだった。

 だが少しだけ嬉しそうだった。

「牡丹さん」

「なんです?」

「助けてもらった恩、一生忘れませんからね」

「助けた記憶あらへんけど」

「血の池です」

「あぁ」

「僕、今でも覚えてますよ」

 佐藤さんは笑った。

 数万年一緒にいたが、あまり見たことのない顔だった。

「何かあったら絶対助けます。蘭子さんと待ってますから。必ずまた会いましょう」

「佐藤のくせに」

「ひどい」

 そして佐藤さんは鬼たちの方へ歩いていく。

 途中で一度だけ振り返った。

「牡丹さん死なないでくださいね」

「死んでますよ」

「確かに」

 そう言って佐藤さんは去って行った。


地獄は静かになった。数万年前、血の池で出会った佐藤さんがいた。

筋肉で沈み続けていた蘭子がいた。

いつの間にか三人でいるのが当たり前になっていた。

地獄の日々も戦闘訓練も。

全部一緒だった。だから乗り越えられた。普通ならとっくに気が狂って私は消滅していたと思う。

遠くでは鬼たちの怒号が響いている。

誰かが木刀を振るっている。数万年見てきた景色だった。


なのに今日は少しだけ違って見えた。

「寂しいな」

思わず口から漏れた。

すると近くにいた鬼教官がこちらを見た。

「どうした柱間」

「なんでもないです」

私は木刀を握る。数万年訓練した。

それでも私は何も変わらなかった。

蘭子みたいな力はない。佐藤さんみたいな頭もない。

 あるのは根性だけだった。

そして地獄は、根性だけで出世できるほど甘くはなかった。

皆さんの1日の最後の時間をほんの少しでも笑顔できていますように。


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