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獄門道中閻魔大王への道  作者: 春と桜


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3/6

だったら底を走ればいいじゃない!!

どうもはじめまして春と桜です。

あたかかく見守って頂けたらなと思っています。よろしくお願いします。


どれくらい泳いだだろう。もう分からない。時間の感覚なんてとっくに消えていた。腕は重いし足も重いし臭いにも慣れてしまった。慣れたくなかった。


「牡丹さぁん……」

「なんですかぁ……」

「日本って良い場所でしたねぇ……」

「血の池がなかったですからねぇ……」


 私たちは黙って泳いだ。血を掻き分け、血を飲み、血に沈みそうになりながら泳いだ。

 そんなある日だった。遠くから船がやって来た。私たちは歓声を上げた。ついに終わりが来るのだ。


「貴様ら!!!」


 船の上には鬼教官が立っていた。全員が顔を上げる。佐藤さんなんて半泣きだった。私も泣きそうだった。


「一年経過した!!!」


 歓声が上がる。一年だ。長かった。本当に長かった。だがそれももう終わる。血の池とはおさらばだ。


「あと少しだ!!!」


 鬼教官はそう言い残して去って行った。私たちは顔を見合わせた。あと少しらしい。なら頑張れる。


「聞きました!?」

「聞きましたぁ!!!」

「あと少しですって!!!」

「やったぁぁぁ!!!」


 そこから私たちは本気になった。どうせあと少しだ。頑張れば終わる。なら頑張ろう。

 血を掻き分けて泳いだ。泣きながら泳いだ。喧嘩しながら泳いだ。友情も生まれた。


 途中で沈みかけた人を引っ張った。溺れた人を押し上げた。消えそうな人を励ました。みんなで生き残ろうとした。


「頑張れぇぇぇ!!!」

「あと少しやぞぉぉぉ!!!」

「教官が言ってたもんなぁぁぁ!!!」


 誰も疑わなかった。鬼教官が言うのだから本当だと思っていた。今思えば純粋だった。


 「貴様ら!!!」

 久しぶりに船が現れた。

「五年経過した!!!」


 全員が固まった。


「……五年?」


 佐藤さんが震える声で言った。私も同じ気持ちだった。なんなら全員同じ気持ちだった。


「あと少しだ!!!」


 鬼教官は爽やかな笑顔だった。


「あと少しって?!」

「あと少しだ!!!」

「便利な言葉やなぁぁぁ!!!」


 私たちの叫びを乗せて船は去って行った。誰も追いかけなかった。追いかける元気もなかった。

 その時だった。佐藤さんが遠くを指差した。最初は誰も見なかった。どうせまた絶望だと思ったからだ。


「牡丹さん」

「なんです?」

「あれ」


 私は顔を上げた。遠くに黒い影が見えた。最初は幻覚だと思った。五年間血しか見ていないのだ。頭がおかしくなっていても不思議ではない。

 だが違った。影は少しずつ大きくなる。近付いてくる。違う。私たちが近付いているのだ。


「陸や……」

 誰かが呟いた。

「陸だぁぁぁぁぁ!!!」


 歓声が上がった。泣く者。笑う者。叫ぶ者…

天国かと思った。地獄だけど。私も泣いていた。


「佐藤さん!!!」

「牡丹さん!!!」

「陸です!!!」

「陸ですねぇぇぇ!!!」


 私たちは最後の力を振り絞った。腕が千切れそうだった。足も動かなかった。それでも泳いだ。


 五年だ。五年間不眠不休で泳いだのだ。今ならオリンピック選手にもたぶん負けない。

 そしてついに陸へ辿り着いた。私は地面へ倒れ込んだ。冷たい。硬い。最高だった。


「陸ってこんな素晴らしかったんですね……」

「わかります……」


 佐藤さんは地面へ頬ずりしていた。知らないおじさんは土へキスしていた。知らないおばさんは泣きながら転がっていた。


 鬼以外全員泣いていた。五年ぶりの陸だった。感動しない方がおかしい。


 鬼たちが握り飯を投げて寄越した。具はない。塩もない。ただの米だった。それでも涙が出るほど美味かった。


「うまい……」

「うまいですね……」

「米ってこんな味やったんや……」


 全員が感動していた。そこへ鬼教官の怒声が響く。嫌な予感しかしなかった。


「食いながら走れ!!!」

 全員固まった。

「次は針山だ!!!」


前方には巨大な山がそびえていた。山肌は黒い鉄のような色をしている。そしてその全てから針が生えていた。短いものも長いものもある。中には人間ほどの長さがある針まであった。


「嫌やぁ……」


 私の本音が漏れた。すると隣の佐藤さんも深く頷く。五年間血の池を泳ぎ切った戦友である。


「嫌ですねぇ……」

「走れぇぇぇぇ!!!」


 鬼教官の怒声が響く。感動の余韻も何もなかった。私たちは握り飯を頬張りながら走り出す。


「休みをくださいぃぃぃ!!!」

 誰かが叫んだ。

「休みはある!!!」


 全員が顔を上げる。

「十年に一度だ!!!」


 歓声が上がる。

「貴様らはあと五年後だがな!!!」


 歓声が消えた。


「鬼ぃぃぃぃ!!!」


 そして針山は想像以上だった。一歩踏み出せば刺さる。転べばもっと刺さる。走れと言われても刺さる。何をしても刺さる。


「当たり前みたいに刺さるやん!!!」

「針山ですからねぇ!!!」

「そういう問題ちゃう!!!」


 私たちは泣きながら登った。すると前方から妙な悲鳴が聞こえてくる。


「どきなさぁぁぁぁぁい!!!」


 山が揺れた気がした。


 全員が振り返る。そこには巨大な人影があった。いや、人影というか筋肉だった。筋肉が走っていた。


「アンタたちぃぃぃ!!!諦めちゃダメよぉぉぉ!!!」


 身長は二メートル近い。肩幅は鬼と大差ない。ピンク色の着物を着ているが筋肉が全く隠れていなかった。


「誰やあれ」

「知りませんねぇ」


 私は首を傾げる。だがどこかで見た気がした。見たことがある。絶対にある。


 そして思い出した。


「あ」


「どうしました?」

「あの人や」

 いた。血の池に。

 五年間ずっといた。


「助けてぇぇぇぇぇ!!!」

「沈むぅぅぅぅぅ!!!」

「誰か押してぇぇぇぇぇ!!!」


 毎日聞いた声だった。


 朝も昼も夜も沈んでいた。なんなら初日から最終日まで沈んでいた。私たちは泳げない人なんだと思っていた。


「アタシの名前は百合川蘭子!!!よろしくねぇぇぇ!!!」

そう言いながら蘭子は転んだ男を片手で持ち上げる。そのまま肩へ担ぎ、さらに別の人間まで抱えて走り出した。


「なんで走れるんですか?!」

「聞いてくれる??」


 オカマは胸を張りながら自分語りを始めた。

「血の池とアタシの相性は最悪だったの!!」

「なんでですか」

「筋肉が重いのよぉぉぉぉ!!!」


 意味が分からなかった。


「五年間ずっと沈んでたんですか?」

「そうよぉぉぉ!!!」

 蘭子はドヤ顔だった。

「沈むことしかできなかったワタシがどうしたと思う??」

「知りませんよ!!!」

「走ったのよぉ!!」

 全員が固まった。


「は?」

「血の池の底を!!!」


 蘭子が親指で自分を指差す。


「沈むなら沈むで構わない!!!だったら底を走ればいいじゃない!!!」

「底は全部針山だったわぁ!!!」

「知ってます!!!」

「だから五年間ずっと走ったのよぉ!!」


 意味が分からない。


「上を泳ぐアンタたちの足元をずっと走ってたのよぉ!!!」

 私と佐藤さんは顔を見合わせた。

「化け物や……」

「化け物ですねぇ……」

いつも応援ありがとうございます!

私の大好きな蘭子ちゃん登場です!

皆さんにも好きになってもらえますように…

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