餌食
「うわー、さすがに2万も3万も軍勢がやってくると壮観だねぇ! 見てみて! 広場に入りきれなくて、道にまで溢れてるよ」
偵察部隊が撤退した翌日には、もう帝国軍が岩山へ通じる道いっぱいに広がって押し寄せてきた。その光景を今朝エルフの郷から戻ってきたロサが、岩山の見張り台から身を乗り出すような勢いで見下ろして、帝国軍の大軍に歓声を上げている。
石動は帝国軍が到着する直前に、帝国軍の別働隊や火事場泥棒のように襲撃してくる可能性があるウィンドベルク王国の軍勢などに備えて、ロサと特別チームの数人をエルフの郷を守るために派遣していたのだ。
本来ならそれはアクィラの役目なのだろうが、アクィラは麓の街での帝国軍の監視と情報収集の仕事があり忙しい。そのためロサに行ってもらったのだが、石動としては帝国軍との激戦が予想されるクレアシス王国にいるよりも比較的安全と思われるエルフの郷にロサを避難させておきたい、という気持ちもどこかにあった。
だがロサは帝国軍との会戦が始まる前に「ツトムの背中を守るのは私でしょ! 」と言って戻ってきてしまう。
しかも案の定、帝国軍から小隊規模の別働隊がエルフの郷を襲撃してきたのを郷の神殿騎士団やエルフ兵たちと一緒に迎撃し、全滅させてから来たというから石動も呆れるしかない。
「それにしても麓の街には帝国軍が溢れているのに、どうやって岩山まで帰ってきたの? 」
「あら、帝国軍が居るのは中央通りだけでしょ? あいつらが入れない裏路地を通れば簡単よ。麓の街にはお兄ちゃんもいるから手伝ってくれたしね」
「それならいいけど・・・・・・もうエルフの郷は大丈夫なんだよね?」
「全然大丈夫よ! 世界樹様も郷の皆んなも張り切ってるわ。帝国軍の奴らもアタシだけで10人は血祭りにあげてやったわね。いや20人だったかも」
「どっちでもいいよ・・・・・・なんならそのまま郷を守っていてくれても良かったのに」
「いや、でも郷の皆んなが、ここは大丈夫だからツトムのところへ行ってやれ、っていうから・・・・・・もしかして迷惑だった? 」
「いや! そんなことはない・・・・よ。 本当は、むしろ帰ってきてくれて嬉しいと言うか・・・・・・」
「え、ツトム・・・・・・」
二人が目と目を合わせて見つめあった時、背後でカプリュスが咳払いをする。
「ウオッホン! お二人さん、邪魔して悪いが、そういうのは後にしてくれないか。いくらなんでも戦の前だというのに緊張感がなさすぎるだろう」
「ああっ、ゴメン! そんなつもりじゃなかったんだが」
「私も! ごめんなさい! 」
眼下に視線を移すと、数百メートル離れた広場の向こう側に帝国軍の軍勢がひしめき合い、隊列を整えようとしていた。
気を取り直した石動は、その様子を改めて冷静に観察しつつ呟く。
「どうやら、あと一時間もしないうちには敵が攻めてきそうな雰囲気だね。親方、こっちの準備はどんな具合? 」
「すっかり準備万端だぞ! いつでも始められるわい」
「よし、では僕らも改めて用意しておくか」
石動は傍に置いていたFG42を取りあげると、マガジンを一度外して弾薬がフル装填されていることを確認し、再びマガジンをカチッというまで差し込んでから、コッキングハンドルをいっぱいに引いて放す。
ジャキンッという音と共にボルトが初弾を薬室に送り込んで前進し、閉鎖された。
セレクターはセミオートにしてある。
隣でロサがマリーンM1895のレバーを操作して初弾を薬室に送り込み、カプリュスは愛銃であるシャープスライフルのレバーを下げてチャンバーに巨大な50-90金属薬莢弾を押し込んでから閉じていた。
マガジンが8本入ったバンダリアも身につけた石動は、胸の高さまである見張り台の障壁の上に左手を乗せ、その上にFG42を委託して姿勢を安定させると、試しに帝国軍にサイトを合わせてみる。
「さあ、いよいよ作戦開始の時間だ! 総員戦闘配置につこうじゃないか! 」
「「 オオーッ! 」」
隊列を整え終えた帝国軍は、兵士たちがその場で足を踏み鳴らし始め、長槍の石突で一斉に地面を突きながら一定のリズムを持って鬨の声を上げ始めていた。
威嚇するかのように大声で叫ぶ万を超える数の兵士たちの声に加えて、槍で地面をつく音が地響きのように加わり、まるで音の大波が押し寄せるような勢いで岩山まで伝わってくる。
自分自身を鼓舞しようと鬨の声をあげる帝国軍兵士たちの心情に、石動も同期したような感覚が身のうちに走って、背筋がゾクゾクするほどの興奮を覚えた。
そしてその時、ついに帝国軍が前進し始める。
動き出した兵士たちは手に長槍を持っていることから見て、貴族領兵たちのようだ。
広場いっぱいに広がった横隊のまま、口々に何か叫びながら、槍を構えて突撃してくる。
銃を持った兵たちはまだ後ろに控えて動きがないところを見ると、こちらの出方を探るための捨て石のような扱いを受けている領兵たちに、石動は内心同情を覚えてしまう。
「まだだ。まだ撃つなよー。もっと近くまで来てからだ」
石動はそう言いつつ、領兵に混じって騎馬で突撃してきている煌びやかなフルプレート鎧を着た指揮官らしい騎士に照準を合わせておく。
突撃してきた領兵たちは岩山からの銃撃がないのを見てとると、その勢いを増して駆けてきて、ついに鉄条網の近くまでたどり着いた。
数メートルの幅に亘って三重四重に張り巡らされた有刺鉄線に突っ込んでは絡み取られて悲鳴を上げる兵が続出したが、それを見た後続の兵たちは鉄条網の切れ目を探してジグザグに張られた有刺鉄線に沿って走りつづける。
すると次第に有刺鉄線の配置に沿って進んだ結果、知らず知らずに鉄条網が漏瑚のように窄まっていたのに気づかずに誘導され、ついには左右から進んできた兵たちが一箇所にまとまり、身動き取れないほど集まった塊が出来き上がった。
「よしっ! 今だ! 」
そう叫んだ石動は、狙いをつけていた目立つフルプレートの騎士に対してFG42の引き金を落とす。
8ミリモーゼル弾の鋭い銃声が戦場に響き渡ったのを合図に、石動の放った銃弾によりフルプレートの騎士が左胸を撃ち抜かれて落馬したのと同時に、ドワーフたちの攻撃の火蓋が切って落とされた。
岩山要塞正面入り口から見て左右に50メートルほど離れた場所にある少し大きめの岩山中腹にある岩肌が、突然扉のようにバンッという音と共に左右に開き、中からガトリングガンの銃身が突き出される。
これも事前に長い時間をかけて準備したもので、岩山要塞から地中を掘り進めて連絡通路を作りつつ、ガトリングガンが配置できるように岩山中腹の内部をくり抜いて拠点としたものだ。
土木工事に長けたドワーフの面目躍如と言って良い代物で、くり抜いた岩山中腹表面には岩肌を偽装した鉄製の扉まで備えており、本丸である岩山要塞に対して出城のような役割を持たせてある。
眼下の帝国軍の領兵たちに対して、岩山出城に備え付けた銃座にとりついたドワーフ兵がガトリングガンのハンドルを回し始めることにより、容赦のない横殴りの銃撃が始まった。
ドワーフ兵がハンドルを回すスピードに比例してそれぞれのガトリングガンは「ドッドッドッドッ」という比較的ゆっくり目のサイクルで発砲されていたが、それが2門あると発砲音が重なり合い、凄まじい轟音となった。
ガトリングガンは大量の白煙と共に50口径の巨弾を撒き散らし続ける。
正面ではなく対象に対して横からの銃撃なので、左右に銃口を振るだけで多くの敵兵を薙ぎ倒すことができるので効果的だ。計算された巧みな鉄条網の配置によりキルゾーンへと誘導されていた領兵たちは、逃げる猶予も与えられずにガトリングガンによる十字砲火の餌食となり、50-90金属薬莢弾を受けて次々と倒されていく。
戦場に2門のガトリングガンの銃声が轟き続け、しかも一向に途切れる様子のない連続した銃撃により、帝国軍兵士はパニックに陥った。
銃弾に倒れていく兵士たちの断末魔の悲鳴と恐怖に駆られた叫びが入り混じり、地獄の様相を呈していく。
銃弾から逃れようしても後続の兵が押し寄せてくるので、後戻りもできなかった。
領兵たちは先に倒れた同僚の死体を盾にして銃弾を防ごうとしては果たせず、自分も死体と化して倒れ伏す者が続出し、死体が山となって積み重なっていった。
一縷の望みをかけて勇敢にも鉄条網の下に潜り込んで逃げようとしても、そこは油や石灰を混ぜ込んだ泥だらけの泥濘地になっているので、進むこともできずにもがいているうちにガトリングガンの餌食となってしまうのがオチであった。
後衛として控えていた第三師団がこの事態に仰天し、慌てて指揮官の指示で岩山出城のガトリングガン銃座へ射撃を加えるために全軍前進を始めた。
しかし、それを見ていた正面の岩山要塞に備えるいくつもの見張り台から、第三師団が射程距離内に入ったところで、石動らも交えたドワーフ兵たちの一斉射撃が行われる。
ドワーフ兵たちの正確な射撃で、最初の一射で指揮官らが狙撃されて倒されてしまい、第三師団の隊列までもが崩れ始めた。
ドワーフ兵の火力は貧弱だし射撃の腕も悪いと聞いていた帝国軍兵士たちは、全く事前の情報と違うという事態に混乱し、気づいた時には既に遅く、最初に舐めてかかっていただけに全ての対応が後手に回ってしまった。
その結果、退却する決断が遅れたために被害は拡大し、ようやく岩山前広場から撤退して麓の街の噴水跡まで戻った時には、参加している貴族領兵の三分の一を超える5千人もの死者と第三師団も1000人を超える死傷者を出す有様となったのだった。
*前回、大騒ぎした腰の痛みもなんとか治ってきて、あとはポンコツエンジンの具合だけになりました。
こちらも小康状態に向かいつつあり、五月中旬の病院での診察の結果待ちといった状況です。
早く良い報告ができるといいなぁ。
【作者からのお願い】
皆さんからいただくご感想やご意見、評価にブックマークなどが、私の燃料になります。
これからも書き続けていくためには、皆様からの応援が不可欠です。
良ければポイント評価やリアクション、ブックマークをお願い致します。




