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異世界スナイパー  ~元自衛隊員が剣と弓の異世界に転移したけど剣では敵わないので鉄砲鍛冶と暗殺者として生きていきます~   作者: マーシー・ザ・トマホーク
第四章 反撃編

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一日だけの停戦

 帝国軍が麓の街の噴水跡広場まで撤退した後、急遽マクシミリアン皇帝の陣幕で開かれた軍議には、参軍している貴族をはじめ中隊長以上の将官や参謀が集まっていた。

 軍議は初めから荒れ模様となる。


「なんだあれは ! 銃撃が絶えることなく、ずっと死を撒き散らしていたぞ! あの悪夢のようなシロモノはなんなのだ ?! 」

「敵にあんなものがあるとは聞いていない ! 貴様らはあれに槍や剣で立ち向かえというのか ! できるというなら貴様がやってみろ! 」

「ドワーフどもの火力は貧弱で恐るに足りないと言ったのは貴様ら参謀ではないか! どう責任を取るつもりだ ? !」

「貴様らの愚かな作戦のせいで、すでに我が領兵の半数が死亡してしまった。我が領からはこれ以上の出兵は考えさせてもらう」


 軍議は先陣を切らされて領兵の被害が甚大だった貴族たちから、マクシミリアン皇帝や参謀らに対する事前情報の誤りと作戦ミスによる責任を追及する声で始まった。


 慌てて言い訳をしながら激昂する貴族らを宥める参謀たちの姿を、マクシミリアン皇帝は苦虫を噛み潰したような表情で眺めている。

 マクシミリアンはため息をつくと、重い口を開いた。


「まあ待て。皆の怒る気持ちは良く分かる。してやられて腹が立つのは吾輩も同じだ。おそらくあれはザミエルが秘匿していた切り札なのだろうな。しかし、ザミエルをよく知る吾輩ですら初めて見たものであるし、あんなものがあると参謀らに予見せよと言うのは酷な話だと思うがどうだ ? 」


 マクシミリアンは一旦言葉を切って、ようやく静まった陣幕を見回す。


「それより問題はあれをどう攻略するかであろう ? 諸君。 このままでは要塞に近づくことすらままならない。誰か良い考えがあれば喜んで聞くぞ? 」


 マクシミリアン皇帝の問いかけに、陣幕内は静まり返る。お互いに顔を見合わせるばかりで、どうしていいかわからない、と言うのが皆の本音なのだろう。


 そこへヨルゲン課長が挙手して発言の許可を求めた。


「陛下、発言してもよろしいでしょうか? 」

「よい。皆もいちいち許可など求めずとも発言を許可する。遠慮なく申せ」

「ありがとうございます。私が愚考いたしますに、現状に陥った一番の原因は敵の情報があまりにも欠如していたことだと考えます。

 例えば、あの行手を阻む忌々しい針金の荊棘の詳しい配置や長さ、そしてその物量などの情報が不足したまま戦闘に突入してしまいました。今後、あの地を攻略するためには、もっと詳細に知る必要があると考えます。

 そしてあの岩山の両側から撃ち込まれる恐るべき兵器の情報があまりにも少ない。設置されているのはあの2箇所だけなのか、それともまだ他にも隠されているのかすらわかりません。私見を述べるとすれば、まだ多くの場所に同様の兵器が隠されていると想定すべきだと考えますが」


 一度言葉を切ったヨルゲン課長は、マクシミリアン皇帝をじっと見つめると言葉を続けた。


「そこで提案なのですが、陛下。クレアシス王国側に一日のみの停戦を申し出てみるのはいかがでしょうか? 」

「バカな ! 」

「キサマ、なにを言っているんだ ! 」

「静かにせよ」


 ヨルゲン課長の提案に怒りの声を上げた幾人かの声をマクシミリアン皇帝が遮る。

 そしてヨルゲン課長を見据えて、マクシミリアン皇帝は尋ねた。


「一日停戦を申し込めば何か有益な情報が得られると申すのか ? 」

「停戦の理由として、戦死した我が軍の将兵の遺体回収を申し出るのです。停戦している間は遺体を回収するためにあの針金の荊棘だらけの広場に立ち入っても攻撃しないとクレアシス王国側に確約させることができれば上出来だと考えます。

 当然ながら、こちらから遺体回収に向かう兵士は武装しないで丸腰で赴くことにすれば向こうも納得する可能性は高いと思われます。申し出を拒否して死体を放置したままにすれば、時間が経つほどに幾千もの死体が腐って疫病の原因にもなりかねませんから、クレアシス王国側にもメリットは大きいのではないでしょうか。

 実現すれば遺体回収にかこつけて針金の荊棘の配置を調べることも出来ますし、運が良ければ岩山から銃撃をしてくる兵器を観察する機会を得られるかも知れません。その上で再度、岩山要塞を攻略する戦術を練り直してはいかがでしょう? 」

「・・・・・・ヨルゲン課長、貴様も現場に行くつもりなのだな? 」

「はい。言い出した私が行かないわけには行かないでしょうから。・・・・・・それに」


 ヨルゲン課長はそこまで言うと、わずかに口籠もり、しかし意を決したように言った。


「あそこには我が父の遺体もあります。我が友人たちの遺体も。なんとかして取り戻し、故郷の地に葬ってやりたいと考えます」


 その言葉に多くの貴族たちがハッとした顔で、ヨルゲン課長の顔を見た。

 マクシミリアン皇帝はじっとヨルゲン課長を見つめていたが、うなづいて命ずる。


「よろしい。一日だけの停戦交渉を許可する。ヨルゲン課長、貴殿に任せるからクレアシス王国側との交渉と、遺体回収の段取りを滞りなく行うようにせよ」

「御裁可いただき誠にありがとうございます、皇帝陛下。必ずや、やり遂げてご覧に入れましょう」


 ヨルゲン課長はマクシミリアン皇帝の前に跪くと、深く首を垂れた。



 使者を立てて停戦交渉を行ってみると、思ったよりあっけなく交渉はまとまった。

 ただ、クレアシス王国側からの条件として、停戦中に遺体の回収以外の行為、例えば有刺鉄線を切るなどの行為を行えば、戦闘行為とみなして即座に攻撃すると通告された。


 お互いの条件が折り合ったところで、翌日の日の出から日の入りまで間、停戦が成立する。


 停戦の日の朝、夜明けと同時に自領の領兵の遺体を引き取るために大勢の領兵を引き連れた貴族や第三師団が入っていくのに紛れて、ヨルゲン課長も広場へと足を踏み入れた。


 もちろんヨルゲン課長はそれら貴族の領兵の中に、領兵たちと同じ格好をした帝国情報部の諜報員たちを大量に紛れ込ませてあった。現場でメモを取ったりするような行為はできないので、訓練を受けた諜報員らが目測で測量したり、歩数などで測ったりした結果を記憶して持ち帰り、後に全員で集計する手筈になっている。

 

 ヨルゲン課長も目立たないように領兵らと同じ格好をして、広場の中を進んでいく。

 

 足元が悪く大小の岩がゴロゴロしている広場を横切り、針金の荊棘に近づくにつれて、その惨状が明らかになってきた。

 針金荊棘に絡め取られた挙句、死体と化した者が幾人も連なっていて、領兵たちが針金の棘から引き剥がすのに苦労している。

 そんな光景を横目に先へ進むと、次第に死体の数が増えはじめ、ついには何体もの死体が折り重なるように積み上がっているさまが見えてきた。


 その手前で見覚えのある馬の死体を見つけたヨルゲン課長は、馬の死体の下にフルプレート鎧が鈍く光っているのに気づく。


 供の者と一緒に苦労して重い馬の死体を退けると、下から泥に塗れたフルプレート騎士の死体が現れた。左胸に小さな穴が空いていて、死因はその銃弾によるものと推察できる。

 ヨルゲン課長は騎士の遺体の頭の下に手を差しいれると、抱き抱えるように起こして兜を外す。すると、中からヨルゲン課長の父親の、驚いたように目を見開いたままの死に顔が現れた。


「父上・・・・・・」


 ヨルゲン課長は小さく呟くと、頭を抱き抱えたまま、大きく見開いたままだった父の目を手のひらでそっと閉じてやる。

 次いで、岩山要塞の方をキッと睨み、見つかるはずのないザミエルの姿を探す。

 馬の死体や他の死体にある弾痕はもっと大きいし、死体の損壊具合も激しい。父のフルプレートにあった小さな弾痕をもたらすような高速弾で人を殺せるのは、きっとザミエルが持つ特別な銃によるものに違いないとヨルゲン課長は確信していた。


「(あまり帝国情報部を舐めてくれるなよ、ザミエル。必ずやお前に一泡吹かせて、父の仇を取ってやるからな。今に見ていろ)」


 ヨルゲン課長は岩山要塞を睨みつけながら、心の中で誓う。



 何度も往復して一日がかりで貴族領兵と第三師団が遺体を引き上げたのち、停戦終了後にヨルゲン課長らは徹夜で諜報員らが得た情報を突き合わせる作業に掛かった。各人が記憶して持ち帰った測量結果を突き合わせることで可能な限り誤差を修正し、ようやく広場の障害物の配置がわかる詳細な図面を作り上げたのだった。


 翌日、作成した図面を示しながら、ヨルゲン課長はマクシミリアン皇帝や参謀、貴族らの前で詳細な報告を行なっていた。


「この配置図を見ていただくとわかりますように、針金の荊棘はジグザクを描きながらもこちらから見ると【ハ】の字のように窄まっています。荊棘の縁に沿って進むと気づかないまま狭くなった場所に誘導され、その結果集まってしまった兵たちに岩山出城からの狙い澄ました銃撃が加えられることで、我が軍の人員被害が拡大したものと推察されます。

 だからといって荊棘が敷設されている幅は数メートルはありますから、飛び越えることも乗り超えることも不可能です。では荊棘の下はどうかというと油が浮いた泥だらけの泥濘になっていて、その中で死体になっていた者も多かったことからみても、潜り抜けるのは難しいと思われます」


 マクシミリアン皇帝や参謀たちは食い入るように図面を見つめて唸り、一緒に広場に立ち入った貴族たちは説明にいちいち思い当たる節があると頷きながら、いつの間に調べたのかと図面の出来に感嘆していた。

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