鉄条網とガトリングガン
誤字報告をありがとうございます!
「テツジョウモウ? なんだそれは?」
「有刺鉄線という棘だらけの針金を張り巡らせたもののことさ。低コストなのに非常に効果的で、守備側には心強く、攻める側からすればこれほど厭らしいシロモノはないという優れものだ。
これを大量に作って欲しい。頼めるかい ? 」
そんな物は初めて聞いたと首を傾げるカプリュスに、石動が簡単に説明しながら事前に見本として造っておいた一メートル程の長さの有刺鉄線を、二種類取り出して見せてみる。
「この有刺鉄線は、針金に短く斜め切断して尖った切断面をもつ針金を巻きつけて造る一番オーソドックスなヤツだな。針金の堅さはさほど必要ないけど、粘りがある素材を使った方がいいかもしれない。
こっちのヤツはちょっと面倒だけど、一枚の薄い鋼板から私が切り出したものだ。本当は機械で圧力かけて切り出すプレス方式で造る方が簡単なんだけど、プレス機がないから切り出してみたんだ。
見てくれ、ここには棘ではなくて剃刀の刃みたいなのが付いているだろう?
その鋭い刃と、材質が鋼板なので硬く耐久性もあるから支柱無しでも立てられるのがこっちの特徴なんだよ。だから普段は大きくコイル状に巻いておいて、それを広げるだけで立派な障害物になるからとても便利なんだ」
「なるほどなぁ・・・・・・確かにこいつに引っ掛かると痛そうだ」
カプリュスは恐る恐る棘や刃の部分をつついたり、手に持ってみて曲げたりしていたが、顔を上げると笑みを浮かべながら石動に尋ねる。
「これなら問題なく造れそうだな。で、どのくらい必要なんだ? 」
「出来るだけたくさん、だね。なんなら麓の街や検問所前広場を怖め尽くすくらい欲しい」
「なにっ! そんなにか! ハハハ・・・・・・他の工房にも声を掛けてみるよ」
石動の答えにカプリュスの笑みはすっかり引き攣ってしまい、明らかに引いていたけれど、なんとか引き受けてくれた。
カプリュスの答えに安堵した石動は、次に気になっていたことを尋ねてみる。
「そういえば、ガトリングガンの状況はどう? 今、何丁まで出来ているんだっけ? 」
「ええっと、確か今出来てるのが8丁だったかな。ご要望通り、20丁まで は増産していく予定だよ」
「了解した。順調のようだね。無理しない程度に急いでくれると助かる。弾薬の増産も含めてお願いしたい」
石動はカプリュスの言葉に満足して頷く。
本当は石動も心の中では、日露戦争や第一次世界大戦のイメージで鉄条網と組み合わせるとするならばガトリングガンではなく、やはりマキシム重機関銃がふさわしいだろう! と思っている。
しかし、ドワーフ・エルフ連合軍の主力装備であるシャープスライフルやウィンチェスターM86が使用する銃弾は、黒色火薬を使用する50-90金属薬莢弾や45-70金属薬莢弾であり、マキシム重機関銃には当然のことながら使用できない。
だからと言って今からマキシム重機関銃に使用可能な銃弾、例えば8ミリモーゼル弾などの無煙火薬対応の銃や弾薬に、全ての装備を切り替えるには時間が足りないので諦めたのだ。
では何故、黒色火薬使用の弾薬は重機関銃に使用できないのか?
その理由はいろいろあるが、黒色火薬は燃焼時に大量の固形残留物であるススやカスを発生させるので、ボルトを後退させるためのガスポートなどを一瞬で詰まらせてしまい、作動不良を起こしてしまうというのが最大の理由である。
さらに言えば廃莢口やボルトにまでススが溜まってしまい、数発撃つだけでメカニズムが動かなくなる可能性が高いのだ。
また黒色火薬の燃焼速度は爆発に近いため、ボルトが後退するために必要な圧力が充分かかる前に燃焼が終わってしまい、ボルトを最後まで後退させることができない点も大きな理由だ。
それに加えて大量の白煙を発生させることや、ガスに含まれる極めて強力な腐食性も機関銃の大敵になる。
実際、最初期のマキシム機関銃は黒色火薬仕様の金属薬莢弾で設計・製作されたが、やはり汚れによる装弾不良や故障が頻発し、使い物にならなかったらしい。
モデルガンの弾に紙火薬を詰めてフルオートで作動させようとした経験をもつ人なら少し理解できると思うが、とんでもなく繊細な調整をしないとまともに動作してくれず、すぐに装填不良してしまうのが当たり前だった。ワン・マガジン撃ち切るだけでも奇跡に近く、それがどれだけ大変だったか。そして撃った後の掃除がどれだけ大変かも。
その後、無煙火薬の登場により、機関銃はようやく信頼性を確保することができるようになったのだ。
それに無煙火薬を使用するなら50口径のような大口径でなくても、8ミリ口径などで必要かつ充分な威力を得ることができる。かえって大口径だと初速が増大する分、反動が大きくなりすぎて使いづらくなるだろう。
そのため無煙火薬に装備を更新するとなると、使用する弾薬の口径から何から全てが変わるので、銃も弾薬も両方変える必要がでてくるために大変な手間と時間が必要なのだ。
その点、ガトリングガンは現在制式である50-90金属薬莢弾を使用可能だし、複数の銃身が回転しながら順番に発射していくため、煤も溜まりにくく銃身の冷却効率も極めて高い。
そのうえ機関銃のようにガス圧での作動方法ではなく機械式なので確実に発砲できて作動不良が起こりにくく、半自動で連射する銃としては現状では最強の銃なのだ。
石動の持つFG42以外では、という条件付きだが。
もちろんガトリングガンにも弱点はある。
最大の弱点は動力として、人間がハンドルを回さなくては発砲出来ないという点だ。
ハンドルを回すためには上半身を起こすか、立ったままハンドルを回さないといけないために、射手が敵の銃に狙われやすく撃たれやすいのが問題なのだ。
また多銃身である構造のため非常に重く、人間が持ち上げて振り回すことは到底不可能だ。したがってガトリングガンを据えつけるための台座がどうしても必要になる。
幸いにしてカプリュスが作り上げたガトリングガンは、石動が知る前世界のものよりコンパクトで、銃床も付いているため左右に銃口を振るのも容易だ。
そのため、前世界のガトリングガンのような巨大な車輪を持つ大砲のような台座ではなく、M2重機関銃の時に造ったM205三脚架の前脚二つに小型の車輪を取り付けたような銃架を作って装着してみた。
この銃架に取り付けることで、重いガトリングガンの移動や取り扱いがかなり楽になったのだ。
ガトリングガンの両脇に鋼板で出来た防弾壁を取り付けることで、ハンドルを回すために上半身を露出せざるを得ない射手を少しでも守れるよう工夫も施しておいた。
これを会戦までにはいくつかの拠点に2〜3台ずつ設置し、帝国軍にお見舞いするつもりなのだ。2台以上配置するのは、いくらガトリングガンでも黒色火薬を撃ち続ければ煤は溜まるので連続発砲を続けていれば動作不良を起こす可能性が高く、そんな時のスペアとして準備しておくためだ
石動とカプリュスは顔を見合わせて、ニヤリと笑い合う。
「では帝国軍がやってくるまでに、お互い、いろいろとやるべきことをやるとするか」
「では、ワシは早速、鉄条網製作の手配をしてくるから、また後でな」
そういって別れてから毎日が慌ただしく過ぎ、帝国軍が国境付近に集結しているとの報を聞いたのは、今から一ヶ月前のことだった。
想定していたより遅く帝国軍がやってきたので、なんとか歓迎の準備は間に合った。
そう感慨に耽っていた石動は広場の先を見つめると、麓の街にいるマクシミリアンの姿を想う。
「待ちかねたぞ、マクシミリアン。盛大に借りを取り立ててやるから、覚悟してくるといい」
悪いことが起こる時はいくつも重なって起こるのが世の常。
先日、療養中に不意に右腰の激痛に襲われ、時間外救急に運び込まれる騒ぎが起きてしまいました。
横になってもどんな姿勢を取っても悶絶するほど痛く、ずっと呻くしかない。
なんで? なにもしてないよ。じっと寝てるだけだったのに・・・・・・?
ポンコツなのはエンジンだけではなく、私自身だったか!
結局、原因不明のまま、痛み止めと座薬をもらって帰りました。
座薬は効いたなあー。翌日からはヨロヨロしながらも歩けるようになったほど。
今はもうすっかり大丈夫です。
そんなこんなですが、筆者の体調も少しづつですが良くなってきてるので、もう少しこのままのペースでお願いします
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