第四章 六節 主人公のターン
自らを術式と名乗る天照は執事のような礼儀をする。なぜか手には輝く玉を持っていた。
西城は戸惑いながらも天照の足元に目を向ける。
そこには昏睡状態の天照大御神がいた。
「……もうこいつには用はない。僕を作り出しておきながら、その術式にのっとられるような間抜けな最高神だ。いなくても別に変わりはない」
天照大御神に一本の水柱が迫る。
西城は駆け出すが、すでに間に合わないと理解できた。
みすみす目の前で死なせてしまうようなことがあれば、先ほどの宣言は何だったのかという話になる。それこそが天照の狙いでもあった。
だが、天照大御神が殺されるのを良しとしないものがいた。
「誰がいなくてもいいだと?」
「生きていたか天手力男命」
二柱の神々がぶつかり合う。
その衝撃波は西城たちのいる港をことごとく粉々にする。
「ぐッ!?」
西城はラインを庇い、能力を発動させようとする。だが、空気の圧が凄まじく、呼吸をすることさえままならない。
絶体絶命の中、複数の剣が風を切って西城たちの周りを飛び交い始めた。
「大丈夫ですか?」
「……天宇受売命ッ!」
西城たちの目の前に颯爽と現れたのは五体満足の天宇受売命だった。
「今は草薙剣の薙ぎ払うという伝承から結界を作っていますが、安全は保障できません。覚悟しておいてください」
「わかってる。それより、天照大御神は?」
天宇受売命が抱えている天照大御神は浅い呼吸を続けていた。
顔色が悪く、手も冷たい。ラインが回復を試みるも治る気配がなかった。
「だめだ直らないよ。天照大御神には最も根本的な部分が抜け落ちている感じがする。神を神たらしめる存在の何かが……」
「ッ!?まさか、それは神核のことでは!」
いち早く反応したのは天宇受売命だった。
その目線は天手力男命と戦っている天照の手元に吸い寄せられている。
光り輝く手の玉。
確か天照が現れた時から持っていた代物だ。
「神核は神の中心的存在です。荒魂化は知っているでしょう?その荒魂を含む四つの魂から成り立つ神核はその神の絶対的な伝承を元に構成された力の源なのです」
「つまり、最高神であり、太陽の化身とされる天照大御神の神核ってことのは……」
「ええ、あれは太陽そのものを象徴とした力が秘められているでしょう」
西城はあまりのスケールの大きさに体全体が重くなるのを感じた。
それでも、彼は進まなければならない。
宣言した通り、天照を打ち倒さなければならないのだ。。
「………少年」
「ッ!!天照大御神様!」
軽く開いた口元から微かな声が聞こえた。
目は虚ろで視線も合っていない。だが、そんな状態でも天照大御神はしゃべり続ける。
「宣言した少年。お前が私の神核を壊せ」
「それは!!」
「つべこべ言わずにやるんだ。お前は宣言しただろう」
西城は拳を固く結ぶ。
天照大御神は西城に自分を殺せと言っているのだ。
「あれは、あの術式は私の汚点であり、恥辱すべきものだ。私の弱い心が生み出した悪の化身だよ。ここにいる神たちでは太刀打ちできない程のな。だが、お前は違う。言葉を紡ぎ、意思を述べ、覚悟と勇気を持って宣言した主人公だ。お前にならばできる。世界を救うなんて考えなくていい。自分自身を救うことだけ考えろ」
天照大御神の言葉は西城の心に深く染みる。
神核を失い、このような姿になったとしても、天照大御神は人々の道しるべとなる太陽であった。
「はははははッ!!終わったな天手力男命!貴様の神核も頂いた。すぐにでも愛しき主神の後を追えるぞ!」
天照は空中に浮き、西城たちを見下ろすような格好をしている。
結界のすぐ外で胸を抑える天手力男命の姿があった。
形勢は最悪。勝てる見込みもない。それでも、天手力男命の目にはまだ闘志が残っていた。
「さぁ、主人公。ここからがお前のターンだ」
光の粒子となりつつある天照大御神は優しく語り掛ける。
天手力男命も天宇受売命も西城の返事を待っていた。
「……ライン。ちょっと行ってくる」
「うん。幸助、ずっと待ってるよ」
ラインの顔を見ず、正面を向いたまま西城は返事をする。
「天宇受売命、援護を頼む」
「わかりました。任せてください」
「……少年。最後に忠告だ。あの術式は未だ私の神核を掌握しきれていない。つまり、もう一つの私の顔である自然神の意味合いが強いということだ。恐らくは『水龍』もそれの応用だろう。けれど、決して恐れるなよ。恐れて踏み込むのを忘れれば、それは敗北に繋がる」
「わかった。全身全霊を捧げる」
西城の心強い返事に天照大御神は笑みを零した。
所々が半透明となり、天照大御神の姿が認知できなくなっていく。
「ここまでのお膳立てをしたんだ。敗北は許さないぞ」
「大丈夫だよ、天手力男命。もう逃げることはない」
「ふん。ならば行け」
天手力男命の振り上げた拳でコンクリートブロックが天照へ続く橋のように大きく変形する。
その瞬間、西城は駆け出した。背後からは複数の草薙剣のレプリカが続く。




