第四章 五節 物語の中心に立つ者
「なぜ君がここにいる」
ラインに向けていた殺気が抜け、逆に一抹の驚きと恐怖を持った天照大御神は西城にそう問いかけた。
だが、西城は返答はしない。
答える義務もなければ、義理もない。
「なぜだ!?憑依時に見た言行録には君のことなど書かれていなかった!」
天照大御神は自分が微かな恐怖を感じていることに驚愕する。
目の前の存在が認知できないとということは神ですら、いや神だからこそ恐れを抱くものなのだろう。
「……まぁいい。たかだか人間が一人増えただけのことだ。ヒーロー気取りの偽善者など恐れるに足りない」
「ヒーロー気取りじゃねぇよ」
西城は否定する。
確かに西城は誰かを救おうとし続けてきた。
自分勝手な独りよがりで手を差し伸べてきた。
それは事実だ。
だが、称賛されたいとか著名になりたいとかそんな欲望を満たすためではない。
「ヒーロー気取りじゃない?ならば死んで英雄にでもなるつもりか?誰かを救おうとして犠牲になることはそれだけでヒーロー的行動だ。それを否定することは今、君が私の前に立つ理由を根本的に覆す事に同義であるはずだろう」
「違うそうじゃない。ヒーローになるためでも英雄として語られたいわけじゃない。誰かのためじゃないだ。俺は俺が納得するためにここに立ってるんだよ天照大御神」
ラインが傷つくことに納得できないから神様の目の前に立つ。
頼られなくてもいい。そこは関係ない。
間違いであっても相手が正義だとしても何より自分自身が理解できないからここに立つ。
「もう一度言うぞ神様。俺はヒーローになりにきたんじゃない」
西城は宣言する。
「俺は主人公になりにきた」
天照大御神は心の底から不快感を得ていた。
なにより前方の人間が宣言したのだ。
主人公になると。物語の中心に立つと。
「……前言撤回。やはり貴様は特異性の塊だ。私も神と二柱も対峙した時点で懸念すべきだったか」
天照大御神は西城たちを睨み続ける。
だが、今さら懸念してもすでに遅い。西城は目の前にいるのだ。
「だが、今さら貴様が来たとしてもすでに手遅れだ。天手力男命も天宇受売命も僕が潰した。今の段階で主人公でない貴様に何ができる」
天照大御神の言葉に西城は笑みを零す。
「おい、天照大御神。……お前、口調が乱れてるぞ」
「ッ!!?」
西城の指摘に天照大御神はようやく平常心が保てなくなる。
そして、瞬時に天照大御神は理解した。
西城幸助には自分の正体が何者なのかわかっているのだと。
「不思議だったんだよ。よりによって日本の最高神が人間が嫌いだってことがさ。それに天宇受売命たちとの会話が噛み合ってなかった。最高神なら知っていることを忘れたふりをしてとぼけてただろう?」
西城は淡々と告げる。
俯いているせいで天照大御神の表情は見えないが、彼女は今、追い詰められているはずだ。
「ラインが魔法は神話や伝承を元に作られるって言っていた。その通りだったんだよ。お前の正体は天照大御神の一説である天照大御神男神説によって作られた術式だ!!」
「く、くく………」
天照大御神の乾いた笑いが場を支配する。
不気味だけではない。ねっとりとした殺気が込められた声。
西城はごくりと息を呑む。
一度目の天照大御神はこのような気配はおくびにも出さなかった。西城にとって初めてのことなのだ。
「そうだ。その通りだ。おめでとう西城幸助。だから、死ね」
論理が破綻した文脈。
天照大御神は最悪の采配を振るう。
無数の水柱が顔を出す。その光景は止まることを知らない。
倍、倍と増えていき、大きな壁を作り出す。
「なッ!?」
「どうだ?私、いや僕の力は。これでは貴様も無事では済まないだろう。いや、死ぬか。はッ!やはり脆いな人間の体というのは」
両手を広げ、天照大御神は殺意をむき出しにした。
その姿に神々しさなど微塵もない。あるのは狂気だけだ。
「そうだった、そうだった。もう正体を隠す必要なんてないんだった」
突如、天照大御神の体が光に包まれる。西城は腕で光を遮りながら、それを見ていた。
天照大御神から脱皮するように現れる男性。その容姿は若々しく、白い着物のようなものを羽織っていた。
それこそが事の元凶である術式であった。
「ふぅ、やっぱりこっちの方がいい。演技とはいえ天照大御神に合わせるのは辛かったからなぁ。地の方がやりやすい」
「……お前が術式なのか?」
「やぁ、初めまして西城幸助。天照大御神の気の迷いから生まれた術式であり、この世を新たに作り変えるものだ。名は……そうだな。天照とでも呼んでいただこうか」




