第四章 一節 運命は救いの手を指し示す
人それぞれによって救いの定義は違う。
環境や思考が違うように何をもって救いとするかは違うものなのである。
それは大人になるにつれ、理解し許容していくものだ。
そんなことは西城にだって分かりきっている。
だが、それでも納得できない時の答えを西城は未だに見つけられていない。
現にラインを救えなかったのだ。天手力男命はそんな西城の心の内を見透かしていたのかもしれない。
放心状態の西城は人一人いない深夜の大通りの傍を歩く。
特にこれといった目的地は考えていなかった。ただ足の赴くままに歩くだけである。
「…………………」
果たして自分は何度同じ過ちを繰り返すのだろうか。
西城は言葉を発さず、口だけをそのように動かした。
西城が誰かを救おうと行動したのは今回が初めてではない。
救おうなんておこがましいことではあるが、それでも西城は他人の力になりたかったことが幾つもあったのだ。
だが、その全てにおいて西城は誰かを救えたことなど一度もない。
救うことに失敗した理由は様々だ。
間に合わなかった、最後まで関わり合えなかった、邪魔が入った、言い訳をすればいくつも出てくる。
結局、要点をまとめれば、逃げ道を作って逃げ続けていただけなのだろう。
「……そうか、天手力男命の言ったことは正しかったのか」
自らが醜いものだと自覚する。
こう考えれば、天照大御神が人間を否定していたことも納得できるのかもしれない。
西城は歩くのを止める。
疲れたわけでもない、思考を停止したわけでもない。
そう、自分の立ち位置すら分からない西城の目の前に彼女が現れたのだ。
この聖都市の治安を守る衛士である。
「あ、変態」
「………お前」
すでに怒る気力など失せていた西城は冷たい態度を取る。
関わり合う必要などないと考えた西城はため息を吐いて横を通り過ぎようとする。
「ちょ、どこ行くんですか!?」
「俺がどこで何をしようが関係ないだろ。」
「そんなわけないでしょう。私は治安を守る衛士ですし、こんな夜中にほっつき歩いている学生を指導しないわけにはいきません」
一応、西城の方が年上であり先輩にあたる訳なのだが、この衛士の態度はいつまで経っても変わらない。
「全く、何様のつもりだよ」
西城から笑みが零れる。
「な、何を笑ってるんですか!少しぐらいカッコつけてもいいじゃないですか!」
「悪い悪い。そうだよな。カッコつけたっていいんだよな」
何故か照れる衛士を見て、西城はラインを助けようとしたことに対する後悔を断ち切る。
誰かを救えなくとも手を差し伸べ続けることでカッコつけるぐらいのことやったっていいはずだ。
「そういえば、あの時ににいた巫女さんは……?」
「ッ!!ああ、自分のいるべき場所に帰ったよ。俺が介入する余地なんてないぐらいにさ」
「……納得してないんですか?」
西城は落としていた目線をあげる。
納得はしていない。その言葉の通りだ。
だが、納得しないからといってどうすればいいのだろうか。
ラインを追いかければいいのか。拒絶されているというのに追いかけるのか。
「あなたに何があったのか、私には分かりません。だけど、納得していないならあなたが納得するまで走り続けるべきじゃないんですか?」
彼女の正義は眩しすぎるほどだ。何度も挫折した西城にとってそれは傷口を抉るような行為である。しかし、西城は彼女の話に耳を傾ける。
「誰かに拒絶されてもそうなのか?走り続ける必要があるのかよ」
「必要?なに言ってるんですか。あなたがそうしたいから行動するんでしょう?」
「ッ!!?」
貫くほど真っすぐな瞳が西城を見つめる。
「助けたいから助ける。理由なんてそれだけでいいじゃないですか。たとえそれを誰かが評価しようとそんなの関係なんですよ。つまりですね——————」
衛士は一呼吸おいてこう吐き出した。
「あんまり自分自身を舐めるな」
一瞬にして西城の視界が開けた気がした。
答えなんてそんな簡単なことで良かったのかと西城は驚く。
カッコつけるためだっていい、純粋に助けるためだっていい、理由なんてそんなことで良かったのだ。
拒絶されても自己満足だったとしても自分が納得するために行動すればいいだけなのだ。
「ほんと俺は何やってんだろうな。たったこんな簡単なことを後輩から教えてもらうなんてさ」
ああ、そうだと西城は思う。
ラインを助けたいと思った自分自身の心は間違いなく正しかったのだ。
西城は拳を握る。
今度こそ本当の意味でラインを助けるために。




