第三章 四節 最高神にして人類を滅ぼす者
「どうした?」
「……いえ、少し反応が。多分、天手力男命だと思うのですが」
「ッ!?それは大丈夫なのか?」
天手力男命が生きていることは知っていたがここまで追ってきたことに西城は驚く。
それに天手力男命はラインを狙っている神の一柱だ。だとすれば外にいるラインが危ないのではないか。
そのことが西城の表情に出ていたのか天宇受売命がふすまに手を掻ける。
「私が話をつけてきます。仁義に熱い天手力男命ならば分かってくれ—————」
天宇受売命の言葉はそこまでしか続かなかった。
突如、激しい音と共にふすまが粉々に粉砕する。
西城と天宇受売命は後方に吹き飛ばされた。
「何がッ!??」
異常を感じた天宇受売命はずぐに外の景色に目を向ける。
西城も天宇受売命に続く形で現状を理解しようとする。
爆風によってできた砂煙が引くとその惨状があらわになる。
奇麗に敷かれていた石畳は大きなクレーターを作っており、手水舎は原型をとどめていない。
幾つか倒れた木々が鳥居の近くを塞ぎ、中心部へ続く進路を妨害していた。
「……これは、一体?」
天宇受売命の呟きはクレーターの近くに立つ天手力男命に向けられたものだった。
天手力男命は西城の目の前に現れた時と同じ格好で右の方向を見据えていた。
「ん?ああ、天宇受売命か。やはり事は済んでいたというわけだな。私を破った人の子がいるということは彼に援助してもらった節があるのかね?」
天手力男命は拝殿の中にいる西城たちに今気が付いたというような口振りで話しかける。
彼は西城を一瞥し、すぐさま状況を把握したようだった。
「説明はあるんだよな?」
「はぁ。全く君は我々に対する口調がなっていないな」
返答になっていない返答した天手力男命は未だ砂煙が舞い上がっている右の方向を見る。
つまりはそれが西城の質問の答えを表していた。
西城は徐々に無くなっていく砂煙の中にいる人物に驚きを隠せなかった。
「ラインッ!!?」
片膝をついたボロボロの巫女服の少女がそこにはいた。
西城は疾風のごとくラインに駆け寄る。
「こ、幸助——————」
ラインにあと数歩という所で西城は立ち止まる。
「——————助けて」
「……お前は誰だ?」
違和感を感じた。
最初はただそれだけの理由で立ち止まった西城は決定的に断定する。
この目の前の巫女の少女はラインではないと。
西城は後ずさる。
ラインは今の今まで弱音を吐くことが無かった。吐いたとしても彼女は弱弱しく笑っていたのだ。
けれど、今回は違った。
一度対峙した天手力男命から助けてと言ったである。
弱音を吐いたのである。
「はははッ!!はははははははははッッ!!!」
ライン。
いや、ラインの中にいる何者かが不気味な笑いをする。
すくっと立ち上がった彼女は異常なほどに口角を上げていた。
「そう警戒しないでくれ。こんな私でも傷つくものだよ」
口調も性格もラインとは全く違っている。別人と言っても差し支えなかった。
「あなたは……あなたは一体何者なんですか!?即刻、その子の体から出ていきなさい!」
天宇受売命の言う通り巫女服の彼女はラインではないようだった。
いや、正確には中身だけが別人にすり替わったというのが正しいのかもしれない。
「おやおや、つれないなぁ天宇受売命。今のあなたは頭に血がのぼって冷静に欠けているのではないかな?」
「ッ!?そんなことありません」
核心を突かれたためか天宇受売命は冷静さを取り戻す。
その光景をにやにやと眺めている異常な巫女の少女に西城は顔を引きつらせる。
「ま、いいさ。ゆくゆくは君たち……いや、世界の神々も殺す予定はでいるし。どうせ死ぬんだから関係ないし。ここでごたごたしたって最後に笑うのは私だ。この世の予定調和である言行録がある限りね」
ラインの笑みが一段と大きくなる。
さながら自分の勝利を確信したうえで勝負に挑もうとするプレイヤーのようだ。
そして、それは間違いではないのだろう。
死ぬやら死なないやらの話をされた西城だったが結局のところ理解したのは言った一つだった。
この目の前にいる何者かは明らかに敵だと。
「そうだそれでいい。もがき抗おうとする小さく哀れな人間クン。特別に君に教えてあげよう。冥土の土産というわけだ」
西城は息を呑む。
「我が名は天照大御神。日本の最高神にして人類を滅ぼす神だ」
絶望への歯車は少しずつしかし着実に近づいて来ていた。




