第三章 二節 愛情の裏返し
「そういえば、ここは何処なんだ?」
「先ほどあなたと戦った神社の中です」
月が出てため、明るくなった中を西城は見渡す。
木造の小部屋である一角には何かの神をまつっているらしき神体があり、どこか神々しいさを感じさせる。
その神体の周りには最近、神事でもやったのか果物や餅などのお供え物が置いてある。
また、部屋の隅には何かの布のような塊があり、詳しく見ようと西城が目を凝らすが月が隠れたのか部屋全体が暗くなる。
「ここ入っていいのか?」
「本来は入っていけない場所ですが仕方ありません。あなたの傷が広がっていましたから」
西城は改めて自分の受けた傷の深さを想像し、ゾッとする。
「……ラインはどうしたんだ?」
西城はこの場にラインがいないことに気が付く。
まさかと悪い想像をしてしまうが、天宇受売命に限ってそんなことはないと考えを修正する。
「あの子ですか?あの子は……ッ!め、目を閉じてください!!」
天宇受売命は何かを思い出したかのように驚き、西城に目を閉じるよう要求する。
しかし、西城は天宇受売命の意図をくみ切れず首を傾げる。
すると、
「ウズメ!傷を洗ってきたよ!!」
西城の後ろの障子が勢いよく開いて、生まれた姿の……つまり、裸のラインが溌溂な声を出しながら入ってきたのだった。
だが、西城はそんなことに気が付くわけがなく、ラインの声が聞こえたために首を後ろに回してしまう。
「なッ!!?」
「こ、こうすけ!?」
西城が驚きの声を上げるとラインも西城の存在に気が付いたのか、驚愕しながらまだ成長しきっていない二つの膨らみを両手で隠す。
そして、そんな光景を見た天宇受売命は大きくため息をついた。
「な、なんで幸助が起きてるの!?ウズメ!!」
「それは生きているからに決まっているでしょう?それよりも注意するのが一歩遅かったですね」
恥辱で顔を赤らめたラインの問いに天宇受売命は冷静に答える。
「うぅぅぅぅ……っていつまで見てるの!」
はっと西城は目をそらすがもう遅い。
突如、まばゆい光と共に西城の頭上に水の塊が現れる。
「ふ、不可抗力じゃないか?」
「問答無用だよ」
ラインのどす黒い笑顔をしたかと思うと、大量の水が西城の視界を覆ったのであった。
「まだ頭が痛いんだが」
全身ずぶ濡れの西城は鼻の中に入ったせいで起こっている頭痛と戦っていた。
そんな光景を微笑ましく見守る天宇受売命。
「ふふ、あの子は甘えているんですよ。かまってもらえる相手がいるから」
「それにしたって甘え方が過激ずきやしないか?」
水滴が滴る学生服に不快感を感じている西城はため息を吐く。
「愛情の裏返しという奴ですよ」
そう言い返す天宇受売命に西城は呆れ返る。
戦闘時の性格と打って変わった穏やかな天宇受売命。西城にとてつもない違和感を与えていた。
「あの、そんなにまじまじ見られると……」
「えッ!?いや、そんなことはッ!」
若干、頬を赤らめながら天宇受売命は後ずさる。そんな恥じらうような姿を見た西城は青ざめた。
背後を振り向き、ラインが襲ってこないことを確認する。
「……覚悟してたんだけど。ラインはいないのか?」
雰囲気が変わったためか天宇受売命は真剣な顔つきになる。
「ええ、あなたに魔法をかけた後、部屋から出ていきました。多分、手水舎のあたりにいると思いますよ」
「い、いいのか?他の神様が襲ってきたりとかしないのかよ」
「大丈夫です。警戒はしていますから」
西城は魔法だろうかと思う。
ともあれ、神様が味方になってくれているという事実は西城に安堵感を与えていた。
それでも時間があるというわけではない。
「今のうちに作戦会議といきましょうか」




