第三章 一節 一件落着
「ん?」
西城が目を開けるとそこには木造の天井が見えた。
病院に担ぎ込まれたと思っていた西城は驚く。
「いてて……って傷が無くなってるし」
西城が起き上がりながら腹を見る。
赤く染まっている制服はそのままだったが、その下の西城の傷は塞がっていた。
「動かないのが身のためですよ」
急に後ろから話しかけられる。
背筋が凍る思いだったが、恐る恐る振り返った場所にいた人物を見た瞬間、安堵した。
「なんだ、天宇受売命か」
「……神に対して、それも命の恩人に対してその態度はどうかと思いますが」
西城の反応に少し冷ややかな目線を浴びせながらその場に座っていた。
先ほどまでの戦闘的な雰囲気とは打って変わり、優しさのにじみ出るようなそんな佇まいだった。
「命の恩人ってことはお前がこの傷を直してくれたのか」
天宇受売命の方を向き直りながら西城は言う。
冷たい目を止めた天宇受売命はコホンと一つ咳払いをして話し始めた。
「ええ。あなたを刺してしまったのは私ですし、神としては当然の行いです」
天宇受売命はそれと、と続ける。
「私を正気に戻し、あの子と仲直りをさせてもらいました。あなたには感謝してもしきれません」
正座して頭を下げる天宇受売命に西城は慌てる。
「まてまて!神様がそんな簡単に頭を下げていいのかよ!?」
「今の私は神とかそういうのなしで頭を下げてます。問題ありません」
「問題ありだよ!!信仰してるやつとかが襲ってきたらどうしてくれるんだ!?」
「そこはご愁傷さまということで……」
「助けてくれないのかよ!神様なのに!?」
いくら日本人が宗教に疎い人種だと言っても、少なからず信仰者はいるはずである。
何万か、何百か。このままでは襲われかねないという事実に西城は頭を抱える。
「冗談ですよ」
天宇受売命がクスリと笑いながらそう言った。
西城はその光景に呆気を取られる。
「……神様でも冗談を言うんだな」
「あなたは神様をなんだと思ってるんですか」
「ん?神様は神様だろ?」
当然と言わんばかりの顔で西城は述べる。
これが神を二柱も退けた人間の言葉かとため息をつく天宇受売命。
確かに成り行きとはいえ、西城が神を打ち破ったことは現実だ。
かと言って、その神を打ち破った人間の人格が優れているかどうかはまた別の話である。
「でもさ、ラインと仲直りしたのは天宇受売命自身だし、やっぱり俺は何もしてないよ」
「あなたは……いえ、何でもありません」
天宇受売命は言葉を濁す。
彼女が何を言おうとしたのか西城にはわからなかったが、それでも理解はしてくれたのだと感じる。
「たとえ、そうだとしてもです。そうだとしても私はあなたに感謝しますよ」
「そっか。ありがとな」
感謝される方が感謝するという不思議な感じにだが、これにてこの話は一件落着となったのだった。




