第二章 十二節 親友
人間がどうにかできるものではないと西城は直感的に感じた。
そもそも、西城の戦闘スタイルからいえば正面から戦うという行為自体がイレギュラーなのだ。
回避して回避して、最後には逃げ切る。それが西城が最も得意とする戦闘スタイルなのである。
「さあ、人の子よ。これでも私の前に立ちはだかりますか?」
草薙剣が西城の四肢を傷つけ始める。確実にスピードや攻撃力が上がっていた。これも荒魂化のせいだろう。
行き過ぎた愛情だと西城は思う。
天宇受売命は本来、ラインを救うはずの立場だったはずだ。それが何かの手違いでこんなことになってしまった。
ラインは天宇受売命を巻き込みたくない。天宇受売命はラインを救いたい。二つの願望が重なり合って起こった結果がこうなのである。
「まったく、矛盾してんだよ!」
西城はタイミングを見計らい、異能で草薙剣を粉々にする。
天宇受売命は空中に新たな草薙剣を出現させるがすぐには攻撃してこなかった。
「矛盾?一体何のことですか?」
「わからないのか?お前らはお互いにこれでもかってぐらい好きなのに敵対していることだ」
天宇受売命の瞳が微かに揺れた気がした。
「正直、あんたとラインが親友だろうが親友じゃなかろうが俺にはどうでもいい話なんだ。……というかあんたとラインは親友じゃない」
天宇受売命が息を呑んだことが西城にはわかった。
親友じゃないと他人に言われたことがショックだったのだろうか。それでも西城は続ける。
「親友だと思っていた天使に頼られなかったことに腹を立てているあんたの気持ち。わかるなんてことは言えない。それでもやっぱりあんたはラインの親友じゃないよ」
「なぜ……なぜ他人である人の子に私とそこの天使が親友ではないと言われなければならないのですか?」
「なぁ、神様。あんまり親友ってやつをなめるなよ?」
天宇受売命はたじろいた。
「親友の在り方なんて人それぞれだろうし、俺だって明確にこれだってものはない。だけどさ、親友ってやつはケンカしても仲直りするんだよ。どれだけ時間がかかってもお互いに心の何処かで許してるんだよ」
すでに天宇受売命の周りにまとわりついていた靄は消えていた。
「殺し合いなんてしない。お互いに認め合って絆を深めるそれが親友なんだと思う。だから、お前らは親友じゃない」
「いや……いやッ!!」
天宇受売命が急に叫んだ瞬間、俺は軽い衝撃とともに腹部が熱いと感じた。
「え?」
目線を落とすと、腹部に草薙剣が刺さっていた。
じわりと制服に赤いしみが出来ていくところを見て、ようやく自分が刺されたのだと認識する。
「ぐッ!!」
「幸助!?」
激しい痛みに襲われた西城は倒れることはなかった。
ただ、鼓動が上がり、全身が熱くなっていく。ラインが後ろから叫ぶが西城の耳には届かない。
西城は虚ろな目で天宇受売命を見る。目には涙を溜め、顔は引きつっっていた。
ああ、そういうことかと西城は納得する。
天宇受売命は拒否反応を起こしたのだ。親友じゃないと否定され、その根拠を説明され、それ以上のことを聞きたくないと。
「……逃げるなよ、神様。今逃げたら本当に親友じゃなくなるぞ」
西城は傷口を押さえ、両足に力を入れる。西城は倒れるわけにはいかなかった。
「俺はたしかに親友じゃないって言った。だけど、お互いを思い合ってるじゃないか」
西城の体が少し横に揺れる。石畳の上には小さな血だまりが出来ていた。どうやら西城は血を流し過ぎたらしい。
「……それにさ、あんたは親友じゃないことを否定した。親友でいたい、親友になりたい。つまり、そう思ってることだろ?」
西城自身、もう何を言っているのかわからなかった。
「だったら、今度こそ本当の親友になれよ!お互いを思い合うんじゃなくて助け合うようなそんな親友になれよ!!」
西城は最後の力で叫ぶ。頭は働かないし、言っていることは支離滅裂だとしても西城は叫び続ける。
「でも、立場上……」
「立場なんて関係あるか!!神だから、天使だから、そんなのは言い訳なんだよ!あんたが一番わかってんだろ!!あんたは今何がしたいんだ!!」
天宇受売命は黙り込む。一押し。あと一押しが足りないのだ。
西城は限界だった。立っているのもやっとというほどである。すでに頭は回らない上に口まで動かなくなってしまっていた。
西城が焦り始めたその時、天宇受売命に誰かが抱き着いたのだ。
「ウズメ、ごめんなさい。ウズメの気持ちも知らないで勝手に逃げて。でも、ウズメだけは巻き込みたくなかった!絶対に傷ついてほしくなかった!だから!!」
抱き着いたのはラインだった。天宇受売命と同じように目には涙を溜めていた。
「私は……私はもう一度あなたと親友になりたい!!」
天宇受売命は泣きじゃくりながら素直に叫んだ。
お互いに抱擁し合い、顔をうずめて泣く。
朦朧とした意識の中、西城は抱き合う二人の間に笑顔を見た。よかったと思いながら、西城の視界は暗闇に包まれた。




