第二章 十一節 女神は剣を持ちて舞い踊る
天宇受売命は拝殿の上に立っていた。月明かりに照らされ、ほぼ全裸に等しい姿が輝く。その横には草薙剣が浮いていた。
西城はとっさに構えて、ラインを後ろに下がらせる。
「くッ!?」
突如、凄まじい風が吹き始める。絵馬がカタカタと音を立て、周りの木々は激しく左右に揺れる。
西城はその場にしゃがみ込んで風に耐える。ラインに目を向けると、近くの手水舎の柱につかまっていた。
「神楽とは、巫女を神座として神を降ろす歌舞のことをいいます。鈴、扇、笹などを使い、神懸かりを行う。かくゆう私も岩戸隠れの時に行い、どうやらそれが起源になったのらしいのですが」
天宇受売命は拝殿の上から参道へと飛び降りる。強風で薄い布がたなびき、チラチラと肌色が覗いた。
西城は話の繋がりが見えない話に疑念を抱きつつも、耳を傾ける。
「舞うという行為は人の子が極めれば、それは美しくそよ風をなびかせる程度の舞いになることでしょう。では神が極めれば?」
「つまり、この風は神楽の時に起こる風を利用した魔法ってことか!?」
少しずつ思考が侵食されつつある西城はすぐに魔法だと気が付く。
とはいえ、風を起こしているのが魔法であって風自体が魔法というわけではない。
そのことまで気が付いていない西城は異能を使う。
「消え………って、ふごッ!?」
異能で消えなかった強風が西城を後ろへと吹き飛ばす。石段の近くまで飛ばされ続け、落ちかけた西城はゾッとする。
強風に抗いながら西城が立ちあがると、目の前に草薙剣が迫っていた。
「速ッ!?」
風により勢いづいた草薙剣が西城の頬を掠めた。痛みを感じつつも、西城は第二波に備える。
「壊れろ!!」
苦し紛れに放った異能が草薙剣を粉々にする。どうやら西城の異能の発動範囲だったらしい。
強風に煽られ、破片と化した草薙剣が遠くへと流れていく。西城はそれを見送る事さえせずに天宇受売命に向き直った。
「悪運は強いようですね。ですが、まだ他の依り代はありますよ?」
「チッ!」
すぐさま新たな草薙剣が現れる。強風に足を取られている西城はうまくかわし切れず、草薙剣が腕に掠る。
「ぐぁッ!!」
草薙剣の形状は魚の骨。いわば、のこぎりの刃のようにギザギザしている。そのため、草薙剣はただの真っすぐな刀より肉に深く食い込むのだ。
西城は掠った傷口を抑えながら、天宇受売命との会話を試みる。
「あんたはラインの親友なんじゃないのかよ」
その言葉が天宇受売命の逆鱗にふれたのか、今まで吹いていた風が止む。草薙剣も空中で止まっていた。
西城と対峙するように立つ天宇受売命は一瞬、左右に揺れたかと思うと一歩踏み出して答える。
「親友?そこの天使と私が親友?……ふざけるな!!」
天宇受売命は片手で髪を抑えると、激しく取り乱し始めた。この光景に西城は一種の悪寒を感じる。
「私はそこの天使の親友だった。それなのに私を見限った挙句、他の……それも人の子に頼るなどと!!……私の方がうまくやれた。私の方が彼女の心まで気を配れた。私の方が神々との戦闘ときに楽に戦えた。私の方が!!!」
天宇受売命は西城をキッと睨みつける。その目は余りにも憎悪に満ちており、神とは言い難いものがあった。
「あ、荒玉化!?」
突如、声を上げたのは手水舎の柱につかまっているラインだった。西城は何となくだが嫌な予感を感じる。
そして、まさにその通りだった。
「神の祟りと同一視される荒魂化がどうして!?ウズメは何も悪くない。それなのになんでこんな形で!!」
「嘆くのは後だ!今は対処法を教えてくれ!!」
そんなことはさせないとでも言うように草薙剣が再稼働する。西城はそれを避けながら、ラインに向って叫ぶ。
強風がなくなった分、草薙剣のスピードは落ちたが一つ一つの動作に無駄がなくなった。
そのせいか、今まで以上に西城は切りつけられていく。
「あくまでもまだ荒魂化、全ての能力値は上がっているけど『荒玉』ではないはず。なら、まだ神への証明で正気に戻せるはず」
回避に徹する西城をよそにラインはブツブツと呟く。その冷静な分析は限りなく的を得ているが、荒玉化している天宇受売命に証明をすることができるというのは別の話である。
「幸助!ウズメを止めて!!」
「止めてって言っても……」
西城は改めて荒魂化した天宇受売命をみる。
禍々しいとまではいかなくとも、人間が周りに何かあるなと目視できるような靄が天宇受売命にまとわりついていた。




