第二章 六節 天宇受売命
「さてと、ここまでお膳立てしたんだ。神様は出てこないのか?」
「いますよ。ここに」
ぞくッ。
天手力男命の時とはまるで違う感覚。それは神側が本気で西城たちを狙いに来たことを物語っていた。
一つ上の階にいる神はピンク色の髪をたなびかせ、西城たちの目の前に降り立つ。その姿はとてもエロティックだった。
そもそもの話、その神は服と呼べるようなものを着ていなかった。巫女服に近い薄い布を羽織ってはいたが、ほぼ全裸に等しい姿をしている。
「幸助。いま思ったことを正直に言った方がいいよ」
「ご、ごほんッ」
西城は目を背けた。西城とて高校生なのだ。ソッチ系の話に興味がないわけがない。
むしろ、目の前にいる神の姿をエロいと思ったのは正常なことだと言える。
「つまらない茶番はここまでですよ」
場の雰囲気が変わる。
大胆に肌を露出にしたままの神は西城たちに圧をかけたのだ。西城はたじろき、顔を引きつらせる。
「我らが主神の名のもとにそこの天使を保護します」
「……保護、だと?」
西城は耳の疑った。
ラインから聞いた話によると、彼女が仕える神はラインが見えるという言行録を悪用しようとしていたはずだ。
それを目の前の神は保護といった。まるで自分たちが正しいと正当化しているかのようだった。
「人の子よ。そこの天使をおとなしく差し出すというのなら危害は加えません。それとも、こんな所で一生を終えたいですか?」
「悪いな。俺はラインに不運なんてことを言わせる奴らを信用することは出来ない」
神に脅されようが西城の根本的なところは揺るがなかった。
一度、神から逃げきっているという慢心からくるものであったとしても、それは戦うときにおいて重要な役割を果たすものだ。
神は冷めた目で西城を眺めていた。保護対象であるはずのラインには一切目もくれない。
そのことを疑問に感じた西城が口に出そうとした時、小さな呟きが響いた。
「ウズメ……」
西城だけに聞こえた呟きだった。
ライン自身も呟いたことに気が付いておらず、どこか上の空に見える。
西城はおおよその検討をつけ、警戒しながらも神に喋りかけた。
「なぁ、神様。あんたとラインは知り合いだったのか?」
風が唸る。
「あぶない!!」
何が起こったのか西城にはわからなかった。
現状からいうと、西城はラインに押し倒されており、西城が立っていた場所は深くえぐられていた。
「人間風情が舐めた口をききますね。次、そんな事を口走ったら、この草薙剣で息の根を止めますよ?」
ラインにウズメと呼ばれた神は剣を片手に持っていた。
その刀身は白くまっすぐで、柄は魚の骨のような形をしていた。おそらく、その剣が地面をえぐったのだろう。
「草薙剣!?」
「ええ、かつて八岐大蛇の尾から見つかった神器ですよ。天使であるあなたが驚くべきことではないでしょう?」
神は素足のままぺたぺたと西城たちに近づく。そして、西城の首筋に草薙剣を押し当てた。
西城はつばを飲み込む。
少しでも動く素振りを見せれば、神は容赦なく西城の首をはねることができる。それはラインも同じである。
「ウズメ!!その人は関係ない!」
西城のすぐ後ろにいるラインは懸命に訴える。
だが、神はまるでラインを存在がないかのように扱う。
「……そういえば、まだ私の名を言っていませんでしたね。我が名は天宇受売命。発言には気をつけなさい人間」




