第二章 四節 衛士と変態
「……へ、変態が女の子を誘拐してる!??」
「バカなこと口走ってんじゃねぇぇぇ!!」
西城は全力で否定する。
ここで否定しなかったら、仲良く犯罪者の仲間入りである。それも冤罪で。
動揺しすぎたせいか、反射的に手錠を取り出している衛士。
その辺りについて物凄く抗議したい気持ちを抑えつつ、西城はラインに提案する。
「逃げてもいいかな?」
「現実逃避はよくないと私は思うよ」
正論に西城は言葉を詰まらせる。
あくまでも穏便に済ませようとするならば、ラインの言っていることは正しかった。
「あ、あれでしょ?お菓子あげるからついて来てね、みたいなことなんでしょ!?」
衛士は激しい被害妄想を膨らませる。
このままだと、本当に冤罪で捕まりそうな気がしてきた西城は衛士をなだめようと話しかける。
「とりあえず落ち着こうぜ」
「何ですか変態。話しかけないで下さい」
「おい!!さっきまでのテンパっていたよな!?」
態度の豹変っぷりに西城は驚きを隠せない。今までのが演技だとすると、背筋がゾッとする。
衛士は何か見定めるような目をしたかと思うと、急に西城に近づいた。
「確保ッ!!」
瞬間、西城は手を引っ込めた。そのおかげで手錠は虚空を切る。
「なんで手を引っ込めたんですか!このド変態!!」
「知らないうちに評価が一段階下がっていらっしゃる!?」
衛士は何度も西城に手錠をはめようと試みるが、西城の回避能力が凄まじく、手錠は宙をさまよう。
らちが明かないと思った西城は衛士の手首をつかみ、攻防戦は力比べに入る。
筋力ならば西城が上であるはずなのに、お互い全く引かない。
流石、警察の代わりをしている衛士なだけはある。
「何つかんでいるんですか!気持ち悪い!!」
「うるさい!!仕掛けてきたのはお前だろうが!」
精神攻撃へと移行した戦いは平行線のままだった。
あとはどちらかの体力が尽きるのを待つだけのはずだったのだが、そこに忘れ去られたラインが介入する。
「……幸助。他の女とイチャイチャするのは別の所でやってほしいのだけど」
西城は青ざめた。ラインに背を向けているため分からないが、その声は確実に怒っていた。
そして、西城は理解した。二の舞を踏むとはこういう事なのだと。
「ふっ」
グサッと頭にフォークが刺さった西城はあまり激痛に倒れこむ。
その顔はとても爽やかだった。
「え?な!きゃあ!?」
突然の出来事に反応できなかった衛士は西城に押し倒されるような形で倒れる。
しかも、西城は激痛の走る頭に全意識がいっているため、女の子を押し倒したという認識を持っていないのだから、なお悪い。
「まだ痛いな。……あれ?なにこの状況?」
顔面には赤面したまま硬直している衛士。背後には悪寒を感じさせるライン。
すでに修羅場であり、収めることは誰にもできないだろう。
西城は衛士の上から退き、立ちあがる。そして、神と戦った時よりも酷いダメージを受けたのだった。




