死神様、デートです。
「調査は粗方終わったな、帰るか」
タナトスが鷹揚に言った。
「えーまだお昼ですよ?」
「と言われてもな……」
「タナトス様、このアクセサリー欲しいです」
瓦礫になった街の小さな店。
「……まだ形が残っています」
「廃墟だぞ」
「でも、商品は残ってますよ」
「盗みでは?」
「いいんですよー」
「……」
アルネアの楽しげな満面の笑みに、タナトスはそれ以上追求しなかった。
悪魔のくせに、こういうところだけ妙に律儀な自分に、少し呆れながら。
二人は半壊した喫茶店に足を踏み入れた。
看板は傾き、屋根は半分吹き飛んでいる。
それでも椅子だけは、まるで今も営業しているかのように几帳面に並んでいた。
「ここ、入りましょう」
アルネアが誘う。
「ここか?」
「雰囲気があります」
「ただの瓦礫だよ」
「タナトス様は雰囲気というものを理解していませんね」
結局その店には長居せず、二人は少し歩いた先の中央公園のベンチへ腰を下ろした。
先程の店で復興用に残されていた保存食をアルネアが差し出す。
「おにぎりです」
「デートなので」
「いや、これは調査任務だぞ」
「もー」
「手を繋ぎませんか?」
「なぜだ?」
「デートだからです」
そう言って笑うアルネアの声は、いつも通り軽い。
軽すぎるくらいに。
「死神がデートを…」
「……」
風が、不意に止まった。
影が空を裂くように差し込む。
一体の権天使、プリンシパリティが、瓦礫の上に崩れ落ちるようにして降り立った。
重傷を負っていた。
「やはり、お前だったか」
プリンシパリティは息も絶え絶えに言った。
「……わたくしを知っているんですか?」
「忘れたのか。昔、お前は──」
「……ル……」
一瞬、名前を呼びかける。
アルネアの表情が変わる。
それ以上は、言葉にならなかったらしい。
プリンシパリティの膝が、崩れるように地面についた。
タナトスが死亡記録を見る。
「お前の死は既に確定している」
プリンシパリティは無言で笑った。
──わかっている、というように。
「今さら殺す理由はない」
「それ、優しさですか?」
「事実確認だ」
すぅっと透けるようにプリンシパリティは消えてゆく。
残されたアルネアは、しばらくその場を見つめていた。
「……昔の仲間だったのかもしれません」
「思い出したのか」
「いいえ」
「何も」
小さく首を振ってから、アルネアはぽつりと続けた。
「でも」
「懐かしい気持ちだけは残っています」
タナトスは何も言わなかった。
崩れた街を風が吹き抜ける。
「……帰るぞ、アルネア」
「はいっ」
アルネアは一度だけ、プリンシパリティが消えた空を振り返った。
読んでくれてありがとうございます。続きもゆるく楽しんでもらえたら嬉しいです。




