可愛くない補佐官。
悪魔カフェ一帯での戦闘から三日後。
アルネアは、タナトスと共に崩れた街の中を歩いていた。
「……ここが」
かつて、多くの悪魔が暮らしていた場所。
今は瓦礫と、消えかけた魔力の残滓が、光の粒となって宙に揺れていた。
「記録します」
手にした書類へ淡々と書き込む。
彼女は戦闘員ではない。
補佐官として、戦地の状況確認を任されていた。
アルネアは倒れた天使の兜を足先で転がした。
「死んだふり、ですか?」
返事はない。
「……警戒は必要です」
タナトスがため息をつく。
「お前、血も涙もないのか。相変わらず可愛くないな」
「そんなことないですよ~」
アルネアは笑顔で返す。
しかし。
(可愛くないって言われた……!)
(可愛くないって言われた……!)
(可愛くないって言われた……!)
(挽回しなくちゃ……!)
表情だけは完璧な補佐官のまま、内心では必死だった。
「それにしても……天使も悪魔も、死ぬ時は静かですね」
「生きている時だけ、正義だの悪だの叫ぶんですから」
「哲学的だな」
戦場跡地を歩む二人。
「ところでアルネア、その服装」
「あっ!」
アルネアが勢いよく振り返る。
「どうですか? 変ですか?」
「いや、いつもより少し違うと思ってな」
黒を基調とした礼装。
悪魔らしい鋭い意匠の中にも、袖口や襟元には小さな装飾が施されている。
戦場へ向かう服とは思えないほど、どこか丁寧に整えられていた。
「……似合っていると思うぞ」
「えっ……!」
(やったあ)
「ほっ……補佐官たるもの、いつでも綺麗にしておくものです……」
(本当は少しでも可愛いと思われたい)
そんな些細な会話をしながら少し歩くと、まだ息がある天使が倒れていた。
天使はタナトス達を見上げて言った。
「必ず……神罰が、お前たちを……」
天使は最後まで悪魔を睨みつけたまま、動かなくなった。
「……最後まで真面目ですね」
アルネアは倒れた天使へ静かに視線を落とした。
「死ぬ間際まで、自分の信じるものを疑わない」
「悪魔にはない強さかもしれませんね」
……その後、調査終了。
帰り道でアルネアが真面目に問う。
「最近、天使側の侵攻が増えていますね」
冥界の空に、白い翼が一つ舞った。
アルネアは天使の死体を調べて呟いた。
「それにしても妙です」
「何がだ」
「天使の侵攻なのに、撤退が早すぎませんか」
「まるで……何かを探していたような」
二人の間に短い沈黙が流れる。
その時だった。
「補佐官殿」
低級悪魔インプが物陰から現れた。
「遺体は回収しておきます」
「この天使だけは丁重に」
アルネアは指示する。
「最後まで信念を貫いた相手ですから」
「丁重……ですか」
悪魔兵は一瞬だけ天使を見つめ、静かにその亡骸を担いだ。
「時にアルネアよ」
「はい。タナトス様」
「思ったんだが、戦場でその装飾は邪魔にならないか?」
「……」
「アルネア?」
「タナトス様」
「なんだ」
「そういうところです」
「?」
「褒めたと思ったら、すぐ現実に戻すんですから」
「事実を言っただけだが」
「だから無粋なんです!」
アルネアはぷいっと顔を背ける。
(もう少し……女の子扱いしてくださいよ)
タナトスは彼女の拗ねた意味を、本気で分かっていなかった。
読んでくれてありがとうございます。続きもゆるく楽しんでもらえたら嬉しいです。




