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8/15

可愛くない補佐官。

 悪魔カフェ一帯での戦闘から三日後。


 アルネアは、タナトスと共に崩れた街の中を歩いていた。


「……ここが」


 かつて、多くの悪魔が暮らしていた場所。


 今は瓦礫と、消えかけた魔力の残滓が、光の粒となって宙に揺れていた。


「記録します」


 手にした書類へ淡々と書き込む。


 彼女は戦闘員ではない。


 補佐官として、戦地の状況確認を任されていた。


 アルネアは倒れた天使の兜を足先で転がした。


「死んだふり、ですか?」


 返事はない。


「……警戒は必要です」


 タナトスがため息をつく。


「お前、血も涙もないのか。相変わらず可愛くないな」


「そんなことないですよ~」


 アルネアは笑顔で返す。


 しかし。


(可愛くないって言われた……!)


(可愛くないって言われた……!)


(可愛くないって言われた……!)


(挽回しなくちゃ……!)


 表情だけは完璧な補佐官のまま、内心では必死だった。


「それにしても……天使も悪魔も、死ぬ時は静かですね」


「生きている時だけ、正義だの悪だの叫ぶんですから」


「哲学的だな」


 戦場跡地を歩む二人。


「ところでアルネア、その服装」


「あっ!」


 アルネアが勢いよく振り返る。


「どうですか? 変ですか?」


「いや、いつもより少し違うと思ってな」


 黒を基調とした礼装。

 悪魔らしい鋭い意匠の中にも、袖口や襟元には小さな装飾が施されている。


 戦場へ向かう服とは思えないほど、どこか丁寧に整えられていた。


「……似合っていると思うぞ」


「えっ……!」


(やったあ)


「ほっ……補佐官たるもの、いつでも綺麗にしておくものです……」


(本当は少しでも可愛いと思われたい)


 そんな些細な会話をしながら少し歩くと、まだ息がある天使が倒れていた。


 天使はタナトス達を見上げて言った。


「必ず……神罰が、お前たちを……」


 天使は最後まで悪魔を睨みつけたまま、動かなくなった。


「……最後まで真面目ですね」


 アルネアは倒れた天使へ静かに視線を落とした。


「死ぬ間際まで、自分の信じるものを疑わない」


「悪魔にはない強さかもしれませんね」



 ……その後、調査終了。


 帰り道でアルネアが真面目に問う。


「最近、天使側の侵攻が増えていますね」


 冥界の空に、白い翼が一つ舞った。


 アルネアは天使の死体を調べて呟いた。


「それにしても妙です」


「何がだ」


「天使の侵攻なのに、撤退が早すぎませんか」


「まるで……何かを探していたような」


 二人の間に短い沈黙が流れる。


 その時だった。


「補佐官殿」


 低級悪魔インプが物陰から現れた。


「遺体は回収しておきます」


「この天使だけは丁重に」


 アルネアは指示する。


「最後まで信念を貫いた相手ですから」


「丁重……ですか」


 悪魔兵は一瞬だけ天使を見つめ、静かにその亡骸を担いだ。



「時にアルネアよ」


「はい。タナトス様」


「思ったんだが、戦場でその装飾は邪魔にならないか?」


「……」


「アルネア?」


「タナトス様」


「なんだ」


「そういうところです」


「?」


「褒めたと思ったら、すぐ現実に戻すんですから」


「事実を言っただけだが」


「だから無粋なんです!」


 アルネアはぷいっと顔を背ける。


(もう少し……女の子扱いしてくださいよ)


 タナトスは彼女の拗ねた意味を、本気で分かっていなかった。


読んでくれてありがとうございます。続きもゆるく楽しんでもらえたら嬉しいです。

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