難攻不落の死神様。
冥界に侵入してきたニンゲンは自信満々に叫んだ。
「俺は魔王を討伐したこともある人間界の英雄、いわゆる勇者様だ!」
人間の勇者様は
・黄金の全身鎧
・聖剣
・勇者の紋章
の洋装のファンタジーでよくいる屈強な戦士だった。
だが、タナトスから見ると、
「今日の死亡予定者」
「予定外の侵入者」
「受付を通っていない来客」
でしかなかった。
「俺は千の魔物を倒した! 魔王すら恐れる英雄だ!」
自称・勇者の怒声に周囲の悪魔は慄いた。
「すごいぞ……」
「人間でここまで来るとは……」
と、ざわつく。
そこへタナトスが歩み寄る。
「名前は?」
「な、何?」
「死亡予定の確認だ」
「俺は死ぬつもりはない!」
「そうであろうな」
タナトスは真面目な公務員として告げた。
「お前の功績は確認した」
「冥界まで来たことも評価する」
「ただし手続きが必要だ」
淡々と処理をするタナトス。
「俺の力を認めた上で倒すのか……!」
黄金鎧の勇者は不満げに問うた。
「書類処理しているだけだ」
「貴様は……死の神」
勇者がそう呟いた瞬間、彼の鎧に刻まれた無数の傷が、ゆっくりと蘇る。
過去の戦いで受けた傷。
命を削った代償。
それら全てが、記録として呼び戻されていく。
聖剣の光が消える。
そこで勇者は初めて理解した。
目の前にいる存在は、自分を倒そうとしているのではない。
ただ、死という結果を確認しているだけなのだ。
勇者は聖剣を構える。
「まだだ……! 俺はまだ戦えるぞ!」
タナトスは首を傾げる。
「そうか」
終命録を見る。
「だが」
ページを閉じる。
「死亡処理は完了している」
勇者の身体から、淡い光が抜けていく。
「な……に……」
力が抜ける。
黄金の鎧が重くなる。
聖剣が床に落ちる。
「俺の……生命力が……」
「生気ではない」
タナトスは静かに言う。
「役目を終えた生命の時間が、正しい場所へ戻っているだけだ」
勇者は膝をつく。
「こんな、こんな死に方があるものか……!」
「安心しろ」
タナトスは手を差し出す。
「冥界では珍しくない」
「さあ、迎えだ」
慈悲とも取れるタナトスの言葉に、勇者は音もなく膝から崩れ落ちた。
◇
勇者騒ぎが終わった冥界庁舎。
「タナトス様……」
アルネアが声を掛ける。
「何だ?」
「今の戦い……すごかったです」
「いや、ただの仕事だ」
「……」
「?」
(そこは少しくらい格好つけてください!)
「誰よりもわたくしの方がタナトス様のこと知っていますから」
「そうなのか?」
「何百年も補佐官していますので!」
「そうだったな」
(伝わらないなぁ……)
タナトスは死神として敵を圧倒したあと、普通にカフェの新作を気にして店内を物色するのであった。
読んでくれてありがとうございます。続きもゆるく楽しんでもらえたら嬉しいです。




