表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/15

タナトス様は常連客。

 薄暗い冥界の街角。


 黒い石造りの建物が並ぶ路地の奥に、一軒だけ暖かな灯りが浮かんでいた。


 尖塔。

 小さな悪魔の像。

 赤く揺れる照明。


 外観だけを見れば、誰もが魔王城だと思うだろう。


 しかし扉を開けば──


 暖炉の火。

 木製のテーブル。

 甘い珈琲の香り。


 そこは冥界でも珍しい、落ち着いた空間だった。


 看板には黒い翼のマーク。


『悪魔カフェ・マグナ』


 店先の黒板には、今日のおすすめメニューが並んでいる。


『地獄シロノワール』

『冥界エスプレッソ』

『亡者のプレッツェル』


 一階はカフェ。

 二階は悪魔向け雑貨店。

 地下には古い酒蔵。


 怖い外観とは裏腹に、そこは冥界の住人たちにとって数少ない安らぎの場所だった。


 タナトスが悪魔カフェに入る。


 マグナが接客に来る。


 マグナは黒いエプロンを身につけていた。


 ただの給仕服ではない。


 深紅のリボンが胸元で結ばれ、袖口には小さな翼を模した刺繍が入っている。


 黒を基調とした制服は悪魔らしい雰囲気を残しながらも、白いフリルと柔らかなラインによって、どこか可愛らしい印象を与えていた。


 頭には小さな帽子。

 尻尾の先には、店のロゴと同じ黒い翼の飾り。


「悪魔カフェ・マグナ」の店主であることを一目で分からせる、彼女専用の制服だった。


 悪魔らしい黒と赤を使っているのに、不思議と威圧感はない。


 むしろ「怖い悪魔」ではなく、「毎日通いたくなる店員」の姿だった。



「いらっしゃいませ……あ、タナトス様ですかぁ」


「いつものな」


「まだ注文を聞いてませんがー」


「いつものだよ」


「……本当に常連ですねえ」


 そこへアルネアが来る。


「タナトス様!?」


「ん、アルネア。なぜいるんだ?」


「それはこちらの台詞ですよ」


 アルネアはマグナを見る。


「まさか……二人で……」


 マグナはため息。


「違うよん」


「でも距離が近いし」


「注文を聞いてるだけ」


 そしてマグナが、


「アルネア、あんた何百年もこの人を見てきたんでしょお」


「ええ…」


「じゃあ分かるでしょ」


「何が?」


「この人の性格」

(店員としか見てないわよ)


 タナトスは恋愛沙汰に鈍感だった。(今さら)


「珍しい珈琲豆だな」


 とマグナの説明を真剣に聞く。


「……」


(わたくしの話は虫の話と間違えたのに、珈琲の話は聞いてる……)


 小さい嫉妬がアルネアに湧き起こる。


「仕事のほうは終わったのか、アルネア」


「はい、急いでここへ来ました」


「なぜ急ぐ……」


(早くタナトス様にお会いしたくて)


 そこに怒号が走った。


「ニンゲンが一人冥界に紛れ込んだぞ!」

「かなりの猛者だ」

「どうやって入ったんだ!?」

「門番は何をしていた!」


 タナトスは終命録を開いた。

 そこには今日、冥界へ来る者たちの名前が並んでいる。


「……予定通りだな」


 彼にとって、それは武器ではない。

 死者を迎えるための業務記録だった。


 黒い髪に白いロングコート。

 その下には黒いシャツと細身のスーツ。

 胸元には冥界行政局の徽章。


 一見すると医者のようにも見えるが、彼が扱うのは生命ではなく死だった。


読んでくれてありがとうございます。箱庭は今日も静かに回っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ