補佐官同士の友情。(物理)
「あー忙し! ……ふぅぅ」
マグナはカウンターの向こうで、盛大にため息をついた。
「神性糖が切れた……」
琥珀色の小瓶を光にかざしても、中身はほとんど残っていない。今日はまだ客も途切れていないというのに、これでは困る。
「よっ!」
扉が開く音とともに、聞き覚えのある声が飛び込んできた。顔を上げると、アルネアがひらひらと手を振っている。
久しぶりの再会だった。
二人は兄弟神の補佐官という同じ立場にある。
仕事仲間というより、友人に近い関係だった。
買い物に付き合ったり、休憩時間に一緒にお茶を飲んだり。 そうやって、長い年月を共に過ごしてきた相手だ。
「おーあんた最近来ないじゃん!」
「監査やら何やらで忙しかったんだ」
アルネアはカウンター席に腰を下ろしながら、肩をすくめる。
「この前の限定パフェ、一人で食べたわ」
「えぇぇぇ!? 誘ってよー!」
悲鳴のような声を上げるアルネアに、マグナはけらけらと笑った。ひとしきり笑い合ったあと、ふとアルネアの表情が変わる。
「……」
「わたし追放されるかも」
深刻な声だった。
マグナは固まった。
「え?」
「天界との因縁が発覚して……」
「そうなの?」
「なので相談に来たの」
「いや相談相手、私でいいのぉ!?」
思わず声が裏返る。それでもアルネアは真剣な顔を崩さない。
「天界との因縁って何?」
「わたしにも詳しく分からないんだー」
「それで追放されるかもって落ち込んでるのぉ?」
「うん……」
しゅん、と肩を落とすアルネアに、マグナは呆れたように笑った。
「相変わらず真面目すぎ!」
「マグナならどうする?」
真剣に問われて、マグナは少し考える。
「逃げる」
「え、それは……」
「だって面倒じゃん!」
「え?」
アルネアが目を丸くした次の瞬間、マグナは突然その腕を掴んでいた。
「そういう時はこう!」
油断しているアルネアに卍固めをしかけるマグナ。
「ちょっ、痛い痛い!」
「悩みは体から追い出す!」
「その理論初めて聞いたよ!」
「くよくよ悩んでる場合じゃないよっ?」
「く、苦しい」
情けない悲鳴を上げながらも、アルネアの表情から先ほどまでの深刻さは、少しだけ抜けていた。
◇
一方その頃、宮殿の会議室では。
リュネが一枚の報告書を、静かに卓へ置いた。
「監査結果です」
サタンがそれを手に取り、無言のまま数枚めくっていく。やがて、ぽつりと呟いた。
「……決定的な問題はないな」
向かいに座るハデスが、腕を組んだまま頷く。
「疑わしい。しかし証拠もない」
「本人は何百年も問題を起こしていませんよ?」
ペルセポネが静かに口を挟んだ。それに続けて、もう一言。
「それに、アルネアは何百年も冥界で働いています」
短い沈黙が、会議室に落ちる。
やがてサタンが小さくため息をついた。
「なら保留だ」
「監視は続ける」
リュネは静かに頭を下げる。
「承知しました」
ハデスが書類を閉じながら、付け加えた。
「本人には伝えるな」
「また余計な心配をするからの」
こうして、アルネアの処遇は、一旦保留となった。
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