第097話「継承者候補」
王座の足元へ刻印が集まっていた。
なら、先はこっちだ。
壇を回り込むと、王座の背後じゃなく、足元の奥に細い開口があった。隠し通路という感じじゃない。最初から道として切ってある幅だ。左右に並んでは進めない。ひとつずつ入るための幅しかない。
◇ ◇ ◇
中へ入る。
王座の間より、さらに静かだった。
白層みたいな冷たさは薄い。黒玻璃の壁と床に刻印が走っているだけで、余計なものがない。建物の奥というより、仕組みの中に入った感じがする。
前脚を一歩置く。
足元の刻印が光った。
次に後脚を置くと、その光が一枚先へ移る。壁にも細い線が走って、すぐ消える。
罠じゃない。
前脚、後脚の順で反応してる。踏み方を見てるのか。
◇ ◇ ◇
もう一歩進む。
喉の奥がじわっと熱くなる。鱗の下も、一緒にどくんと鳴る。竜威が漏れた時の反応じゃない。もっと内側だ。
竜因子の方か。
刻印の光が、前脚、胸、喉の順に上がる。殴るでも押し返すでもなく、進むたびにこっちの反応を見ている。
ここ、追い返すための場所じゃない。
俺がこの先へ進めるか、そこで見てる。
◇ ◇ ◇
壁へ鑑定を向ける。
文字が浮いた。
■■継■■/読取不能
適■■■/読取不能
継承と、適格か?
そこまで見えたところで、残りはまた潰れた。
相変わらず肝心なところは読めない。けど、今のだけでも十分だ。この先は防衛帯の続きじゃない。俺を先へ進ませるかどうか見る場所だ。
◇ ◇ ◇
通路の真ん中まで来たところで、床の光が一段強くなった。
次の瞬間、空気ごと重くなる。
四肢が止まる。前脚を持ち上げようとしても遅い。首を上げるのも、さっきまでより鈍い。
体が急に重い。キツい。
でも、追い返されない。
押し戻す圧じゃない。その場で止めて、どこまで耐えるか見ている感じだ。
前脚を踏ん張る。
喉の奥がもう一度熱くなる。鱗の下の脈も強くなる。竜因子に、床の刻印が合わせてきている。
数歩も進まないうちに潰すなら、最初からそうしてる。
だったら、ここは耐える場所だ。
◇ ◇ ◇
そのまま一歩だけ、前へ出た。
床の光が喉元まで追いかけてくる。
もう一歩。
そこで、重さがすっと引いた。
通れた。
王だと認められた感じはない。
でも、侵入者のまま叩き出されたわけでもない。
候補扱いくらいには、なったらしい。
◇ ◇ ◇
導路の先は、小さい部屋だった。
王座の間ほど広くない。けど、静かさはこっちの方が強い。床の刻印は中心へ集まっていて、部屋の奥だけ黒玻璃の色がわずかに違う。
反響定位を流す。
その向こうで、どくん、と一つだけ返った。
生き物の鼓動じゃない。
でも、何かが脈打ってる。
たぶん、次はあれだ。




