第098話「接触」
小部屋の奥には、黒玻璃の台座が据えてあった。
台座の真ん中に、丸い核が半分だけ埋まっている。真っ黒な球じゃない。中を走る白金色の筋が、脈を打つたびに薄く光った。
反響定位を流す。
返りは、その核からだけ来た。壁でも床でもない。そこだけが、どくん、と一つ返す。
生き物じゃない。けど、死んだ物でもない。
これが、この迷宮のコアか。
◇ ◇ ◇
台座の縁にも、白金色の筋が入っていた。
王座の肘掛けに走っていた筋と同じだ。氷棺の表面に浮いていた筋にも似ている。竜骨、氷棺、王座で見た白金色の筋が、ここでは全部ひとつの台座に集まっていた。
ここが一番奥なら、もう触るしかない。
◇ ◇ ◇
前脚を伸ばした瞬間、台座の白金色の筋が爪先の前まで走ってきた。
そのまま、コアへ触れる。
次の瞬間、小部屋の白金色の筋がまとめて光った。
床、壁、台座の線が一気に繋がって、白金色の光が部屋中を走る。前脚の先が熱い。そこから腕、肩へ順に熱が上がってきた。
反響定位が潰れる。
返りが全部同じ音になって、壁の位置が取れない。さっきまで分かっていた部屋の形が、一瞬で消えた。
まずい。
でも、押し返されてるわけじゃない。逆だ。前脚から肩へ上がった熱が、そのまま首の奥へ入ってくる。
◇ ◇ ◇
前脚を引く。
離れない。
爪が引っかかったんじゃない。前脚の下の白金色の筋が爪の間に入り込んで、前脚ごと台座に縫い止めている。
四肢へ力を入れる。
視界が揺れた。肩の内側まで熱い。MPも勝手に削られる。息を吸っても、胸がうまく広がらない。苦しい。
白金色の光は、まだ肩までしか上がっていない。ここで無理に引いたら、肩まで来た光がそこで切れて、前脚だけ台座に残りそうな、そんな嫌な感じがした。
前脚を押しつけたまま、踏み張る。
◇ ◇ ◇
どくん。
コアが一段強く脈を打った。
次の瞬間、景色が割り込んできた。
黒玻璃の柱が、左右に何本も並んでいる。床には今の王座の間より太い白金色の筋が走り、その先に高い壇があった。
壇の上には玉座がある。その肘掛けに、黒い爪のついた太い前脚が乗っていた。
背後では、天井近くまで届く長い影がゆっくり揺れる。
見たことがない。
なのに近い。今の俺の目じゃない場所から、そのまま見ている感じがする。
これ、記憶か。




