第096話「空の玉座」
防衛帯の先へ伸びていた参道を進む。
ここまで来ると、白層の冷え方とはもう違った。冷たいのは同じでも、生き物の匂いも巣の感じもない。床の刻印も、左右の壁も、白金色の骨の意匠まで揃いすぎていて、自然にできた洞窟には見えなかった。
使われなくなって長い建物みたいな静けさだけが残っている。
◇ ◇ ◇
参道を進むほど、床が少しずつ高くなる。
反響定位を流すと、先で音が大きく返った。広い部屋だ。その奥だけ返りが高い。壇みたいな段がある。
奥に一段高い壇がある。広間の真ん中じゃなく、奥だけ高くしてある。
何かを置くための作りだ。
◇ ◇ ◇
参道が切れたところで、広間が一気に開いた。
正面の奥に、高い壇がある。
その上にあった。
黒玻璃と白金色の意匠で組まれた席だ。座面は今の俺の肩よりずっと高い。背もたれは壇の後ろまで伸びていて、人間の椅子には見えない。幼竜になった今の俺でも、小さく見える。
王座って、こういうやつを言うのか。
◇ ◇ ◇
壇へ近づく。
王座には、何もいなかった。
座るやつがいない。
ここまで刻印も守護像も残っていたのに、席だけが空いている。
氷棺も、竜骨も、白い層の導線も、守護像も、みんなここへ繋がっていた。なのに、その真ん中の席だけが空いたままだ。
この迷宮、王を失った場所なのか。
◇ ◇ ◇
壇の手前まで出たところで、足元の刻印が一段だけ強く光った。
追い返されはしない。
でも、好きに触っていい感じでもない。
参道で見てきた線より細い刻印が、王座の足元へ集まって、そのまま壇の奥へ流れている。
反響定位をもう一度流す。
王座の後ろは壁じゃない。反響が、もう一段奥から返ってくる。その先に、まだ空間がある。
王座に着いたら終わりじゃないらしい。
◇ ◇ ◇
壇の前で止まって、広間を見返した。
ここまでの守り方で分かる。白層の奥にたまたま広い部屋があったわけじゃない。最初から、ここへ届くように作られていた。
王座は見つけた。
でも、まだ終点じゃない。
刻印の流れは、王座の手前で止まっていない。壇の奥へ続いている。
次は、あの先だ。




