第095話「王座前の防衛帯」
隔壁を抜けて、前室へ前脚を踏み入れた。
その瞬間、足元の刻印が青白く走る。左の守護像の胸に線が入り、石の首がゆっくりこっちへ回った。
一体だけか。
一体だけでも、まともに受けたら押し切られる。次の瞬間には、その石腕が真横から薙いできた。
前脚と肩で受ける。衝撃が強い。
竜鱗装甲を入れていても、そのまま半歩ぶん押し戻された。後脚が遅れる。まだ前脚と後脚がうまく噛み合っていない。
◇ ◇ ◇
守護像は、そのまま追い打ちしてこなかった。
一度だけ頭を傾けて、こっちを見る。
迷ってるのか?
その一瞬で、壁へ爪を掛けて上を取る。肩口へ前脚をねじ込み、雷纏を短く流した。
石の肩にひびが入る。守護像の腕がそこで少し止まった。
効く。けど、これで終わりじゃない。
右へ降りた瞬間、今度は床の別の線が光って、向こうの守護像の胸まで繋がった。
一体を止めても、次が起きる。
これ、像を順番に壊して進む場所じゃない。
◇ ◇ ◇
いったん壁際へ寄る。
床を見た。
刻印は全部同じじゃない。強く光る線もあるし、光りきらない薄い線もある。
反響定位を流す。
返りも違った。強い線は守護像の足元へまっすぐ繋がっている。薄い線だけ、返りが少し鈍い。
さっきから、こっちが踏んだ時に迷ってるのはその線だ。
漏れてる竜威のせいか、幼竜の気配のせいかは分からない。けど、防衛機構も、俺をすぐ外敵だと決め切れていない。
だったら、反応が鈍い線だけを使う。
◇ ◇ ◇
まず、一体目の視線を壁側へ寄せる。
肩口にもう一度、短く雷纏を入れた。守護像の腕がこっちへ向き直る。
その間に、薄い刻印線へ前脚を置く。
右の守護像の胸も光った。けど、すぐには動かない。確認するみたいに、頭が少し遅れた。
今だ。
後脚を寄せ、壁へ爪を掛ける。濃い線を避けて、薄い線だけを拾っていく。
中央の床を走れば早い。でもそれをやると、守護像がまとめて起きる。
壁際の細い余白を、四肢で刻む。
◇ ◇ ◇
途中で、右の守護像の腕が落ちてきた。
尾と背で受ける。痛い。衝撃で息が詰まる。けど、竜鱗装甲がうまく流した。前の体ならここで潰れていた。
そのまま胸を持ち上げて、一段高い縁へ前脚を掛ける。
濃い刻印線をまたがった瞬間、背後で光が強くなった。ぎりぎりだった。
濃い線は、まだ踏んでいない。
前脚、後脚、前脚。
順番だけ意識して、薄い線を追う。
最後の一本を越えたところで、床の光がすっと消えた。
後ろを振り返る。
守護像はそこで止まっていた。追ってこない。前室の中だけを守ってるらしい。
◇ ◇ ◇
防衛帯の先に、黒玻璃の参道がまっすぐ伸びていた。
床の刻印は、前室よりさらに濃い。音の返りも広い。先にある空間の方が、一段高い。
王座の前まで、こうやって仕切ってたのか。
守りは越えた。
次は、あの先だ。




