第094話「閉じた隔壁」
正面の隔壁へ前脚を当てた。
爪を立てて引く。硬い音だけが返る。肩から押しても動かない。雷纏を薄く乗せて叩いてみても、白い火花が散っただけだった。
氷棺ほどじゃないにしても、こっちも壊して入る壁じゃない。
◇ ◇ ◇
足元の砕けた像へ目を向ける。
顔は潰れている。胴も割れている。けど、台座と脚は残っていた。ただの飾りなら、こんな置き方はしない。
鑑定を向ける。
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守護像の残骸
王座領域の防衛機構の一部。
大破状態。
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防衛機構?
ってことは、この先に王座があって、それを守ってたのか?
◇ ◇ ◇
次の瞬間、残骸の下で黒い欠片が光った。
砕けた石の腕だけが、床を擦って跳ねる。速い。
左前脚で受ける。重い。竜鱗装甲を入れていなければ、そのまま弾かれていた。
もう一発来る前に壁へ爪を掛けて上を取る。腕の付け根に、核が半分だけ残っていた。
そこへ右前脚をねじ込み、雷纏を短く流す。
ひびが走った。
石の腕がそこで止まる。
残骸でこれか。
隔壁の向こうが本番なのは、よく分かった。
壊れた腕一本でこの重さなら、向こうの無傷はもっと面倒だ。
◇ ◇ ◇
砕けた像の足元には、隔壁まで続く細い溝が刻まれていた。
試しに前脚をそこへ置く。
爪の先が、ぴりっと震えた。
その瞬間、隔壁の刻印が一本だけ光る。押しても動かなかったのに、今度は向こうから反応が返ってきた。
喉の奥も少し熱を返す。漏れてる竜威か、今の体の気配か。とにかく、この体には反応してる。
右前脚も溝へ置く。
隔壁の刻印が一気に広がった。
次の瞬間、閉じていた隔壁が、そこでやっと左右に開き始める。
壊して入る壁じゃない。反応した相手だけ通す入口だ。
誰でも通すわけじゃない。
今の俺には、開いた。
◇ ◇ ◇
隙間へ体を滑り込ませる。
隔壁の向こうは、広い前室だった。
床の刻印は途切れていない。左右には、今度は砕けていない守護像が並んでいる。数も多い。どれも俺の方を向いたまま、まだ動かない。
さっきの残骸は入口で壊れたやつで、こっちがまだ残ってる本体か。
白層や氷棺の間とは空気が違う。冷たいのに静かすぎる。王の前へ入るための場所だけが、ここに残ってる感じだ。
入口は越えた。
けど、本番はここからだ。




