第093話「先に取るもの」
氷棺を背にして、奥の通路へ入った。
◇ ◇ ◇
氷棺の向こうの黒玻璃通路は、白層までの道と空気が違った。
冷たいのは同じでも、獲物が凍って死ぬ場所の寒さじゃない。生き物の匂いがかなり薄い。
壁と床の角もやけに揃っていた。自然に割れた洞窟というより、最初から通路として残っていた形に見える。
刻印も濃い。ただ散っているんじゃなく、通路の縁に沿って並んでいた。
◇ ◇ ◇
途中、壁際の割れ目に小さい魔物がいた。
白い毛玉みたいなやつが、こっちを見た瞬間に固まり、そのまま奥へ逃げる。飛びかかってもこないし、道も塞がない。
勝手に逃げてくれるのは楽だ。
こっちから追わない限り食えないから、レベルは上がらないな。
◇ ◇ ◇
通路の途中で、床が急に細くなった。
床の端が斜めに落ちていて、腹だけで進むとそのまま滑る。前の体ならここで落ちていた。
右の爪を高い位置へ入れて、後脚を小さく詰める。滑りそうになったところで雷纏を薄く乗せると、一歩ぶんだけ強く踏めた。
そのまま胸を引き上げる。
乗った。
やっぱりこの体、通れる場所が違う。
◇ ◇ ◇
さらに進んで、壁に手を触れる。
ここから先は傷の残り方まで違った。
獣の爪痕じゃない。まっすぐだ。長さも深さも揃っていて、何かを切った跡に見える。
足元には、砕けた石の塊も転がっていた。顔はもう潰れているが、台座と脚の形だけは残っている。
像だ。
しかも飾りじゃない。
通路の脇に立っていた守りの何かが、壊れたまま残ってる。
ここから先は、守るための像や仕掛けまで置いていた場所だ。
◇ ◇ ◇
反響定位を流す。
返り方が変わった。細い通路の返りじゃない。少し先で壁が立っていて、その向こうに広い空間がある。
もう少し進む。
通路はそこで止まっていた。
正面に、黒玻璃の隔壁が閉じている。
刻印は今まででいちばん濃い。左右の足元には、さっきと同じ砕けた像の欠片が転がっていた。
向こう側は広い。
音の返りだけで分かる。
たぶん、ここから先が本番だ。
白い層と、王座に繋がる気配があるなら、たぶんこっちだ。
まずは、この隔壁を越える。




