第090話「幼竜の体」
ステータスをもう一回見る。
HP244。MP160。攻撃力120、防御力110、素早さ116、知力112。
幼竜、伸び方おかしい。
HPもMPもかなり増えた。攻防も高い。速さまで前より上だ。
なのに、前脚を一歩出しただけで後脚が遅れる。尾も重い。
数値は強い。動かす方が全然追いついてない。
◇ ◇ ◇
まず、前脚の爪を黒玻璃に立てる。
深い。
前なら壁走りで無理やり引っかけていた角度だ。それが今は、軽く押しただけで止まる。
そのまま胸を浮かせようとして、力を入れすぎた。体が前へ出すぎて、首が落ちる。
危ねえ。
強い。けど、ちょうどいい力加減がまだ分からない。
冷気も前よりましだった。腹を落としても、前みたいにすぐ動きが鈍らない。
MPもかなりある。
魔力を前脚へ薄く流す。まだ余る。
前なら、ここでだいぶ気を使っていた。
今は流しても残る。
◇ ◇ ◇
次に、雷纏を薄く乗せる。
鱗がびりっとまとまった。前みたいに帯電鱗、雷走、短放電を別々に使う感じじゃない。まとめて一枚で乗る。
そのまま一歩出る。
速い。
思ったより速くて、前脚の置き場を通り越した。慌てて爪を立てる。黒玻璃が削れた。
これはかなりいい。
ただ、まだ速さに体が負ける。
続けて、肩から骨の出っ張りへ当たる。竜鱗装甲を意識した瞬間、鱗の下の硬さが揃った。
前よりぶつかり強い。
受けた時のずれ方も浅い。
数値だけじゃない。ちゃんと動きに出てる。
◇ ◇ ◇
空洞の上を見る。
前から気になっていた場所がある。
高い黒玻璃の壁。その途中を白金色の骨が斜めに走っていて、その先に細い割れ目が見える。
前の体じゃ無理だった。
高さも足場も足りない。腹で這うだけだと、途中でずり落ちる。
でも今は前脚がある。後脚もある。
登り方そのものが変わる。
◇ ◇ ◇
前脚を高い位置へ掛ける。
入った。
胸を寄せる。後脚で押し上げる。
そこで一回ずれた。押しが強すぎて、尾が壁にぶつかる。
まだ下手だ。
もう一度。
今度は前脚を先に決めて、後脚を小さく詰める。胸を浮かせたまま、骨の縁を受ける。
乗った。
前の体では届かなかった高さまで上がる。
上から見ると、景色が違った。
今まで壁の筋にしか見えなかった黒い線が、段差になっている。霜の下の刻印も、通路の縁に沿って並んでいた。
道だ。
前は壁にしか見えなかった場所が、今は道に見える。
◇ ◇ ◇
骨の上を慎重に進む。
黒玻璃の割れ目へ頭を入れる。狭い。けど、肩を先に通して、後脚で押せば抜けられる。
ここも前なら無理だった。
腹だけだと引っかかる。今は前脚で引いて、後脚で押せる。
通れた。
割れ目の先は、ただの隙間じゃない。
黒玻璃の床がまっすぐ伸びている。左右の壁には、今までより濃い刻印が残っていた。
古い通路だ。
しかも、まだ先へ続いてる。
◇ ◇ ◇
反響定位を流す。
返り方が細い。長い。途中で折れて、さらに奥へ伸びている。
その奥から、乾いた圧が流れてきた。
この圧の流れ、たぶんさらに奥まで続いてる。
幼竜の数値は、見た目だけじゃなかった。
前の体で届かなかった場所が、ちゃんと道になる。
まだ歩くだけでずれる。爪の掛け方も、後脚の押しも雑だ。
それでも、この体ならさらに奥へ行ける。
通路の先で、霜の下の刻印がまた一段濃くなった。




