第087話「食える場所」
ハイバミの死骸から口を離した。
うまかった。次は骨だ。
白金色の骨列へ向き直る。さっきまで戦場だった空洞は、今は妙に静かだった。白い霧は浅い。乾いた古い圧だけが、黒玻璃の床に薄く残っている。
◇ ◇ ◇
近づく。
喉の奥が熱い。鱗の下も脈を打つ。
でも、さっきと少し違った。
骨の前で強く反応しているのは竜因子の方だけだ。蛇王因子は静かだった。あっちは骨へ引かれていない。前より少しだけ噛み続けられそうなのは、たぶん今の蛇の器が強くなったからだ。骨へ引かれてるのは、やっぱり竜因子の方だ。
竜因子だ。
白金色の節を、一本ずつ追った。
どこでも同じじゃない。節と節の間。昔ついた傷の縁。黒玻璃へ深く食い込んだ継ぎ目。そういう場所だけ、圧の集まり方が違う。
その中に一か所、露骨に濃いところがあった。
霜が薄い。白金色の骨肌が少しだけ露出している。前に軽く噛んだ時より、喉の熱がはっきり強くなる。
分かる。
ここだ。
ここは噛める場所じゃない。
食える場所だ。
◇ ◇ ◇
歯を立てた。
前に軽く試した時より、明らかに深く入る。
硬い。なのに、その奥が妙に柔らかい。骨を削っているはずなのに、口の中へ流れ込んでくるのは欠片より熱だった。
熱い。
圧ごと飲んでる。
喉の奥が一気に焼ける。MPも勝手に減る。けど、今回はそこで終わらない。熱がそのまま腹の奥まで落ちた。
通知が鳴った。
『レベルが上がりました Lv16 → Lv17』
来た。
やっぱりここだ。
◇ ◇ ◇
もう一口いく。
同じ場所へ、もう一度牙をねじ込んだ。
さらに深い。
白金色の骨肌が歯の間で軋む。その奥から、今度は熱だけじゃなく圧まで流れ込んできた。喉の奥が熱すぎる。背骨の内側までじわじわ焼ける。
竜威を使うつもりはない。
なのに、空洞の空気がまた少し沈みかけた。白い霜が細かく震える。帯電鱗の青白さまで、勝手に滲む。
通知がまた鳴った。
『レベルが上がりました Lv17 → Lv18』
◇ ◇ ◇
熱が止まらない。
喉の奥だけじゃない。鱗の下の脈まで強くなりすぎる。体の内側に入ったものが、今の胴の太さに収まり切っていない感じがした。
食える。
ちゃんと食えてる。
でも、持てない。
前より噛み続けられているのは、たぶん蛇王因子で今の蛇の器が少しだけ強くなったからだ。けど、それでも足りない。骨へ引かれているのは最後まで竜因子の方で、こっちはそれに振り回されているだけだ。
この先はレベルアップして終わるやつじゃない。
もう成長の方じゃない。
器の話だ。
これ以上を今の雷鱗蛇に流し込んだら、先に体の方が変わる。
◇ ◇ ◇
一度だけ、牙を離した。
白金色の骨列はまだ喉の奥を引っ張ってくる。さっき噛んだ場所が、次の一口もそこだと分かるくらいにはっきり残っていた。
ステータスを開く。
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種族:雷鱗蛇
Lv:18
HP:154 / MP:110
攻撃力:80 / 防御力:68
素早さ:108 / 知力:90
【スキル】
捕食継承 Lv1 / 毒牙 Lv3 / 締め付け Lv2
鱗硬化 Lv2 / 壁走り Lv3 / 振動感知 Lv3
熱感知 Lv2 / 外殻粉砕 Lv2 / 毒液圧縮 Lv1
酸耐性 Lv1 / 粘着無効 Lv1 / 毒霧 Lv1
鱗弾き Lv1 / 急旋回 Lv1 / 嗅覚強化 Lv1
反響定位 Lv2 / 鑑定 Lv2 / 反響撃 Lv1
魔力操作 Lv2 / 竜威 Lv1 / 竜息 Lv1
熱体 Lv1 / 殻硬化 Lv1 / 帯電鱗 Lv1
雷走 Lv1 / 短放電 Lv1 / 冷気耐性 Lv2
冬眠 Lv1
竜因子 / 蛇王因子
次の進化まで:99%
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99%。
ほぼ届いた。
もう、数字の問題じゃない。
もう一口で届く。
次を飲み込んだら、今の雷鱗蛇の体じゃ受け止めきれない。




