表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱ステータスでヘビに転生した俺は、スキル補食と進化をしながら迷宮を攻略する  作者: 迫力くん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/139

第081話「荒らした餌場」

 上の継ぎ目まで逃げたあとも、削る音はしばらく下で続いていた。


 あいつは標本庫を一周して、奥へ消える。冷気の強い切り替わりで戻り、弱い間に深い方へ抜ける。さっき上から見た動きは、だいたいそんな形だった。


 次に狙うのは主じゃない。


 標本庫の中身だ。


 この層に馴染んだやつを食えば、この層で粘れる何かが拾えるかもしれない。まずはそこを狙う。


   ◇ ◇ ◇


 黒玻璃の裂け目へ半身を押し込み、冬眠を使った。


 相変わらず、気分は最悪だ。


 眠るというより、熱を底へ沈める感じに近い。腹の芯が冷たく固まり、その代わり削られる速さだけが妙に鈍る。動いていない間だけは、たしかに効く。


 ただし起き抜けは重い。


 戦闘中にこれをやったら、そのまま食われる側だ。


 待ち伏せ専用。用途はそれだけで十分だった。


   ◇ ◇ ◇


 削る音が遠ざかり、冷気の吹き上がりがひとつ弱まったところで起きる。


 だるい。体が一枚遅い。


 でも生きてる。まだ削られ切っていない。


 黒玻璃の継ぎ目を滑り、凍結標本庫へ戻った。


 今はもう、ここが保存される側の場所には見えない。資源置き場だ。


   ◇ ◇ ◇


 食う相手は選んだ。


 入口寄りの小さい死骸は飛ばす。狙うのは奥まで運ばれていたやつ、冷気に強そうな厚い殻や毛皮のやつ、それから主が途中まで食って残したやつだ。


 まず、奥の段に押し込まれていた四脚の胴へ噛みついた。


 硬い。冷たい。だが中身の詰まり方が違う。白い層の浅いところにいたやつより、肉の味がずっと濃い。


 通知が二つ続いた。


『レベルが上がりました Lv1 → Lv2』

『レベルが上がりました Lv2 → Lv3』


 いい。かなりいい。


 まだ腹の下はキツいが、最初に白い面へ触れた時の「そのまま終わる」感じは少し薄い。


   ◇ ◇ ◇


 次は、主の食いかけだ。


 肩口から大きく抉られた中型の胴が、壁際に残っている。食われた断面がまだ新しい。ここまで運ばれて、主に一度噛まれたやつの方が、この層の深いところまで届いていた証拠でもある。


 迷わず食う。


 うまい。脂乗ってるわ。寒いところで生きてたやつらしく、肉の下に厚く乗っている。


 通知がまた重なった。


『レベルが上がりました Lv3 → Lv4』

『レベルが上がりました Lv4 → Lv5』


 かなり伸びる。


 標本庫の奥にあるやつほど質がいい。やっぱりそうだ。


 時間があるうちに、詰め込めるだけ詰め込む。


   ◇ ◇ ◇


 主の巡回はまだ戻らない。


 冷気の強い切り替わりが来る前に、もう一段奥へ入る。


 黒玻璃の縁に寄せられていた厚殻の残骸、その隣の毛皮の塊、そのさらに奥に押し込まれた脚を、順に噛み砕いた。もう味を楽しむ段階じゃない。腹へ流し込む。とにかく食う。


 通知がまとめて来る。


『レベルが上がりました Lv5 → Lv6』

『レベルが上がりました Lv6 → Lv7』


 来た。


 ここまで上がれば、もう白い層の浅いところで足を置いた瞬間終わる、ではない。


 まだ足りない。でも、やっと殴り返す側には寄れた。


   ◇ ◇ ◇


 削る音はまだ遠い。


 なら、もう一段食う。


 奥壁の裂け目へ押し込まれていた細長い胴を引きずり出した。半分は凍り切っているのに、芯の方だけ妙に重い。ここまで残っていたやつは、やっぱり質が違う。


 頭から噛み砕く。冷たいのに、中は妙に柔らかい。脂が厚い。寒さの中で生きていたやつの肉だと分かる。


 通知がまた重なった。


『レベルが上がりました Lv7 → Lv8』

『レベルが上がりました Lv8 → Lv9』


 かなり来てる。


 腹の奥が少し熱い。白い面へ腹をずらしても、すぐ戻りたくなる感じがだいぶ遅い。これなら線の外へ半身を出しても、前みたいにその場で終わりまでは行かない。


   ◇ ◇ ◇


 その時、遠くで削る音が戻った。


 まだ少し距離はある。


 ここで退けば安全だ。


 でも、奥の壁際にまだ二つある。ひとつは主が肋のあたりだけ食って残した厚殻の胴、もうひとつは霜の下に押し込まれていた白い脂の厚い塊だ。


 どう見ても、どっちも一番いい側だ。


 先に厚殻の方へ噛みついた。


 硬い殻の内側だけが妙に柔らかい。凍っているのに、奥へ行くほど味が濃くなる。通知が二つ走った。


『レベルが上がりました Lv9 → Lv10』

『レベルが上がりました Lv10 → Lv11』


 まだ行ける。


 削る音が近い。分かってる。分かってるのに、口が次を選んだ。


 白い脂の塊へ歯を入れる。


 冷たいのに脂が重い。食ったあとまで体に少し残る。今までの死骸より、明らかにこの層に慣れている。


 通知が弾けた。


『レベルが上がりました Lv11 → Lv12』

『冷気耐性 Lv2 になりました』


 うお、来た。

 やっと来た。

 めちゃくちゃ欲しかったやつだ。


 腹を凍った岩棚へ押しつける。まだ冷える。けど違う。削られるだけじゃない。踏んだまま、次の角度を考える余裕がある。


 これなら白い面の上でも、一手は返せる。


 そう思った瞬間、削る音が急に近づいた。


   ◇ ◇ ◇


 戻るのが速い。


 白い霧の流れが逆立つ。標本庫の棚を撫でていた冷気が、一段深く重くなった。


 ブリザードバジャーが入口側で止まる。


 鼻先が低く動いた。崩れた配置。減った奥の餌。新しい血の匂い。


 気づいた。


 ただ獲物を見つけた顔じゃない。


 餌場を荒らされた捕食者の顔だ。


 やばい。完全に怒ってる。


   ◇ ◇ ◇


 逃げるか、と一瞬だけ考えた。


 でも足はもう黒玻璃の継ぎ目から外れていた。今の冷気耐性なら、前みたいに白い面へ腹が乗った瞬間終わりじゃない。


 それに、ここでまた背中を見せたら、次も同じだ。


 ブリザードバジャーの前脚が黒玻璃を噛む。


 一瞬だけ止まる。


 その止まり方を、今度はこっちから取りに行く。


 帯電鱗を鱗の表へ寄せた。白い火花が、細く腹の下を走る。


 白い巨体が、今まででいちばん深い冷気圧と一緒に標本庫へ踏み込んできた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ