第068話「周回と密度」
昨日の戦法を繰り返すだけだ。それが今日の方針だった。
1回やれば戦法と言えるかもしれない。だが1回では体の方がまだ分かっていない。角で待つ。曲がり角を曲がった瞬間に反響撃2発。外殻粉砕で崩す。毒牙を1秒で刺して抜く。その手順を体に刻むには、もう何度かやる必要があった。
◇ ◇ ◇
天井移動で第4層に入った。昨日と同じ通路、同じ角に陣取る。
3分待った。振動感知がマグマリザードの足音を拾った。速い。壁を蹴りながら走るリズムは昨日と同じだ。
曲がった瞬間に反響撃1発目。
マグマリザードが一瞬止まった。2発目を畳みかける。体が壁に寄った。外殻粉砕を打ち込む。殻がない分、直接打撃として腹に入った。
毒牙を刺した。熱い。1秒で離した。
昨日と同じだった。速い。脆い。接触コストが高い。この3点だけ守れば、決まったように倒せる。
食べた。捕食継承の手応えはなかった。
◇ ◇ ◇
2匹目は少し手間取った。
待ち伏せの角を変えた。通路の幅が昨日より広い分、反響撃の集中が甘くなった。1発目でよろけなかった。距離が開いたまま相手が壁を走り始めた。
追った。壁走りLv3はこちらが上だ。距離を詰め直して2発目を近距離で打つ。今度は効いた。外殻粉砕、毒牙、1秒で離す。
20秒かかった。
角の幅が変わるだけで、体感が全然違う。第4層は狭所を選んで戦う。それが追加の収穫だった。
食べた。捕食継承が動いた。
『熱体 Lv1 を習得しました』
……熱体。
俺が、である。変温動物の俺が、熱体スキルを持った。
マグマリザードの熱を体で受け続けた結果、こういうことになったのだろうか。原理は分からない。分からないが、俺は岩と同じ温度で動いている生き物だ。その体に熱体が宿る合理性が、正直なところ見えない。
嬉しい。スキル欄が増えたのは事実として嬉しい。嬉しいが、変温動物にこれが生えてきた件については一切納得していない。
ただ——使い道がないと断言できるかというと、それも分からない。
俺の体温が上がれば接触戦の熱負荷が減るかもしれない。毒牙を刺す瞬間、体表の温度差が縮まれば、相手の熱で焼ける度合いが下がる可能性がある。まだ仮説だ。試してみないと分からない。
◇ ◇ ◇
3匹目は、確認のための戦いだった。
待ち伏せて、曲がり角でマグマリザードを捉える。反響撃2発で崩す。外殻粉砕を打ち込む。
毒牙を刺す直前に、熱体を発動した。
体表に熱が走った。変な感覚だった。変温動物の体に熱が走るというのは、体温ではなく何か別のものが乗っている感触だ。
毒牙を刺した。
——熱くない。
いや、熱い。熱いが、昨日一昨日と比べると、口の中が焼けるまでの時間が延びた気がした。1秒が、1.5秒くらいになった感覚。
確証はない。体感だけだ。だが、接触コストが少し下がった可能性はある。
仮説の精度を上げるには数をこなすしかない。今日の段階では「使えるかもしれない」で留めておく。
◇ ◇ ◇
3匹を終えて、もう少し奥へ進んだ。
60メートルを超えた辺りで、熱感知の質が変わった。
これまでマグマリザードを「点」として捉えていた。輪郭のはっきりした熱源が、特定の座標にある感じだ。
奥から来るものは違った。
点ではない。面だった。熱が、どこか一点から来るのではなく、通路の断面全体を押してくる感触だ。熱感知Lv2で受け取れる情報量の上限に近い。それでもまだ全体が把握できない。
強いより先に、重い、が来た。
振動感知を向けた。5秒間隔のリズムが、昨日より一段太く感じた。気のせいかもしれない。気のせいではないかもしれない。
まだ動いていない。
それだけは分かった。そして、動いた時のことは、今日は考えないことにした。
帰路で3匹目の消化を終えながら、今日の収穫を整理した。戦法の手順は体に入った。狭所を選べば20秒以内で安定する。熱体の仮説は保留。奥の存在は、鑑定の射程外にまだいる。
明日も同じことをやる。




