第067話「熱の層」
昨日の逃走中にLv4が上がって、MPは全回復した。拠点に戻った時点で57は確認済みだ。
だから朝起きた時に確認するものは何もなかった。それが少し落ち着かなかった。竜威のMP30を撃つ前に、反響撃2発分のMPを確保してまだ余るかどうか——それが今日の条件だ。計算してから撃つ。昨日の結論はそれだった。
朝の狩りは2戦で終わった。クラックリザードとストーンワームを1体ずつ。どちらも魔力反響撃+外殻粉砕で短く決めた。
今日は三叉路の南へ行く。
◇ ◇ ◇
三叉路を南に進むと、通路の空気がすぐ変わった。
温かい。第3層と比べて、体感で10度は違う。変温動物には大きい数字だ。動きのベースが上がる感覚がある。
30メートル先で傾斜が急になった。下りだ。床が見えた。
赤い。
熱感知を向けた。床全体が、背景ではなく熱源として映った。均一に、高い温度で。
鑑定を入れる。
——溶岩溜まり(活性)。
第4層だ。以上が感想の全てだった。
天井移動しか選択肢がない。床に降りたら終わる。上から行くしかない。
◇ ◇ ◇
天井に張り付いて、50メートルほど進んだ。
光源が変わっている。第3層の結晶発光ではなく、床の溶岩が赤く照らしていた。熱感知が全体的に染まる。視界の奥がじんわり暑い。
気配があった。
小さい——いや、細い。
振動感知が拾った時の印象を即座に修正した。サイズは俺より少し大きいくらいだが、細長い。四足か。動きが速い。壁を使っている。
天井の角に張り付いて静止した。
相手が通路を走り抜けた。壁面を蹴りながら、熱感知で輪郭だけ追うと——爬虫類だ。足がある。鱗がある。第3層のクラックリザードより長細い体型。体表がうっすら発光して見えた。
鑑定を向けた。
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種族:マグマリザード Lv:8
【スキル】
灼熱突進Lv2 / 熱体Lv2 / 壁走りLv1
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熱体Lv2。
噛みつけば口の中が焼ける。締め付ければ腹が焼ける。接触戦が全部リスクになる。毒牙は短時間で刺して抜く前提で、長く咥えると自分が焼ける。外殻粉砕は接触なしで打てるが、殻のない相手には直撃打として通る——使える。反響撃は距離を取ったまま飛ばせる——これが一番安全だ。
壁走りLv1は持っているが、こちらはLv3だ。速度で負けることはない。問題は熱体の接触コストだけだった。
作戦は単純にした。狭い通路の角で待つ。相手が曲がり角を曲がった瞬間に反響撃を2発。魔力込みで削る。動きが止まったら外殻粉砕で締め、毒牙を一瞬刺して即引く。熱くなる前に離れる。
角の天井に張り付いて、相手が戻ってくるのを待った。
◇ ◇ ◇
50秒後、振動が戻ってきた。
速い。床を使わず壁を蹴りながら走ってくる。マグマリザードが曲がり角を曲がった瞬間、反響撃1発目を打った。
通路に音が叩きつけられた。
マグマリザードの動きが止まった。2発目を続ける。相手がよろけた。その隙に天井から降下し、外殻粉砕を横腹に叩き込んだ。殻がない分、直接打撃として通る。鈍い感触があった。
マグマリザードの体が壁に当たった。
毒牙を刺した。1秒で抜いた。熱かった。もう1秒持っていたら焼けていた。
後退して距離を取った。相手がまだ動こうとしていた。
——もう止まっている。
毒の回りが速い。マグマリザードは第3層の石殻系と違って体表が柔らかい。毒の浸透に抵抗がない。
12秒だった。
◇ ◇ ◇
食べた。
『熱感知 Lv1 → Lv2』
熱感知が上がった。熱い相手と至近距離で戦い続けた結果らしい。
試しに視野を広げた。第3層では「点」として捉えていた熱源が、こちらでは「面」に近い感触で返ってくる。マグマリザードの輪郭を追えた精度が、周囲の熱環境ごと読む方向に広がった感覚だ。
使い道はすぐ分かる。床の溶岩溜まりを渡るのに天井移動は必須だが、熱感知Lv2があれば溶岩の分布と床の安全地帯をある程度読める。行動範囲が広がる。
今日はここまでにした。
初めての第4層で、確認できたことは3つだ。床が使えない。天井一択。マグマリザードは速くて脆い、反響撃と外殻粉砕が通る。接触コストは高いが、接触を最小限にすれば問題ない。この3点が今日の収穫だ。
層が変わって地形のルールが変わった。第3層は反響と硬さ。第4層は熱と機動だ。戦い方を根本から変えないといけない。竜威を使う余地があるとすれば、熱体持ちの相手に接触前に硬直させる場面か——ただしMP計算は今度こそ先にやる。
帰り際、壁の縁に細い切れ目を見つけた。岩に対して人工的すぎる形をしていた。鑑定を向けると——石材(加工痕あり)。冒険者か、もっと前の誰かが入ったことがある。
◇ ◇ ◇
帰路に入った時、振動感知が引っかかった。
奥からだ。5秒間隔で、重く、一定のリズムで届いてくる。マグマリザードの細い振動とは密度が違う。体積が違う。通路の空気ごと揺らしてくる質量だった。
まだ動いていない。ただそこにいるだけだ。
だが、いる。
それだけが、はっきりと分かった。




