第066話「今日は行けそうな気がする」
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第066話「残り9」
(70日目)
朝、拠点の亀裂で目が覚めた。一晩で体が戻っている。MPもほぼ満タンだ。こういう時だけ、この世界の景気はいい。
昨日のことを思い返した。竜骨の石化層を突破して、竜威、竜息、竜因子を引いた。欠片3つ食ってLv3。ロッククローラーをあの竜威で完全に止めた。
……俺、だいぶ強くなったんじゃないか。
◇ ◇ ◇
最初の獲物、クラックリザード。天井から毒牙を突き込んだだけで終わった。MP消費ゼロ。
よし。次。
2匹目はストーンワーム。魔力反響撃で床に落として外殻粉砕。10秒かからなかった。
昨日まで手間取っていた相手が、今日は呆気ない。違いは単純だ。今日は魔力が満タンで動いている。昨日は竜骨を削り倒した後、へろへろになってから戦っていた。それだけで、こんなに変わる。
俺が弱かったんじゃなくて、俺のリソースが底をついていただけだったんだ。
なんだ。MP満タンさえ維持すれば、俺はかなり強い部類に入るんじゃないか。
3匹目のロッククローラー Lv7も、反響撃2発と外殻粉砕で殻を割って毒牙。どうということはなかった。
MP残り39。まだたっぷり残っている。
今日は調子がいい。
◇ ◇ ◇
調子がいいので、今まで行かなかった通路に踏み込もうと思った。
三叉路を右に折れた先の区画。そこにはロッククローラーが2体いて、縄張りが重なっていて、片方を狙うともう片方が絡んでくる面倒な配置だ。今まで遠回りして避けてきた。
でも竜威があれば話が変わる。2体まとめて硬直させれば、1体ずつ片付けられる。
竜威、ある。魔力、ある。昨日の実績、ある。
行ける。今日の俺なら行ける。
◇ ◇ ◇
曲がり角の向こうに、2つの丸い影があった。振動感知で先に確認してから鑑定を向けた。
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種族:ロッククローラー Lv:7
種族:ロッククローラー Lv:8
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Lv8。昨日竜威で止めた個体よりひとつ上だが、竜威は精神干渉だ。昨日も止まった。今日も止まるはずだ。2体まとめて硬直させてから、Lv7を先に片付けて、それからLv8に——
竜威Lv1を発動した。
MP30が、一気に消えた。
圧が通路に満ちた。2体が同時に硬直した。
俺の体も1秒止まった。
体が解けた。よし、動ける。Lv7から——
……待て。
反射的にMP残りを確認した。
9。
——え。
反響撃が1発MP4。外殻粉砕がMP3。殻を割って毒牙まで最低11要る。
残り9。
できない。
◇ ◇ ◇
Lv7の硬直が解けた。Lv8も続いた。
2体が向き直った瞬間に、俺は天井に張り付いて逃げていた。
後ろで岩砕きの振動が壁を叩く。通路が狭い分だけ衝撃が直接来る。天井から剥がれそうになりながら、曲がり角まで這った。
反響撃で牽制できない。外殻粉砕も届かない。このMP9で何ができるかというと、逃げることしかできない。毒霧Lv1を1発だけ撒いた。MP8になった。1も変わらなかった。
『Lv4になりました』
今か。
逃げながら全回復した。役には立った。立ったが、格好はつかない。
曲がり角を3つ抜けたところで、後ろの振動が薄まった。縄張りの端まで来たらしく、追跡が止んだ。天井に張り付いたまま、しばらく動かなかった。
◇ ◇ ◇
拠点に戻った。体を丸めた。
昨日の興奮から今日の朝、俺は「調子がいい」と判断した。その結論は正しかった。正しかったが、その先が全部間違っていた。
竜威のMP消費は30だ。使う前から分かっていた。分かっていたのに残り39の状態で撃った。撃った後に残り9という数字を見て初めて、「あ、これ詰んだ」と気づいた。
算数だ。39から30を引くと9になる。小学生でも分かる計算だ。
俺には竜威を撃つ前にその計算をする頭がなかった。
MP満タンだから強い、は正しい。だが満タンを使い切ったら何も残らない、も同じくらい正しい。その二つを同時に理解してようやく「どこで何を撃つか」が決まる。今日はその順番が逆だった。
ため息が出そうになった。出なかった。蛇なので。
……明日は計算してから撃つ。




