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最弱ステータスでヘビに転生した俺は、スキル補食と進化をしながら迷宮を攻略する  作者: 迫力くん


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第065話「竜の因子」

 刻印の通路に向かった。ロッククローラーの縄張りだった区画を抜け、壁面の文字と四角い窪みを通過する。落とし穴の罠は壁走りで越えた。


 円形の広間に着いた。壁一面の刻印。壁面に刺さったままの鑿。そして、壁面から突き出た竜骨。


 前回は外殻粉砕Lv2が通らなかった。石化した表面はひびを入れられたが、その下の層に歯が立たなかった。


 今日は魔力がある。


 骨に近づいた。灰色に変色した表面。前回つけたひびが残っている。石化した層の厚さを反響定位で読むと、3センチほど。その下に、もっと密度の高い層が続いている。


 外殻粉砕Lv2に魔力を込めた。MP消費3。頭部の奥で魔力が流れ、顎と首の筋肉を通って打点に集まる。


 骨の石化層に叩き込んだ。


 石が砕けた。


 前回ひびが入っただけの面が、衝撃の中心から放射状に割れた。石化した表層が剥落し、灰色の破片が床に散る。


 下から出てきたのは、白と金の中間のような色をした、骨の本体だった。


 表面に細かい筋が走っている。骨の繊維構造が見える。石化していない。太古の遺骸のはずなのに、この層はまだ生きている密度をしている。


 もう1発。魔力を込めた外殻粉砕を、露出した骨の本体に叩き込んだ。


 衝撃が返ってきた。


 硬い。石化層とは比較にならない。打った側の頭が痺れた。骨の表面に浅い傷がついたが、それだけだ。通常の石壁を陥没させた一撃が、傷1本で止まった。


 3発目。同じ箇所を狙った。MP残り39。傷が少し深くなった。4発目。MP残り36。傷の周囲に細い亀裂が走った。


 5発目で、小さな欠片が剥がれた。


 親指の先ほどの大きさ。白金色の骨の破片が床に落ちた。それだけのために、MP15を使った。


 拾い上げた。密度が異常だ。このサイズでこの重さは、石でもここまではいかない。


 食えるか。


 口に入れた。牙で砕こうとした。硬い。だが毒牙Lv3の牙は、亀裂の端に引っかかった。力を込めると、骨の欠片が2つに割れた。


 飲み込んだ。


 喉を通った瞬間、体の中で何かが弾けた。


 食事の満足感ではない。体の奥———魔力操作で感じるようになった脈動の源、脳と脊髄の間の器官が、これまでにない強さで振動した。熱が全身に行き渡る。鱗の先端まで広がり、尾の先で折り返して戻ってくる。一周。2周。3周目で、熱の質が変わった。


 体の中を回るたびに、何かが凝縮されていく。


『レベルが上がりました Lv1 → Lv2』


 欠片一つでレベルアップ。親指の先だぞ? 全回復。この骨、養分の密度がおかしい。経験値が———


 通知が止まらなかった。


『竜威 Lv1 を獲得しました』


 は?


『竜息 Lv1 を獲得しました』


 ……まじか。


 2つ。捕食継承Lv1が、一度に2つ拾った。一度にだ。今まで1体食って1つ出るかどうかだったのが、一欠片で2つ。しかも———


 竜。どっちも竜の字がついてる。


 蟲を食って毒を拾い、蛙を食って酸耐性を拾い、石殻の虫を食って反響撃を拾ってきた。全部、食った相手の力だ。今度は竜。食ったのは親指の先ほどの骨の欠片。たったそれだけで、竜のスキルが2つ。


 やばい。これはやばい。


 竜。この骨の主は——竜だ。


 鑑定を向けた。骨の本体に、薄い文字が浮かぶ。


――――――――――――――――――――

竜骨(残骸)

種族:竜種(絶滅)

――――――――――――――――――――


 竜種。絶滅。この迷宮がまだ生きていた時代に、ここにいた種族。その骨だけが残っている。


 そして俺は、その欠片を食った。


 通知がもう1つ来ていた。竜威と竜息の下に、見慣れない表示がある。


『竜因子 を獲得しました』


 Lvがない。他のスキルには必ずついているLv表記が、これだけない。発動方法も分からない。意識を向けても、竜威や竜息のような回路の感触がない。スキル欄にあるだけで、何をするものなのか一切読み取れない。


 ……なんだこれ。


 竜威。意識を向けると、体の奥に新しい回路がある。魔力操作とは別の経路。もっと深い位置から、体の外側に向かって広がる力の流れ。


 発動してみた。


 MPが一気に削れた。30。全体の6割が消し飛んだ。


 広間の空気が変わった。目に見えるものは何もない。だが、空間そのものに圧がかかった感覚がある。壁面の刻印が視界の端で揺れた気がした。


 威圧。竜の威圧だ。蛇の体で、竜の圧を———


 体が動かなくなった。


 首から尾の先まで、全身の筋肉が同時に硬直した。1秒。たった1秒だが、呼吸すらまともにできなかった。2秒目でようやく体が弛緩した。


 ……おい。今、俺自身が止まっていたぞ。


 竜の出力を蛇の体で無理やり通した反動か。MP30に加えて、自分まで硬直する。戦闘中にこれが来たら致命的だ。


 竜息。こちらにも意識を向けた。喉の奥に、何かが溜まる感覚がある。魔力とも違う。もっと熱い。内側から焼けるような圧が喉に集まって———


 出ない。


 ……は?


 口を開けた。何も出なかった。喉が温かいだけだ。


 おい嘘だろ。あんだけ溜まってたのに?


 圧は確かにある。何かを吐き出そうとする衝動がある。だが喉から先に、それを形にする器官がない。


 ……そうか。蛇の喉には火を吐く構造がない。毒を噴霧する毒霧Lv1とは回路が違う。竜息が要求する出力に、今の体では応えられない。


 スキル欄にはある。体が対応していない。


 なんだよそれ。めちゃくちゃ期待しただろうが。


 使えないスキルを持っているのは初めてだ。喉の奥に確かに熱があるのに、出口がない。


 だが悔しさより先に、別の感情が来た。


 進化すれば使える。体の構造が変われば、この回路が開く。竜の力の入り口に手をかけた。開けるのはまだ先でも、扉の位置は分かった。あの密度なら、欠片を食い続けるだけでレベルが回る。


 骨の打撃痕を見た。5発叩いて欠片1つ。効率は最悪だ。だが竜威と竜息を一欠片で引いた。


 もっと食う。帰る前にもっと削る。


 MP残り21。魔力を込めた外殻粉砕を同じ箇所に叩き込んだ。6発目。7発目。亀裂が広がる。8発目で2つ目の欠片が落ちた。さっきより小さい。


 口に入れた。砕いて飲み込む。


 体の奥で熱が回った。だが、さっきほどの衝撃はない。


 レベルは上がらなかった。


 経験値は入っている。だが1つ目の欠片で感じた爆発的な密度が、半分以下に薄まっている。同じ骨の同じ箇所だ。個体が同じだと、吸収効率が落ちるのか。


 9発目。10発目。MP残り6。3つ目の欠片。さらに小さい。


 飲み込んだ。熱はあるが、もう1つ目の3割もない。


『Lv3になりました』


 2欠片でようやく1レベル。最初は1欠片で上がったのに。食うたびに薄まっている。同じ骨の同じ箇所を食い続けても、どんどん効きが悪くなる。


 MP残り6。欠片1つ出すのに5発要る。足りない。


 3欠片食って、Lv2からLv3。まだ回る。だが「欠片を食い続けるだけで無限にレベルが回る」という甘い想定は消えた。竜骨は最高の餌だが、同じ場所を削り続けるだけでは頭打ちになる。


 別の部位を削るか。あるいは——壁の向こうに続いている骨の、別の箇所に到達するか。


   ◇ ◇ ◇


 広間を出て、通路を戻り始めた。


 罠を越え、刻印の区画に差し掛かったところで、振動感知が反応した。通路の先、三叉路の方向。重い振動。硬い殻が石壁を擦る音。


 ロッククローラー。


 鑑定の射程に入るまで壁面を這って進んだ。通路の曲がり角の向こうに、丸い輪郭が見えた。


――――――――――――――――――――

種族:ロッククローラー

Lv:8

【スキル】

 石殻 Lv3 / 反響撃 Lv1 / 岩砕き Lv2

――――――――――――――――――――


 Lv8。前に倒した個体より一段高い。あの時は沼喰大蛇Lv9で3発かけて殻にひびを入れた。今は魔蛇Lv3。Lv3になった時に全回復している。MP54。


 竜威を実戦で試すなら、今だ。MP30。反動で自分も止まる。分かっている。だが空っぽの広間で壁を震わせただけでは、何も分からない。


 ロッククローラーがこちらを向いた。反響定位で俺に気づいたのだろう。石殻Lv3の甲羅を壁面に向けて、岩砕きの体勢に入った。


 竜威Lv1を発動した。


 MPが半分以上吹き飛んだ。体の奥から圧が広がり、通路の空気ごと歪む。


 ロッククローラーの動きが止まった。


 岩砕きの体勢のまま、硬直している。石殻Lv3の中で、体が強張っているのが振動感知で分かる。


 この岩の塊が、怯えている。


 だが同時に、俺の体も止まった。


 首から尾の先まで、筋肉が強張る。広間で試した時と同じ反動だ。通路のど真ん中で、蛇が1匹、丸太みたいに転がっている。1秒。相手が動いていたら終わっていた。


 体が解けた。ロッククローラーはまだ硬直している。


 今だ。


 壁面から魔力を乗せた反響撃Lv1を放った。音波が石殻に着弾し、内側で共鳴した。殻の中で暴れる音波に、全身を揺さぶられている。


 天井に移動。真上から2発目の魔力反響撃。殻の頂部から音が入り、底面で跳ね返り、往復する。石殻にひびが走った。2発で到達。


 壁走りで降りた。ひびの入った石殻の側面に、魔力を込めた外殻粉砕Lv2。


 石殻が裂けた。中身が露出する。毒牙を突き込んだ。6秒。


 向こうが何秒止まったかは分からない。ただ、こっちの硬直が解けた時にまだ止まっていた。その差で先制を取れた。次も同じだけ止まるかは分からない。MP30と引き換えに、先制の猶予を賭けで買っている。


 相手が複数だったら終わっていた。


   ◇ ◇ ◇


 拠点に戻った。亀裂の中で体を丸めた。


 今日の成果がでかすぎる。竜骨の石化層を突破。3欠片食ってLv3。竜系スキル2つ。ロッククローラーを竜威で止めて仕留めた。進化初日でこれだ。


 竜威Lv1。MP30で自分も1秒止まる。向こうがどれだけ止まるかは相手次第だ。MP半分以上で先制の賭けに出るスキル。気軽に撃てるものではない。


 竜息Lv1は使えない。だが喉の奥の熱は本物だ。あれが出るようになった時のことを考えると、正直わくわくする。


 竜因子。Lvもなければ発動もできない謎のスキルが、スキル欄に居座っている。竜威と竜息は分かる。だがこいつだけは、何なのか全く見えない。


 ただし、同じ箇所を削り続けると食うたびに効きが落ちる。最初の1欠片でLv1上がったのに、次の2欠片でようやくLv1。同じ竜骨をひたすら削るだけでは頭打ちになる。


 別の部位を削るか。あるいは、壁の向こうに続いている骨の別の箇所に到達するか。レベルを上げれば魔力操作の出力も上がる。出力が上がれば1発あたりの削りが増える。回り道だが、狩りでレベルを上げてから竜骨に戻る方が結局速いかもしれない。


 亀裂の隙間から、通路の暗がりを見た。刻印の広間の奥の壁面に、反響定位で拾った微かな空洞の反応があった。壁の向こうに別の空間がある。あの竜の骨は壁の中に続いていた。その先に、何がある。


 明日から、狩りに戻る。


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