第064話「魔蛇」
体が燃えた。
内側から鱗が剥がれ、筋肉が解けて、骨が軋む。痛みではない。体の設計図そのものが書き換わっている感覚。3度目の進化だが、慣れるものではない。
胴体が細くなった。沼喰大蛇の太い体が、内側から絞られるように締まっていく。鱗の質も変わった。鎧みたいに分厚かった鱗が、薄く滑らかな鱗に入れ替わる。表面には、細かい紋様が浮かんでいた。
頭部の形が変わった。顎が少し細くなり、牙の位置が奥に引いた。代わりに、頭部の奥、脳と脊髄の間あたりに、新しい器官ができた感覚がある。何かが脈動している。これまで体のどこにもなかったものが、今はっきりと存在している。
変化が止まった。
『進化が完了しました』
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【ステータス】
種族:魔蛇
レベル:1
HP:72 / MP:48
攻撃力:38 / 防御力:40
素早さ:31 / 知力:39
魔力適性:あり
【スキル】
捕食継承 Lv1 / 毒牙 Lv3 / 締め付け Lv3
鱗硬化 Lv2 / 壁走り Lv3 / 振動感知 Lv3
熱感知 Lv2 / 外殻粉砕 Lv2 / 毒液圧縮 Lv1
酸耐性 Lv1 / 粘着無効 Lv1 / 毒霧 Lv1
鱗弾き Lv1 / 急旋回 Lv1 / 嗅覚強化 Lv1
反響定位 Lv2 / 掘削 Lv2 / 前脚打撃 Lv1
鎌刃見切り Lv1 / 吸着抵抗 Lv1 / 鑑定 Lv2
反響撃 Lv1
魔力操作 Lv1
次の進化まで:0%
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防御力40。半分以下だ。88が40って。沼喰大蛇ならこんなの気にもしなかった。HPも124から72。攻撃力も58から38。殴られたら死ぬ体になった。
だがMPは39から48に上がった。知力は32から39。そしてスキル欄の末尾に、見たことのない名前が一つ。魔力操作 Lv1。
『魔力操作 Lv1 を獲得しました』
頭部の奥で脈動している器官が、MPを動かす場所らしい。体の中に、血液ともスキルとも違う3つ目の流れがある。今まで感じなかったのは、使い方を知らなかったからではなく、器官そのものがなかったからだ。
魔力操作。スキルに魔力を乗せる。
問題は、どうやるかだ。
反響撃 Lv1に意識を向けた。スキルの発動態勢に入る。いつもの通りだ。喉の奥で音波を生成する準備ができる。
その音波へ、頭部の奥にある魔力の流れを押し込んだ。
魔力の流れが喉に向かって動いた。反響撃の音波に、別の力が混ざる。音波が一段濃くなり、喉の奥を押し広げるような手応えがあった。
壁に向けて放った。
通路の壁面に音波が着弾した瞬間、壁が砕けた。
……は?
反響撃 Lv1だぞ? レベル変わってないのにこれか。外殻粉砕でも表面にひびを入れるのが精一杯だった石の壁面が、拳大の穴を穿たれている。穴の周囲に放射状のひびが走り、石の破片が床に散らばった。
反響撃 Lv1。レベルは変わっていない。だが魔力を乗せただけで、出力が別物になった。
MP表示を確認した。48あったMPが44に減っている。1発で4消費。MP44なら、あと11発は撃てる。自然回復が約1分に1ポイントなら、4分で1発分が戻る計算だ。
◇ ◇ ◇
壁面を這って拠点に戻る途中で、壁の中に反応があった。反響定位 Lv2で輪郭を読む。ストーンワームだ。弧を描いて俺に向かってきている。
魔力を乗せた反響撃を、実戦で確かめる相手にはなる。
壁面に張りつき、出現予測地点に先回りした。壁が膨らんだ。ストーンワームが飛び出してくる。
前の体の癖で、反射的に胴体を出してしまった。ストーンワームの体当たり Lv2が、胴体に直撃する。
――衝撃が体の奥まで響いた。
鱗硬化 Lv2越しでも、衝撃が体の奥まで届いた。防御力40。ロッククローラーの反響撃ではなく、ストーンワームの体当たりで内臓が揺れる。沼喰大蛇の時は、この程度の攻撃は鱗の上で止まっていた。
HPが72から61に減った。1発で11。2発目をもらえば半分を切る。3発目で危険域に入る。
ストーンワームが壁に潜ろうとした。逃がさない。
魔力を反響撃に乗せて、至近距離で放った。
ストーンワームの胴体が破裂した。殻のない蠕虫の柔らかい体が、魔力を乗せた音波の直撃に耐えられなかった。石の通路に体液が飛び散った。
1発で終わった。
――これが魔力か。
通常の反響撃なら、殻のないストーンワームにもある程度は効くが、即死はしない。締め付けか毒牙で仕留める必要があった。魔力を乗せた反響撃は、1発で終わらせた。
俺はストーンワームを食った。
体が変わった代償と報酬が、一戦で両方見えた。防御が薄くなった分、もらう痛みは大きい。だが、火力が桁違いになった。被弾を減らして、一撃で仕留める。沼喰大蛇の「耐えて削る」戦い方から、魔蛇の「避けて一撃」に切り替える必要がある。
壁走り Lv3がある。急旋回 Lv1もある。回避する手段は揃っている。足りないのは、被弾を前提にしない立ち回りの精度だ。
◇ ◇ ◇
拠点の亀裂に体を押し込んだ。体が細くなった分、入り口に余裕ができていた。沼喰大蛇ではぎりぎりだったが、魔蛇の体は楽に通れる。
亀裂の中で体を丸めた。
外殻粉砕にも魔力を乗せられるか試した。右の壁面に外殻粉砕 Lv2を、魔力を込めて叩き込んだ。
石が陥没した。表面だけではなく、壁の内部まで衝撃が通っている。外殻粉砕 Lv2の通常打では表面にひびを入れるだけだった石壁が、拳2つ分ほど凹んだ。MP消費は3。反響撃より軽い。
毒牙にも乗せられるだろう。まだ試していないが、毒の浸透力が上がるなら、硬い甲殻の隙間からでも毒を通せるかもしれない。
あの骨のことを考えた。石化した表面は外殻粉砕 Lv2で砕けた。その下の硬い層に、通常の外殻粉砕では歯が立たなかった。
魔力を乗せた外殻粉砕なら、届くか。
明日、試しに行く。




