第069話「重震」
今日の目的は2つある。熱体の仮説を実戦で確かめることと、奥の存在を鑑定すること。
昨日、熱体を噛みつきの直前に発動したら、口の中が焼けるまでの時間が延びた気がした。気がした、では使えない。体感を確信に変えるには、もう1回やるしかない。
◇ ◇ ◇
第4層に入ってすぐ、想定外の展開が来た。
天井を移動している途中で、横穴からマグマリザードが飛び出してきた。壁面を蹴って加速しながらこちらに突っ込んでくる。灼熱突進だ。
待ち伏せの間がない。正面から来ている。反響撃を打つ余裕はあるが、反動で天井の保持が怪しい。
避けた。壁に張り付いて横へずれる。マグマリザードが天井を掠めて通過した。体の端が触れた。熱い。HPが2減った。
マグマリザードが壁で止まった。相手は体勢を立て直そうとしている。
体勢を崩すなら今だ。
熱体を発動してから、距離を詰めた。反響撃を1発叩き込む。マグマリザードが壁から剥がれかけた。外殻粉砕を頭に当てる。
毒牙を刺した。
――少し長く咥えていられる。
昨日はすぐ口の中が焼けた。今日は熱体を発動した分だけ、毒牙を刺していられる猶予が伸びている。体表温度の差が縮まって、接触の負担が下がったのだろう。仮説ではなく、事実だ。
毒が回って相手が崩れた。俺はマグマリザードを食べた。
熱体の使い方が確定した。攻撃用じゃない。噛みつく直前に発動して、接触の安全時間を延ばす補助スキルだ。変温動物に生えた熱体の使い道としては、これが正解だろう。
◇ ◇ ◇
次は、インフェルノリザードを鑑定できる距離まで進む。
68メートルで、通路全体を押してくるような熱が来た。昨日よりはっきりしている。熱感知 Lv2が壁越しに受け取る熱が、近づくほど厚くなる。
壁走りの速度を落として、静かに進んだ。
75メートル。
振動感知が一定のリズムを拾った。やはりいる。
80メートル。
鑑定の射程圏内に入ったはずだ。天井に張り付いたまま、通路の曲がり角越しに鑑定を向けた。
鑑定が届いた。
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種族:インフェルノリザード
レベル:22
【スキル】
灼熱噴射 Lv3 / 熱体 Lv5 / 岩砕き Lv4 / 重震 Lv2
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レベル22。マグマリザードが8だったから、同じ層の雑魚と3倍近い差がある。
スキルを1つずつ見た。
灼熱噴射 Lv3。厄介だが、噴射なら射線がある。射線があるなら、避ける余地はある。
熱体 Lv5。こちらは熱体 Lv1だ。接触したら焼き切られる。噛みつくどころの話じゃない。近づいた時点で口も体も焼かれる。
岩砕き Lv4。壁や天井を物理的に破壊するスキルだ。第3層のロッククローラーが岩砕き Lv2で壁を凹ませていた。Lv4なら天井の岩ごと持っていかれる。正面から付き合う相手じゃない。
重震 Lv2。
俺はそのスキル名を見て動きを止めた。
重震という名前なら、地面か壁を強く揺らすスキルだろう。振動感知で拾っていた一定のリズムも、このスキルかもしれない。足音の可能性もあるが、天井に張り付く俺にはどちらでも危ない。
問題は、床だけではない。
俺が第4層で移動も戦闘も休息も天井でやっている理由は、床が溶岩だからだ。天井だけが安全な足場だった。
重震は地面だけを揺らすのか。天井は揺れないのか。壁も揺れるのか。
まだ分からない。ただ、天井にいれば安全だという前提が、このスキル1つで崩れる可能性がある。
◇ ◇ ◇
帰ることにした。
今日の目的は達成した。第4層の本命の正体と手札が分かった。灼熱噴射は射線、岩砕きは範囲、熱体は接触。この3つは対処の形が見える。だが重震だけは、対処の前提そのものを壊しかねない。
天井を這って、来た道を戻る。80メートル地点を離れる。70メートル。60メートル。マグマリザードの狩場を通過して、第3層との境界が見えてきた。
その時だった。
単発の振動が来た。
さっきまでの一定リズムではない。短く、強く、1回だけ。
壁が震えた。天井が震えた。張り付いている体に、岩越しの衝撃が直接伝わった。
安全圏のはずの天井が揺れた。
揺れはすぐに止んだ。
距離は60メートル以上離れている。それでも天井に振動が届いた。あれがもっと近かったら、直上だったら、張り付いていられるかどうかすら分からない。
俺は第3層との境界へ急いだ。生きて戻れれば、次の対策を考えられる。
第4層で唯一頼っていた天井が、揺れた。




