第057話「暗中」
2日かけてHPを戻した。食事と自然回復の併用で、反響撃の損傷はほぼ消えた。
その間にクラックリザードを2体、ストーンワームを1体狩った。反響定位を使った通常の狩り。安全圏での作業だ。
『レベルが上がりました Lv6 → Lv7』
――――――――――――――――――――
種族:沼喰大蛇
Lv:7
HP:104 / MP:34
攻撃力:48 / 防御力:73
素早さ:26 / 知力:27
【スキル】
捕食継承 Lv1 / 毒牙 Lv3 / 締め付け Lv2
鱗硬化 Lv2 / 壁走り Lv3 / 振動感知 Lv3
熱感知 Lv2 / 外殻粉砕 Lv2 / 毒液圧縮 Lv1
酸耐性 Lv1 / 粘着無効 Lv1 / 毒霧 Lv1
鱗弾き Lv1 / 急旋回 Lv1 / 嗅覚強化 Lv1
反響定位 Lv2 / 鑑定 Lv2
次の進化まで:32%
――――――――――――――――――――
防御力73。攻撃力48。レベルが上がるたびに、この層で戦える余裕が少しずつ広がっている。ロッククローラーにはまだ手が出ないが、クラックリザード級なら安定して狩れるようになった。
だが、安定した狩りだけでは足りない。あの結晶域の主を倒さなければ、この層の奥には進めない。
◇ ◇ ◇
拠点の亀裂の中で、あの戦闘を整理した。
クリスタルストーカーの結晶共鳴は、結晶を媒介にして偽の反響像を作る。俺が反響定位を飛ばすたびに、5つに分裂した像のどれが本体か分からなくなる。しかも、音を出すこと自体が俺の位置を教える。
あの域内で反響定位を使い続けるのは、自分から的になるのと同じだ。
逆に、反響定位を使わなければどうなる。
振動感知Lv3。この層では壁面の振動しか拾えない。近距離限定だが、相手が壁面か地面で動いていれば分かる。熱感知Lv2。体温を持つ塊の方角は拾える。距離感は甘い。
この2つで、結晶域の中を戦えるか。
反響定位を使わずに狩る。試す価値はある。代償が分からないから、まずは雑魚相手に試す。失敗しても死なない相手で。
◇ ◇ ◇
クラックリザードの反応がある通路に向かった。反響定位を一度だけ使って位置を確認し、そこから先は封印した。
壁面に張りついて、振動感知だけで進んだ。
暗い。反響定位がないと、石の通路は音のない闇だ。壁面の微振動と、空気の温度差だけが世界の輪郭を作っている。泥底に戻ったような感覚。あの頃は振動感知が全てだったから、この暗さに慣れていた。今は反響定位に頼りすぎていたと分かる。
壁面に振動があった。規則的な四肢の移動。クラックリザードの壁走り。距離は———分からない。振動の大きさから、10メートル以内。方角は右前方。
熱感知を合わせた。右前方に熱源がある。壁面に張りついた体温。あれだ。
壁走りで接近した。音を出さないように速度を落とす。鱗が壁面を擦る音を最小限にする。
5メートル。3メートル。熱源が大きくなる。距離が詰まっている。
———近い。
外殻粉砕Lv2を叩き込んだ。
空振りした。
壁面に衝撃が走っただけで、手応えがない。熱感知の方角は合っていたが、距離を見誤った。まだ1メートル先にいる。
クラックリザードが反応した。尾撃が来た。結晶の尾が鱗を叩いた。鱗硬化で受けたが、横から抉るような衝撃。体が壁面からずれた。
壁走りで体勢を立て直した。反響定位を使いたい衝動を押し殺した。ここで音を出したら、訓練にならない。
振動感知。クラックリザードが壁面を移動している。逃げているのではなく、距離を取って体勢を整えている。壁走りLv1の足音が壁面を伝わってくる。
追った。振動の方向に壁走りで寄せる。熱感知の反応が近づく。今度は慎重に距離を測った。振動の強さと熱源の大きさを照合する。
2メートル。1メートル半。
尾撃の射程に入った。クラックリザードが尾を振る振動が壁面を伝わった。
急旋回で横にずれた。尾が壁面を叩く衝撃が、直前まで俺がいた場所を通過した。
振り終わりの隙に飛び込んだ。頭部がクラックリザードの胴体に触れた。結晶甲の感触。距離ゼロ。ここからなら外さない。
口を開けて、結晶甲の継ぎ目に毒牙を突き込んだ。甲を砕く必要はない。触れている状態で、甲と甲の間の柔らかい隙間を狙えばいい。
———入った。
毒が回った。クラックリザードの四肢が壁面を掻いた。5秒で爪が滑り始め、7秒で壁面から落ちた。
食った。
◇ ◇ ◇
拠点に戻りながら、整理した。
反響定位なしでの戦闘は可能だ。だが精度が大きく落ちる。最初の一撃を外した。距離感が甘い。振動感知と熱感知では、反響定位の3割程度の解像度しか出ない。
だが、利点もあった。音を出さない分、相手もこちらの正確な位置を掴めない。クラックリザードの尾撃は、振動で俺の大まかな位置を推測して振ってきていた。精度が甘い。
互いに見えづらい状態。それでいい。
クリスタルストーカーの結晶共鳴は、こちらが反響定位を使うことが前提の罠だ。反響定位を使わなければ、偽の像は意味を失う。残るのは反響撃Lv2と擬態Lv1。
反響撃を撃つには、向こうも音を出す必要がある。音を出せば、振動感知で方向が分かる。
完全な暗闇で、互いに音を出すのを待つ。先に音を出した方が、位置を晒す。
問題は、結晶域の外に出てくるか分からない点だ。向こうが域内に留まる限り、こちらから仕掛けなければならない。結晶域に入れば、向こうが有利。
一つ、手がある。
結晶域の境界で勝負する。域内の端、結晶がまばらになる区間。あそこなら結晶共鳴の偽像は少なくなる。完全にゼロにはならないが、5つが2つか3つに減る。
境界まで誘い出すには、境界で音を出せばいい。反響定位を1発だけ飛ばす。クリスタルストーカーが俺の位置を捕捉して接近してくる。境界付近まで来たところで反響定位を止め、振動感知と熱感知に切り替える。
1発の反響定位で相手の位置を掴み、そこから先は暗闘。向こうが反響撃を撃った瞬間に位置が確定する。そこに全力で突っ込む。
成功すれば一度の接触で仕留められる。失敗すれば、反響撃を至近距離で食らう。
リスクは高い。だが、結晶域の中で長時間戦えば、じりじりと削られて同じ結果になる。短期決戦の方が生存確率が高い。
明日、仕掛ける。




