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最弱ステータスでヘビに転生した俺は、スキル補食と進化をしながら迷宮を攻略する  作者: 迫力くん


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第052話「反響」

 昨日の反響撃で削られたHPは、一晩で少し戻っていた。自然回復は遅い。食えば早まるが、狩りに出るには主の巡回路を越える必要がある。


 毎回、主の隙を突いて往復する。持続可能ではない。


 第3層に拠点が要る。


 4回目の巡回通過を確認した。拠点を出た。


   ◇ ◇ ◇


 第3層に降りた。昨日と同じ乾いた空気。鱗の表面から水分が抜ける感覚が、2度目でも馴染まない。


 今日は狩りより先に、場所を探す。眠れる場所。ロッククローラーが入れない場所。


 反響定位を使いながら壁面を這った。石の壁は音を鋭く返す。泥壁と違って反射が正確で、壁の奥の構造まで輪郭が見える。通路の分岐、壁面の窪み、天井の裂け目。


 100メートルほど進んだところで、壁面に細い亀裂を見つけた。幅が狭い。俺の胴体がぎりぎり通れる程度。奥行きは反響定位で3メートルほど。行き止まりだが、中は乾いていて、温度が安定している。


 入った。体を押し込むように通過すると、少し広い空間に出た。一畳半ほどの窪みだ。天井が低く、壁面に小さな結晶が並んでいる。淡い光で輪郭は見える。


 入口の幅を確認した。ロッククローラーの体幅は俺の頭部の4倍。この亀裂を通れるはずがない。シャードビートルも厳しい。


 安全だ。安全なのに、落ち着かない。第2層の泥底の拠点は周囲の音が泥に吸われて、静かだった。ここは逆だ。自分の呼吸音が壁に反射して戻ってくる。静かなのに、うるさい。


 拠点にはなる。慣れるしかない。


   ◇ ◇ ◇


 亀裂の外に出て、狩りに移った。シャードビートル級の敵を探す。ロッククローラーは避ける。


 壁面を這いながら反響定位を連続で使った。石の通路に音を送り、返ってくる反射で周囲を把握する。三叉路を右に進み、やや広い空間に出た。天井に結晶が密集している区間だ。


 反響定位に、妙な反応が返ってきた。


 壁面の中に何かがいる。


 壁の中だ。壁面の向こう側に、細長い物体が石の中を移動している。反響定位の音が石を通過して、中の物体に当たり、跳ね返ってきている。


 石の中を動ける生き物がいる。


 立ち止まった。壁面に張りついたまま、その反応を追った。物体は俺の位置から5メートル先の壁面を、ゆっくりと上方に向かって移動している。


 壁面にひびが走った。石が割れて、中から頭部が突き出た。細長い胴体。節がない。表面が滑らかで、石粉を纏っている。蟲ではない。蠕虫だ。


 鑑定が起動した。


――――――――――――――――――――

種族:ストーンワーム

Lv:5

【スキル】

 石潜り Lv2 / 体当たり Lv2

――――――――――――――――――――


 石潜りLv2。マッドニッパーの泥潜りの岩版か。壁の中を移動できるスキル。体当たりLv2は単純な物理攻撃。殻系のスキルがない。柔らかい体。


 ストーンワームが壁面から半身を出した。体長は俺より少し短い。頭部に目はない。先端が丸く、石を掘り進むための形をしている。


 仕掛けた。壁走りで接近し、露出した胴体に毒牙を突き込もうとした。


 ストーンワームが壁の中に引っ込んだ。


 速い。頭部を向けた瞬間にはもう半身が石に沈んでいた。石潜りLv2。泥より硬い石を、泥のように潜れるスキルだ。


 壁面に張りついたまま、反響定位で追った。ストーンワームは壁の中を弧を描くように移動している。俺の位置を回り込んでいる。


 背後の壁が割れた。


 急旋回で避けた。ストーンワームが壁面から飛び出してきた。体当たりLv2。全体重を乗せた突進が、さっきまで俺がいた壁面を抉った。石の破片が飛び散る。


 当たっていたら鱗硬化でも堪えていた。泥底の蟲とは衝撃の質が違う。


 ストーンワームが再び壁に潜った。頭部から石に沈んでいき、3秒で全身が消えた。


 壁から出て、殴って、壁に戻る。出入りのたびに位置が変わる。追えなければ、一方的に殴られ続ける。


 だが、壁の中にいても反響定位で見える。音は石を通過する。泥なら吸われていた音が、この層では壁の中まで届く。


 反響定位を連続で使った。ストーンワームの位置が壁の中で動いている。弧を描いて、また俺の側面に回ろうとしている。


 パターンが見えた。回り込んでから壁面に対して垂直に突進してくる。出口は、移動方向の延長線上だ。


 壁走りで移動した。ストーンワームの移動方向を追い、出現予測地点の隣に張りついた。


 壁が膨らんだ。石にひびが入る。


 ———来る。


 壁が割れた瞬間に、飛び出してくる胴体に巻きついた。締め付けLv2。ストーンワームの胴体は殻がない。柔らかい。石粉を纏っているだけで、中身は蠕虫そのものだ。


 ストーンワームが暴れた。壁に潜ろうとする。頭部が石面に押しつけられ、石潜りが発動しかけた。


 体重を乗せた。ストーンワームの胴体を壁面の角に押し込んだ。壁と床が交わる直角の角に、蠕虫の体を挟み込む。石が金床になる。


 締め付けの圧を上げた。柔らかい体が角に押し潰されていく。石潜りで逃げようとするが、巻きつかれた部分は石面に密着していて、潜る隙間がない。


 5秒。ストーンワームの動きが弱まった。7秒で止まった。


 食った。


 通知が来た。


『レベルが上がりました Lv4 → Lv5』


 HPが満タンに戻る。昨日の反響撃のダメージが一瞬で消えた。


『反響定位 Lv2 に上がりました』


 反響定位の精度が変わった。壁の中が見える。……見える? 壁の中が? これ透視に近くないか。距離だけでなく、密度の差まで分かる。石と、石でないものの境界が、はっきりと返ってくる。


 壁の中を這う生き物を、壁の外から正確に追えるようになった。この層では、この感覚が目になる。


 周囲に反響定位を飛ばした。精度が上がった分、拾える範囲が広がっている。通路の奥、20メートル先に硬い反応が2つ。ロッククローラー。近づかない。左の分岐の先には何もいない。


 第2層では泥底の清掃員だったが、こっちでは壁の中の害虫駆除まで担当範囲が広がっている。出世なのか左遷なのか判断がつかない。


 亀裂の拠点に戻った。体を押し込んで、窪みに収まった。自分の呼吸音が反射して返ってくる。反響定位Lv2になった分、その精度まで上がっている。自分の心拍が壁に跳ね返って聞こえる。


 うるさい。だが、安全だ。何かが近づけば、この反響が先に教えてくれる。


 体を丸めて、石の壁に囲まれた新しい拠点で目を閉じた。


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