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最弱ステータスでヘビに転生した俺は、スキル補食と進化をしながら迷宮を攻略する  作者: 迫力くん


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第053話「爪痕」

 新しい拠点で目を覚ました。自分の呼吸音が四方から返ってくる。一晩寝たが、まだ慣れない。


 亀裂を抜けて通路に出た。今日は昨日より奥に進む。拠点周辺の地図を広げないと、狩り場が足りない。


   ◇ ◇ ◇


 反響定位Lv2で通路を読みながら壁面を這った。昨日ストーンワームを仕留めた区画を通過する。壁に残った出口跡は浅くなっていた。石潜りの通路は、主がいなくなると石に戻るらしい。


 三叉路を左に進んだ。右は昨日通った方だ。


 通路が広くなった。天井が高い。壁面の結晶が大きくなり、光量が増している。開けた区間に出るのは嫌だが、反響定位の有効距離が伸びるのは助かる。


 壁面に、妙な凹みがあった。


 4本の溝。平行に、壁面を縦に走っている。天井近くから床まで一直線。溝の1本1本が俺の胴体より太い。


 爪痕だ。


 石の壁を、粘土のように抉っている。溝の縁が圧で焼けたように滑らかになっていた。自然に割れた面とは質が違う。何かが、この壁を引っ掻いた。


 溝の幅。溝の間隔。この通路の横幅と比較した爪1本の太さ。全部が嫌な方向にしか足し算にならない。


 爪痕は古い。溝の中にまで小さな結晶が育っている。何十年か、もっと前のものだ。今ここにはいない。


 反響定位を広域に飛ばした。生き物の反応はない。ロッククローラーすらこの区画にはいなかった。


 爪痕のある壁を通過して、先に進んだ。


 嫌な情報はまだ続いた。


 爪痕から50メートルほど進んだ通路の壁面の一部が、滑らかに切られていた。爪痕ではない。直線の断面。刃物か、それに近い何かで石を整えた痕だ。壁面の一部を切り出して、平坦に仕上げている。


 道具を使う。俺が知る限り、それができるのは人間だ。


 この深さまで人間が来ていたのか。あるいは、道具を使う別の何かか。


 巨大な爪の痕。道具で切った石の面。どちらも古い。だが同じ区画にある。


   ◇ ◇ ◇


 切断面のある区画を抜けると、通路がやや狭まった。壁面の結晶が減り、光が落ちる区間。反響定位で先を読むと、壁面に張りついている影があった。


 四肢。尾。壁面に吸着している。蟲ではない。


 鑑定が起動した。


――――――――――――――――――――

種族:クラックリザード

Lv:6

【スキル】

 結晶甲 Lv2 / 壁走り Lv1 / 尾撃 Lv1

――――――――――――――――――――


 蜥蜴型。体長は俺の頭部の3倍。四肢の爪で壁面に張りついている。体表が結晶質の甲で覆われていた。結晶甲Lv2。シャードビートルのLv1より一段上。壁走りLv1は低いが、四肢の爪で壁面を掴んでいる分、安定感がある。


 俺と同じ壁の上で戦える相手。


 クラックリザードがこちらを認識した。四肢の爪が壁面を掴み直し、尾が持ち上がった。尾の先端が結晶で覆われている。


 壁走りで接近した。クラックリザードが尾を振った。結晶の尾が壁面を叩き、石の破片が飛んだ。急旋回で避けた。尾撃の射程は体長分。踏み込めば当たる距離だが、横にずれれば外れる。


 外殻粉砕を甲に叩き込んだ。


 ———ひびは入った。だが、砕けない。


 結晶甲Lv2。シャードビートルのLv1なら一撃で割れた。Lv2は一段硬い。ひびの入り方が浅く、中身まで届いていない。


 距離を取った。クラックリザードが壁面を這って追ってくる。壁走りLv1。俺のLv3より明らかに遅い。だが四肢の爪が壁面を確実に掴んでおり、落ちる気配がない。


 正面から殻を砕けないなら、別の手がある。


 壁走りで通路を引き返した。クラックリザードが追ってくる。さっきの爪痕のある広い通路まで戻った。天井が高い。そして壁面に、あの4本の溝がある。


 溝の中に体を滑り込ませた。太古の爪痕は深く、俺の胴体がすっぽり入る。溝の底は圧で焼けた滑らかな面で、壁走りの吸着がよく効いた。


 クラックリザードが追いかけてきた。溝の入り口で動きが止まった。四肢の爪が溝の曲面を掴もうとするが、滑る。壁走りLv1では、この形状に対応できない。


 溝の出口側から頭を出した。クラックリザードの横に出る形になる。向こうは壁面に張りついたまま、こちらを向こうとして体を捩っている。背中の甲が浮いた。


 毒霧を吐いた。乾いた空気に霧が広がる。泥底の湿った空気より散りやすいが、この距離なら間に合う。結晶甲の隙間から毒の粒子が入り込む。壁走りで体勢を維持するために四肢が動くたび、甲の継ぎ目が開閉する。そこから毒が染みていく。


 クラックリザードの動きが鈍った。壁面を掴む四肢の爪が滑り始めた。毒で弱った筋力では壁走りLv1を維持できない。


 爪が外れた。天井近くの壁面から石の床まで、5メートル。結晶甲が床に叩きつけられ、外殻粉砕で入れたひびが落下の衝撃で走った。甲の一部がめくれ上がっている。


 壁面から飛び降りた。仰向けに転がったクラックリザードの腹に、毒牙を突き込んだ。腹側の甲は薄い。牙が通った。毒が回り、6秒で動かなくなった。


 食った。


 レベルは上がらない。だが経験値は入っているはずだ。結晶甲Lv2の敵を1体。進化率は少し進んだ。


   ◇ ◇ ◇


 食い終わって、壁の爪痕を見上げた。


 この溝がなければ、もっと手間がかかっていた。太古の何かが残した痕を、今日の戦術に使った。ありがたい。ありがたいが、この溝を残した生き物のことは考えたくない。


 拠点に戻る前に、一つ気づいた。


 あの爪痕は、壁を引っ掻いただけではない。溝の方向が揃っている。4本の爪が、壁面の一点に向かって掘り進んでいる。


 そして、さっきの切断面。道具で石を切った痕。あれも、同じ壁の延長線上にあった。


 巨大な爪の持ち主と、道具を使う何かが、同じ方向に向かって壁を掘っていた。


 壁の奥に、何がある。


 反響定位を壁面に向けて飛ばした。Lv2の精度で、壁の中の密度を読む。石。石。石———その奥に、石とは違う密度の層が返ってきた。距離がある。深い。今の反響定位では輪郭までは見えない。


 だが、ある。壁の奥に、石ではない何かが埋まっている。


 亀裂の拠点に戻った。体を丸めて、目を閉じた。


 爪痕の深さと、壁の奥の反応が、暗闇の中でまだ残っている。


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