第049話「地鳴り」
棚の上の足音が昨夜から消えている。3人は南東へ行ったまま戻っていない。
気にはなるが、今やることは変わらない。泥底を西に這った。人間がいた区間から離れて狩る。
しばらく進んだところで、振動感知に反応があった。泥の中を何かが這っている。蟹の横歩きではない。ボグフィッシュの泳ぎでもない。細長い反応が、こちらへまっすぐ向かってくる。
泥底が盛り上がった。太い胴体が泥を割って現れた。蛇のような体だが、頭部に目がない。代わりに体表全体が細かく振動している。泥まみれの白い体。
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種族:ブラインドワーム
レベル:6
【スキル】
泥潜行 Lv2 / 締め付け Lv3 / 振動探知 Lv2
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締め付けLv3。俺と同じだ。
振動探知Lv2。こいつは目がない代わりに、振動で獲物の位置を特定している。泥底を這えば、こちらの動きは筒抜けになる。
ブラインドワームが頭を持ち上げた。俺の体の振動を捉えている。距離を取っても意味がない。
正面から仕掛けた。
頭部を狙って突進する。ワームが胴体を横に振り、頭を避けた。反応が速い。振動探知で攻撃の予備動作を読んでいる。
ワームの胴体が俺の体に巻きついてきた。締め付けLv3。鱗硬化を発動した瞬間、圧が来た。
――体が止められる。
鱗は割れない。防御力64なら、締め付けLv3の圧でもすぐには潰れない。
だが、ワームは太い。俺の胴体の半分を巻き込んだまま、さらに締め上げてくる。鱗は耐えているのに、体を動かす余裕が消える。
ワームが締め付けを強めた。俺も締め付けLv3で応じる。互いの胴体が絡み合い、泥底で転がった。
こいつも俺も、細長い体で相手を絞る生き物だ。正面から力比べをすれば長引く。
ただ、今の俺には防御力と体重がある。向こうの圧は俺をすぐに潰せない。なら、こっちは逃がさずに、潰す場所を絞ればいい。
俺は泥底に体を沈めた。絡み合ったまま泥の中へ引きずり込む。ワームは泥潜行Lv2を持っているが、俺に巻きついたままでは自由に潜れない。沼喰大蛇の太い胴体が、泥の上で錨になる。
泥の中で、ワームの頭部を探った。絡み合った胴体の中から、振動感知で頭の位置を特定する。ワームの頭部は、俺の胴体の3巻き目の下にある。
締め付けの配分を変えた。胴体全体を均等に絞めるのをやめ、頭部がある位置に圧を集中させる。ワームの残りの胴体が暴れたが、泥の中では踏ん張りが利かない。
頭部を挟んでいる部分に外殻粉砕を乗せた。締め付けの圧と外殻粉砕の衝撃を同時に叩き込む。
――ワームの体表が粘液ごと裂けた。頭部の殻が潰れる感触が巻きつけた体を通じて伝わってきた。
暴れが止まった。泥の中で、巻き付きの圧がゆっくり抜けていく。
泥底から体を引き上げた。首から下の胴体を締められていたせいで、解放された瞬間に動きが戻った。
俺はブラインドワームを食った。
通知が来た。
『レベルが上がりました Lv3 → Lv4』
HPが満タンに戻る。ステータスを確認した。
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【ステータス】
種族:沼喰大蛇
レベル:4
HP:92 / MP:31
攻撃力:42 / 防御力:64
素早さ:23 / 知力:24
魔力適性:なし
【スキル】
捕食継承 Lv1 / 毒牙 Lv3 / 締め付け Lv3
鱗硬化 Lv2 / 壁走り Lv3 / 振動感知 Lv3
熱感知 Lv2 / 外殻粉砕 Lv1 / 毒液圧縮 Lv1
酸耐性 Lv1 / 粘着無効 Lv1 / 毒霧 Lv1
鱗弾き Lv1 / 急旋回 Lv1 / 嗅覚強化 Lv1
反響定位 Lv1 / 掘削 Lv2 / 前脚打撃 Lv1
鎌刃見切り Lv1 / 吸着抵抗 Lv1 / 鑑定 Lv2
次の進化まで:10%
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HP92。防御力64。進化から数日で、もうここまで伸びた。
この体、伸びしろがえぐいな。
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拠点方向に戻ろうとした時、振動感知に異常が入った。
南東。遠い。だが振動が大きい。地面が揺れている。
主の巡回とは違う。巡回の振動は一定の間隔で、重く、規則的だ。今の振動は不規則で、断続的で、重さが変わる。
何かが暴れている。
泥底を南東に這った。振動が大きくなる。泥底を伝わる大きな波に混じって、別の振動があった。軽い足音が2つ、3つ。人間の足音だ。
棚の下まで来た。泥底に伏せて、上を見上げた。
棚の上で光が弾けた。結界の光だ。その光を覆い潰すように、巨大な影が棚の壁面を叩いた。泥底が揺れ、天井から石片が落ちてきた。
熱感知には、3つの小さな熱源が全力で後退しているのが映った。その背後から、一つの巨大な熱源が追いすがっている。
主だ。スワンプロードが、棚の上まで体を乗り上げて追っている。
弓の弦が鳴った。何かが空気を切る音がして、直後に大きな衝撃音が響く。矢は当たったらしいが、スワンプロードには効いていない。
人間の声が飛んだ。意味は分からない。だが声の調子で分かる。叫んでいる。指示か、警告か、悲鳴か。
巨大な影がもう一度棚を叩いた。棚が割れた。岩の破片が泥底に落ちてくる。
3つの熱源が北西に走っている。逃げている。スワンプロードが追いかけている。棚の上を半身で滑りながら、尾で壁面を薙ぎ払っている。
以前、回廊で巡回を見た時より近い。体の幅は俺の4倍以上ある。泥底を這う時の音は規則的だったが、今の動きは速く、荒い。
振動が遠ざかった。北西方向へ。人間が逃げ、主が追う。
……あいつらは戻ってこられるのか。
泥底に伏せたまま、しばらく振動を追った。戦闘音が遠くなっていく。音が完全に消えるまで、かなり長く感じた。
体を起こした。
南東方向の棚が、半分崩れている。壁面に深い引っ掻き傷。泥底には棚の破片が散乱し、水位が乱れている。
あの破壊の跡が、レベル16の出力だ。
拠点に戻った。人間の足音は、もう聞こえなかった。




