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ヘビに転生した俺は、最弱ステータスからスキル補食と進化しながら迷宮を攻略する  作者: 迫力くん
捕食継承

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第031話「沈む足場」


 昨日見つけた切断面が引っかかっている。


 あの死骸は、蟲や蛇の仕業じゃない。噛み跡でもなく、引き裂いた痕でもなく、硬い薄いものが一度だけ通った断面だった。何がやったかは分からない。だが分かるのは、この層にそれができる何かがいることと、そいつはこちらの知らない道から来ていること。


 確認したい。ただし優先順位は変えない。今日の仕事は足場の見極めだ。


   ◇ ◇ ◇


 泥の浅い場所ほど下が空洞になっている。昨日掴んだルールがどこまで通用するか、もう少し奥で試す。


 降り口から南東方向へ進んだ。泥が薄い帯状の道が一本見える。昨日なら迷わず踏んでいた。今は踏まない。薄い泥の帯を避け、深そうに見える泥をあえて選ぶ。底が硬い。足場は安定していた。


 ただし、奥へ進むほど霧が濃くなった。


 毒沼から立ち上る蒸気が低い天井に溜まっている。熱感知の映りが霞む。五メートル先から精度が落ちた。この霧の中に敵がいた場合、気づくのがかなり遅くなる。


 霧の濃い場所と薄い場所の境目で、泥の下に何かが動いた。


 ……重い。


 振動感知に落ちてきた重さは、泥喰い蛙より太く、晶角鹿虫よりずっと鈍い。横に広い体が泥を押し分けるような動き方をしている。足ではなく、体全体で泥を掻いている。


 泥の表面が膨らんだ。甲羅だった。


 幅四十センチほどの平べったい甲羅が泥をかぶったまま浮き上がる。前に二本の鋏、横に四本の短い脚。泥沈み蟹だ。甲羅の色が泥と同じで、動かなければまず見えない。


 (はさみ)がこちらを向いた瞬間、泥が跳ねた。


 速い。泥の中からの一撃目は、地上の敵より読みにくい。鋏が右の鱗を掠めた。浅いが、挟む力が強い。この間合いで二度目を食らうと鱗が割れる。


 横へ回る。甲羅の裏側を狙いたいが、蟹は体ごと泥に沈んで向きを変えた。泥が鎧になっている。甲羅の上からでは牙が通らない。下から攻めるか、関節を狙うか。


 鋏の付け根を見る。関節部分に泥が詰まっていない隙間がある。ここだ。


 二度目の鋏を鱗弾きで外へ流し、そのまま付け根へ頭を押し込んだ。牙が関節の薄い膜に触れる。噛み込む。


 ——通った。


 毒を流す。蟹は甲羅を持ち上げて全身で振ろうとしたが、関節から力が抜けていく。鋏の動きが鈍り、片方が泥に落ちた。もう一度噛み直して深く入れる。しばらくして動きが止まった。


 食う。甲羅の裏側は意外に食いやすい。泥ごと噛み砕く形になるが、粘着無効のおかげで口の中に泥が張りつかない。昨日取ったスキルが早速仕事をしている。この層の食事係としては、粘着無効が一番の当たりかもしれない。


 通知は来なかった。外れだ。だが泥沈み蟹の居場所は分かった。霧が濃い場所の泥底にいる。今後の周回リストに入れておく。


   ◇ ◇ ◇


 蟹を食い終えてから、霧の境界に沿って動いた。


 泥の底が硬い場所を選んで足場を繋いでいく。頭の中で地図を作る作業だ。安全に踏める場所を線で繋ぎ、線の間にある沈む場所を消していく。こうやって一本ずつ通れる道を引いていけば、いずれ使い回せるルートになる。


 南東方向に三十メートルほど進んだところで、泥底の感触が変わった。


 硬い。だが岩ではない。木だった。


 泥の下に細い根が横に走っている。根道だ。幅は体幅よりやや広い程度だが、上に乗ると沈まない。泥の中に浮いた天然の足場だった。


 根道は霧の境界をまたいで、さらに奥へ続いていた。このまま辿れば、霧の濃い地帯を泥に足を取られずに通過できる。


 根道を使って奥へ進む。霧が一段濃くなった場所で、別の熱源が動いた。


 泥喰い蛙とは違う。もっと大きい。体長六十センチ以上ある蛙が、霧の中から音もなく根道の上に降りた。


 霧沼蛙だ。体表が白濁していて、霧に紛れると輪郭が消える。泥喰い蛙みたいに泥を飛ばすのではなく、口から霧と同じ色の粘液を吐いた。根道の表面に広がる。


 根道が滑る。


 これは嫌だ。足場を潰してくる敵はこの層で一番面倒だ。根道を失ったら泥底に落ちる。泥底で霧沼蛙と戦うのは不利すぎる。


 粘液を避けて根道の反対側へ回る。蛙は追ってこない。根道の上で待っている。逃げる気がない。こちらが滑って落ちるのを待つ型だ。


 ならこちらから行く。粘液が広がっていない根道の枝を見つけ、横から回り込む。霧沼蛙の死角は横だった。白濁した体表に光の反射がない分、こちらの熱感知でも輪郭がぼやける。だが振動感知なら根道を伝って位置が取れる。


 根道の振動を読みながら間合いを詰めた。蛙が気づいて向き直る前に、横腹へ巻きついた。粘液が体表から出ているが、粘着無効が弾く。そのまま締めて首の下に牙を入れた。


 霧沼蛙は暴れ方が泥喰い蛙より重い。根道が揺れる。締め付けを強くして、毒を追加で入れた。二度目の毒が回ったところで動きが落ちた。


 ……でかい。


 食いでがある。蛙の白濁した皮の下は、予想より筋が多かった。顎が疲れる量だが、この層の食料としては上等だ。食い切った頃に通知が来た。


『Lv3になりました』


 全回復。進化は37%に伸びた。


 悪くない日だ。泥沈み蟹と霧沼蛙を倒し、根道というルートを見つけ、レベルも上がった。ただし数字を見ると防御35に対して素早さ26。差が開いてきた。重い方に寄っている。急旋回と壁走りで補えるうちはいいが、速さが必要な相手が出た時にどうなるか。


   ◇ ◇ ◇


 根道を辿って、もう少しだけ奥を確認する。


 霧が最も濃い地帯を抜けた先に、開けた窪地があった。泥が浅く、岩が露出している。霧が少し薄い。


 窪地の端に、死骸が引っかかっていた。


 蟲だった。体長は六十センチほど。体型は晶角鹿虫に似ているが、もう少し脚が長い。角はない。そして胴の中央が、一箇所だけ切れていた。


 昨日と同じだ。噛み跡ではない。引き裂いた痕でもない。硬くて薄いものが一度だけ通った、綺麗な断面。


 ただし、位置が違った。昨日の死骸は降り口の近くにあった。今日のはずっと奥だ。霧の濃い危険地帯の向こう側にある。


 つまり、これは奥から流れてきたのではない。


 ——逆だ。


 あの切断面を作れるものは、この危険地帯の向こう側にいる。こちらに近づいてきているのではなく、向こうが元々の活動圏で、死骸が泥の流れに乗ってこちら側まで運ばれてきただけだ。


 奥にいる。向こう側に。


 今日はここまでだ。根道を辿って引き返す。頭の中の地図に、根道と霧の境界と窪地の位置を書き込んだ。明日以降、この地図を使って周回する。まずは根道の全容を把握して、安全に踏める範囲を広げる。


 その先に何がいるかは、足場を固めてから確かめる。


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