第003話「食うだけじゃ、生き残れない」
3日目。
池と寝床がそろうだけで、動きはかなり楽になった。
朝は岩の割れ目から出て、池まで行く。水面近くへ上がってきた虫を噛む。食ったら割れ目へ戻って消化する。
その繰り返しだけでも、昨日よりずっとまともだ。
前世の俺が見たら泣くかもしれない。大学生の生活から、池の虫を待ち伏せする蛇生活へ落ちている。
……だが、数字は伸びる。
数字が伸びるなら、まだやれる。
◇ ◇ ◇
池の虫を2匹食ったあと、俺は主回廊へ出た。
池だけで食えるなら楽だが、同じ場所だけに頼るのは危ない。池を使うのは俺だけじゃない。昨日の夜も、池の縁に別の生き物の跡が残っていた。
餌場は増やしておきたい。
苔の多い主回廊には、小さい虫が多かった。
丸い殻の虫。
細長い百足みたいな虫。
横へ跳ねる小さい虫。
名前は分からない。
だから今の俺の中では、「丸いやつ」「細いやつ」「跳ねるやつ」だ。かなり雑だが、小さい虫を見分けるにはそれで足りた。
丸いやつは、正面から噛むと殻に当たる。
細いやつは、首に近い場所へ牙を入れると止まりやすい。
跳ねるやつは、最初から逃げる先を狙う。
相手ごとに、少しずつやり方が違う。
それが分かってくると、狩りはかなり楽になる。
最初は虫1匹で死にかけたのに、今日は3匹目まで大きな傷なしで食えた。
ちゃんと上達している。
◇ ◇ ◇
4匹目は、殻だまりの近くにいた。
苔の下に、丸い虫の割れた殻がいくつも落ちている。その殻の下を、細い百足みたいな虫が這っていた。
割れた殻の内側に残った身を齧っているらしい。
背後から近づく。
距離は40センチ。
30センチ。
そこで虫が急に振り向いた。
気づかれた。
細い虫の体が横へ跳ねる。俺の噛みつきは空を切る。そのまま次の瞬間、虫の頭が俺の胴へ噛みついた。
痛い。
小さいくせに牙が鋭い。
俺は体をひねって虫を地面へ押しつけた。今の長さでは巻きつけない。だから頭だけを低く押さえ、首の付け根へもう一度噛む。
牙が入った。
毒を流す。
虫はしばらく暴れた。脚が腹の鱗に当たり、胴を何度も引っかく。
HPが削れる感覚がある。
それでも牙は離さない。
今離したら、もう一回噛まれる。
数秒後、虫の動きが鈍った。
さらに待つ。
完全に止まってから飲み込んだ。
甘く見ていい相手じゃない。
小さい相手でも、噛まれれば普通に痛い。
◇ ◇ ◇
『レベルが6に上がりました』
体の傷が少し塞がる感覚があった。
ナイスタイミング。
痛い思いをした直後にHPが戻るのは、かなりでかい。次の一手を考える余裕ができる。
俺は岩陰へ移動して、ステータスを開いた。
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【ステータス】
種族:仔蛇
レベル:6
HP:20/20 MP:9/9
攻撃力:8 防御力:7 素早さ:10 知力:7
魔力適性:なし
【スキル】
熱感知 Lv1、毒牙 Lv1(微弱)
次の進化まで:20%
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HP20。
初日の2倍以上だ。
攻撃力も防御力も伸びている。小さい虫相手なら、前よりずっと押し切りやすい。
素早さ10もいい。跳ねる虫の逃げ先へ頭を出す動きが、昨日より合わせやすい。
進化率は20%まで来た。
5分の1だ。
まだ小さい蛇だが、虫1匹で終わる体ではなくなってきている。
◇ ◇ ◇
地面に顎をつけて休んでいた時、床の奥から小さな揺れが伝わってきた。
近くの虫の動きではない。
揺れはもっと遠くから来ていて、もっと大きい。
何本もの脚が、同じ間隔で床を叩いている。
百足系だ。
ただし、今まで食った細いやつとは揺れの強さが違う。
通路の奥で、もっと大きい多脚の何かが動いている。
俺はすぐ体を低くし、苔の陰へ入った。
しばらく待つ。
揺れは少し大きくなって、それから遠ざかった。
姿は見えなかった。
見えなくてよかった。
あの揺れを出す相手なら、今の俺が正面から勝てる気がしない。
俺は小さい虫なら狩れるようになった。
だが、通路の奥には、俺を食う側のやつがいる。
池へ戻る途中、何度も顎を地面へ押しつけた。
熱だけじゃ足りない。
床の揺れも覚える。
見えない相手に近づかれたら、そのまま食われる。
なら、先に気づくしかない。
主回廊の奥は、まだ早い。
明日は池の虫で確実に積む。




