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ヘビに転生した俺は、最弱ステータスからスキル補食と進化しながら迷宮を攻略する  作者: 迫力くん
目覚め

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第003話「食う側と食われる側」

第003話「食う側と食われる側」


 3日目にして、俺はいくつかのことが分かってきた。


 まず、苔の回廊は一本道ではない。昨日発見した横道の奥には、さらに細い枝道があり、その先にもまた分岐がある。同心円状に広がるダンジョンの最外縁——とすれば、この回廊は俺が想像していたより遥かに広い。全体像は把握のしようもないが、少なくとも2日探索した範囲はこの場所のほんの一部に過ぎないということだ。


 次に、エリアによって蟲の密度が違う。主回廊は発光キノコが多く、比較的明るくて蟲も多い。枝道に入るほど暗くなり、蟲も少なくなる。光と餌(苔・菌類)の量が生物密度に直結しているらしい。


 つまり、効率的に経験値を稼ぐなら主回廊が最優先だ。


 3日目の朝は、その主回廊の少し先——昨日まで探索していた範囲の奥——を目指すことにした。


   ◇ ◇ ◇


 進んだ先は、思ったより快適な狩り場だった。


 苔の密度が高く、蟲の数も多い。甲虫型が3匹、球化型が2匹。フェイントと待ち伏せを使い分け、5匹を効率よく処理した。戦闘のたびに積み上げてきた経験が、確かに動作の精度として返ってきている。初日に1匹仕留めるのに苦戦していたのが、今では5匹を無傷で処理できる。


 レベル5になった時点で小休止した。食事——蟲2匹を丸呑みにして——消化を待ちながら、振動感知で周囲をスキャンする。


 静かだ。半径4〜5メートルに、目立った熱源や振動は感じない。


 こんな時間が、意外と好きだ。静かで暗くて、苔の匂いだけがある。前世では「大学生なんだから青春しろ」というプレッシャーを感じながら、結局ゲームばかりやっていた。この暗い洞窟の底で一人で獲物を待ち伏せしている今のほうが、変な話、似合っている気がする。


 ——その時、異質な振動を感じた。


 細かくて、速い。蟲の足音にしては間隔が均一すぎる。数えると……脚が多い。しかも一定の速度で、まっすぐこちらに向かってきている。


 探索型の動き、ではない。


 追跡型だ。


   ◇ ◇ ◇


 姿が見えた時点で、俺は後悔した。


 百足だ。


 体長は20センチほど。俺より10センチ短いが、幅がある。無数の脚が波打つように動き、苔の上を滑るように近づいてくる。甲虫型の蟲とは比べ物にならないほど速い。アンテナのような触角が、はっきりとこちらを向いている。


 ……なんで俺を追ってくるんだ。


 甲虫型も蟹型も、こちらが仕掛けるまで気づいていなかった。だがこの百足は、俺が何もしていないのに真っ直ぐ向かってきている。


 嫌な結論が浮かんだ。


 こいつは、俺を——蛇を、餌として認識している。


 食う側だと思っていたが、食われる側でもあったらしい。


 逃げるべきか。理性はそう言っている。初めてのパターン、未知の相手、しかも速い。情報が少なすぎる。


 だが——逃げきれるか。俺の素早さは8。相手の速度を見る限り、正直怪しい。それに、逃げても解決にはならない。この狩り場で狩れないなら、ここを拠点にできない。


 戦うにしても、問題がある。この百足、どこに弱点があるのかまったく分からない。甲虫型は腹面と関節部。蟹型は背甲の継ぎ目。だがこの多脚の生き物は——全体的に硬そうだし、どこを噛めばいい。


 考える時間は、もうない。


 百足が加速した。


 俺は横に転がるように体を動かし、突進をかわした——が、完全には間に合わなかった。鋭い顎が脇腹を掠め、鱗の間に浅く食い込んだ。


 痛みよりも先に、視界の端に文字が浮かんだ。


『毒状態(微弱)を付与されました』


 ……こいつも毒持ちか。


 HPが少しずつ減り始めた。微弱なので即死はないが、消耗戦になれば厄介だ。


   ◇ ◇ ◇


 戦い方を変える必要があった。


 これまでの相手は動きにパターンがあった。甲虫型は反射回避。蟹型は前進のみ。だがこの百足は——速く、方向転換が上手く、こちらの動きに合わせて追ってくる。頭を使って動いている。知性が高い。


 フェイントが効かない可能性がある。


 俺は後退しながら、地形を探した。


 この辺りの主回廊には、岩が突き出た部分がいくつかある。昨日、球化型の蟲を待ち伏せした時に気づいた、岩と壁の隙間だ。幅は10センチ程度。30センチの蛇には少し狭いが——20センチ幅の百足には入れない。


 そこまで逃げ込めれば、一時的に安全を確保できる。


 毒のカウントが進んでいる。HP16のうち、すでに14を切っていた。早くしないと選択肢が消える。


 百足が再度突進してきた。今度は逃げない。


 体を右に振って突進をかわしながら、逆に相手の側面に食らいついた。


 手応えがあった。百足の胴体中央、脚の付け根近くに毒牙が刺さった。


 すぐに引いて、岩の隙間に向かって滑り込む。


 20センチ、10センチ、滑り込んだ。


 百足が追ってきた——が、体の幅が引っかかった。無数の脚が岩の縁をひっかいているが、入ってこれない。俺の目論見通りだ。


 挟まれた状態でも噛もうとしているが、届かない。


 俺は奥に下がり、相手を観察した。


 百足の動きが、数十秒ほどで変わり始めた。


 先ほどまでの積極的な攻撃姿勢が、少しずつ鈍くなっている。俺が一度だけ食らいつかせた毒が、回り始めているのかもしれない。


 こいつの体格は俺より小さい。同じ微弱な毒でも、効く速度が違う。


 2分待った。百足の動きが明らかに遅くなった。


 岩の隙間から這い出す。百足は隙間の前でまだ動いているが、もはや追跡できる速度ではない。


 今度は正面から、頭部を狙って噛んだ。


 脚の動きが数秒で止まった。


   ◇ ◇ ◇


 壁際に寄りかかって、毒が抜けるのを待った。


 毒状態は5分ほどで自然に解除された。蛇は毒を持つ生き物だから、毒への耐性が多少は備わっているのかもしれない。それでもHP16のうち12まで削られたのは、十分な警告だった。


 レベルアップの通知が来た。


――――――――――――――――――――

【ステータス】

種族:仔蛇

レベル:6

HP:20/20 MP:9/9

攻撃力:8 防御力:7 素早さ:10 知力:7

魔力適性:なし


【スキル】

熱感知 Lv1、毒牙 Lv1(微弱)


認識範囲:2m

次の進化まで:20%

――――――――――――――――――――


 HPが20に増えていた。ダメージを受けた状態からでも最大値は上がっている。これはありがたい。


 それより、今日の戦闘で分かったことを整理したい。


 この回廊には——俺を餌と認識して積極的に狩りに来る生き物がいる。


 甲虫型や蟹型は草食寄りで、こちらから仕掛けなければ戦闘にならなかった。だが百足は違った。小型の蛇は百足の獲物に入るらしい。地球の自然界でも、百足と蛇は互いに食い合う関係にある。ここでもその関係が成立しているようだ。


 俺が食う側だと思っていたのは、甘かった。


 弱い蟲を一方的に狩っている間は気づかなかったが——もっと強い相手から見れば、俺も蟲と同じ「餌」の一種に過ぎない。


 奥に進めば進むほど、強い生き物がいる。それは直感で分かる。


 ということは、この外縁の回廊でいつまでも蟲を狩り続けても、いずれ限界が来る。進化が必要だ。より強い形態になって、初めてこの場所での地位が安定する。


 ……まあ、急ぎすぎても仕方ないが。今日はもう休む。


 百足の死骸を丸呑みにした。


 食感は……うん、甲虫型より足が多い分だけ複雑で、もう少し考えないことにしようと思った。


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