第113話「王の爪」
狼型の牙獣が左右へ割れたあと、木の間からそいつが出てきた。
そいつの体は猪より高い。
肩が盛り上がっている。首のまわりの毛は長く、土と血で固まっていた。顔はライオンに近いが、前へ出た牙が長い。前脚も太い。爪は半分だけ地面へ出ていて、一歩進むたびに土が浅く裂ける。
あれが押してた本体か。
距離が詰まった。今なら鑑定が届く。
反射で鑑定をかける。
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名前:獅牙王レオガルド
種族:獣牙獅子
Lv:20
【スキル】
牙撃 Lv3 / 爪撃 Lv3 / 剛毛皮 Lv3
咆哮 Lv2 / 跳躍 Lv2 / 群導 Lv3
獣王因子
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王だ。Lvも高い。しかも獣王因子持ち。
さっきまでの群れと同じつもりで受けたら潰される。けど、ここで止めるしかない。
◇ ◇ ◇
レオガルドは、俺を見ても急がなかった。
黄色い目だけが細くなる。
「龍宮の匂いか」
レオガルドの声も低い。
次の一歩で、急に距離が縮んだ。でかいくせに、踏み込みが短い。
右へ跳ぶ。
その瞬間、さっきまで俺がいた場所を前脚が裂いた。土が大きくめくれ、爪の跡が四本残る。まともに受けてたら、胸から腹まで持っていかれていた。
空振りした前脚の横へ潜り込み、肩口へ雷纏を流した前脚を叩き込む。
火花が散る。傷は浅い。だが、ちゃんと入った。
レオガルドの肩の毛が焦げ、皮膚が一本だけ赤く裂ける。
浅くても傷が入るなら、まだ手はある。
◇ ◇ ◇
けれど、レオガルドは肩を揺らしただけで、もうこっちを見ていた。前脚がもう一度来る。今度は避けきれない。
胸と肩へ竜鱗装甲を寄せ、前脚を合わせて受ける。
前脚の骨が軋み、衝撃が首まで抜けた。受けたはずなのに、そのまま体が横へ流される。
喉は遠い。だから顔を狙う。
右へ回り、鼻先の横へ爪を引く。
今度はさっきより深い。鼻の横に赤い線が走る。
レオガルドの口元が歪んだ。
笑ったみたいに見えた。
◇ ◇ ◇
次の瞬間、下から牙が来た。
首を引く。完全には抜けない。
牙の先が肩をかすった。鱗の上を嫌な音で削り、そのまま血が薄く流れる。
傷は浅い。けど、軽くはない。
そのまま前脚がもう一度振り下ろされる。
今度は受けずに、喉の奥へ熱を集めた。
竜息だ。まだ細い。けど、今ある手の中じゃ一番でかい。
口を開く。
青白い息が短く走った。
レオガルドは頭を振って外す。
全部は当たらない。
けれど、避け切れてもいない。首の横の毛が焼け、焦げた匂いが上がる。
それでも、首の横の毛を焼いたくらいではレオガルドの足は止まらない。
頭を一度振っただけで、次の前脚がもう来ていた。
◇ ◇ ◇
レオガルドは止まったままじゃなかった。
爪が土へ入る。
次の一歩が、そのまま前へ出る。
鼻先の傷も、肩の焦げも、足を止める理由になっていない。
浅い傷は入る。
けれど、傷が入るだけだ。
肩を焼いても、鼻先を裂いても、前へ出てくる足が鈍らない。
このまま真正面でやったら、押し切られる。
それでも俺が西門の前で退いたら、そのまま里へ入られる。
西の道の真ん中で、レオガルドは焼けた毛を揺らしただけで前へ出てくる。
前脚を開き直す。
だが、その時点でもう俺の反応が一手遅れていた。
次の踏み込みに合わせる前に、レオガルドの影が目の前まで来る。




