第112話「森の手前」
西の道は、里を出て少し行くと細くなる。
左は低い斜面、右は太い木が何本も寄っていて、でかい猪が二体並ぶには狭い。
西の道の細い場所なら、柵の前よりずっといい。
里の中でぶつけられたら、家まで割れる。だがここなら、抜けられても一体ずつだ。
後ろで、カイルが村の連中へ声を飛ばしていた。
「前に出すぎるな! 柵の内側で待て!」
リーナは道の右の木へ上がっている。マルトは少し後ろで、怪我をした時にすぐ触れる位置を取った。
こっちからも森が見える。
森から出てくるやつも、ここを避けにくい。
西の森から出てくるなら、まずここだ。
◇ ◇ ◇
最初に出てきたのは狼型の牙獣だった。
先頭に一体出た。
次に二体続く。
その後ろで、土を削る音が重なる。猪もいる。
数はさっきより多い。
だが、ばらけていない。道の細い場所へまとめて入ってくる。
まとめて来る方が止めやすい。
先頭の一体が、俺を見た瞬間に飛んだ。
前より速い。
だが、横へ振らない。まっすぐ飛びかかってきた。
右へ半歩ずれ、前脚へ雷纏を流す。そのまま横面を叩くと、火花と一緒に牙獣の頭がぶれた。首が折れきる前に地面へ落ち、滑って止まる。
後ろの二体がそこで開いた。
左右から来るつもりだ。
右へ回った一体の肩へ、上から矢が刺さる。
リーナだ。
動きが鈍ったところへ、カイルが前へ出た。剣が首の横へ深く入り、そのまま牙獣を道の端へ蹴り落とす。
左の一体は、俺が前へ出て噛んだ。
喉へ牙が入る。血が熱い。振り回される前に首の横へもう一度爪を入れると、体がそのまま横へ倒れた。
よし。
狼はこれで三体。
◇ ◇ ◇
次に猪が来た。
正面から一体。
少し遅れて、後ろにもう一体いる。
前の猪が頭を下げる。
柵の前じゃない分、狙いは読みやすい。こいつは道をこじ開けるつもりで真っすぐ来る。
俺は真正面へ出た。
前脚へ雷纏を流し、胸と肩には竜鱗装甲を寄せる。
ぶつかる。
前脚から胸へ衝撃が抜けて、肩の骨まで痺れた。
だが、里の柵で受けるよりずっとましだ。
牙が腹へ入る前に、左前脚を顔の横へ引っかける。そのまま体を斜めに入れて押すと、猪の頭が少しだけ外へ流れた。
頭が外へ流れたところへもう一度、右前脚を叩き込む。
火花が散る。
猪の足がもつれ、斜面側へ肩から突っ込んだ。土と石が崩れ、でかい体がそこで止まる。
後ろの猪は、その死角で一瞬だけ詰まった。
その一瞬で十分だ。
リーナの矢が目の横へ入る。
猪が頭を振ったところへ、俺が牙の内側へ潜り込む。喉の下へ爪を入れて押し上げると、巨体がぐらついた。
カイルが横から脚を斬る。
マルトが後ろから叫ぶ。
「カイル、右は浅い! まだ行ける!」
猪は二歩だけ粘ったが、そのまま膝を折った。
◇ ◇ ◇
道の前が、ようやく空く。
後ろを振り返る。
柵は無事だ。
家も無事だ。
村の連中は、さっきみたいに猪が目の前まで来る前に、ちゃんと柵の内側へ下がれている。
これなら里の前まで入られる前に、数を減らせる。
カイルもそれが分かったらしい。剣の血を払うより先に、西の道の先を見た。
「まだ来るか」
「来る」
今度は俺も短く返した。
土の揺れが消えていない。
狼も猪もまだ残っている。
だが、その奥にある揺れは別だった。
◇ ◇ ◇
揺れが大きい。
足音の主がでかい。
四つ脚が一歩ずつ近づくたび、細い道の土が小さく跳ねる。狼や猪が走る揺れとは違う。前から押し寄せるんじゃない。一つの大きい塊が、そのままこっちへ来る。
狼型の牙獣が二体、森の縁から飛び出しかけて、そこで止まった。
次の瞬間、左右へ割れる。
道を空けた。
カイルが息を止める音がした。
リーナも木の上で動かない。
西の森の奥、暗い木の間で、低い位置に二つの目が止まった。
距離がある。まだ鑑定は届かない。
さっきまでの群れとは違う。
群れの後ろにいたやつが、ようやく前へ出てきた。
次はこれか。
俺は西の道の真ん中で、前脚を開いた。




