第98話 残す者
中央危機統括局・監査室。
机の上には、無数の記録。
判断ログ。
再評価記録。
音声データ。
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カルドは、その一つを静かに閉じた。
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「問題なし」
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短い言葉。
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隣の監査官が聞く。
「最近、問題減りましたね」
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「減った」
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「いいことですよね?」
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カルドは少しだけ考える。
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「いいことだ」
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「だが」
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少し間を置く。
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「見落としやすくなる」
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静かな警告。
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監査官は頷く。
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「安定は、鈍らせる」
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カルドは端末を操作する。
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ランダム抽出。
複数の判断ログを表示。
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「全部確認する」
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新人の記録もある。
リュカの判断。
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再生する。
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> 北方、限定介入
> 理由:直近損壊あり
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カルドは止める。
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「いい」
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理由がある。
言葉がある。
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それで十分だ。
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ミラが入ってくる。
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「確認終わりました」
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「問題は?」
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「なし」
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カルドは頷く。
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「継続」
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それだけでいい。
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ミラは少しだけ聞く。
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「これで、完成ですか」
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カルドは首を振る。
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「完成はしない」
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「じゃあ、何を守るんですか」
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カルドは、記録を指す。
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「過程」
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「過程?」
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「どう考えて、どう選んだか」
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それが残っていれば、
制度は崩れない。
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ミラは、少しだけ納得する。
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「結果じゃないんですね」
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「結果は変わる」
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「だが過程は残る」
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静かな言葉。
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観測室から、新しい記録が送られてくる。
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小規模揺れ。
判断:見送り。
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カルドはそれを確認する。
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「理由あり」
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短く評価。
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それで十分。
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制度は、結果で守られない。
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判断で守られる。
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そして、その判断を残すのが、
監査の役目だった。
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カルドは立ち上がる。
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「続けるぞ」
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終わりはない。
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だが、それでいい。
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残す者がいる限り、
制度は崩れない。
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思想は、
静かに維持され続ける。
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