第96話 役目の終わり
フォルンの丘。
朝。
風は変わらず、穏やかに流れている。
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アレインは、静かに座っていた。
手元には何もない。
かつては常に持っていた記録帳も、今は開かれていない。
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遠くの都市。
安定した光。
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端末も、ほとんど使わなくなった。
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「……来なくなったな」
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誰に言うでもなく、呟く。
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以前は違った。
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判断に迷えば呼ばれた。
制度に歪みが出れば修正した。
危機が起きれば、中心にいた。
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今は、違う。
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呼ばれない。
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それは、失われたのではない。
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必要なくなっただけだ。
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足音。
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「先生」
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エマがやってくる。
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「おはようございます」
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「おはようございます」
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少しの沈黙。
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「最近、どうですか」
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エマの問い。
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「何もしていません」
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アレインは答える。
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「それでいいんですか」
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エマの声には、少しだけ揺れがある。
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アレインは、ゆっくりと頷く。
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「はい」
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「制度は動いています」
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「判断も行われています」
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「なら」
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少しだけ間を置く。
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「私の役目は終わりです」
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エマは、言葉を失う。
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「……終わり」
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その言葉は、軽くない。
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「寂しくないですか」
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アレインは少し考える。
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「少しだけ」
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正直な答え。
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「でも」
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遠くを見る。
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「安心しています」
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エマは、その横顔を見る。
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かつて、この人がすべてを背負っていた。
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今は違う。
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誰も一人で背負っていない。
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「じゃあ」
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エマが言う。
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「もう、何もしないんですか」
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アレインは、少しだけ笑う。
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「何かあれば考えます」
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「でも」
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「基本は見守る」
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静かな言葉。
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それが今の役目。
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風が吹く。
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遠くで、小さな揺れ。
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観測塔の光が一瞬だけ揺れる。
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アレインは、それを見ない。
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必要ないからだ。
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エマは、その光を見る。
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「……ちゃんと回ってます」
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アレインは頷く。
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「はい」
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それでいい。
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役目は終わった。
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だが、思想は終わらない。
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それが、この制度の完成に一番近い形だった。
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